プレスリリース配信元:公益財団法人交通事故総合分析センター
事業用自動車事故調査報告書を公表
事業用自動車の重大事故の事故原因の調査・分析を行い、提言により事故の再発防止を図ることを目的として設置された、国土交通省の外部委託組織である事業用自動車事故調査委員会(委員長:酒井一博)は、令和4年(2022年)12月4日に静岡県浜松市浜北区で発生した大型乗合バスの追突事故に関する調査報告書を議決しましたので、公表いたします。
本事故は「重要調査対象事故」に該当し、事故原因が事業者の組織的・構造的な問題に起因する可能性があり、同種事故の多発が予測され、早期に有効な再発防止策が必要であることなどを勘案し、事故調査委員会による要因分析及び再発防止策の提言が必要であると判断されました。
【本事故について】
■事故
福岡・東京間を2名乗務で運行する大型乗合バスが、乗客17名を乗せて新東名高速道路の第3車両通行帯を走行中、同車両通行帯を左方にそれ、第2車両通行帯を走行していた大型トラックに追突した。
■事故原因
- 運転者
・体調不良及び速度超過が影響し、適切なハンドル操作ができず、車両通行帯をそれた
・体調不良の際、運行管理者や同乗の先輩運転者に連絡、相談せず自らの判断で運転を継続した
- 事業者・運行管理者
・体調不良時の具体的な対応方法が明確でなかった
・遅れを取戻すためと思われる速度超過が常態化していた
■対策
- 適切な運行管理
・乗務員の健康状態の把握に努める
・定時運行確保のために安全を犠牲にしないよう、運転者への適切な指示
・速度超過等の違反が繰返されることのないよう指示
- 適切な指導監督
・体調不良時に、運転者が躊躇することなく対応できるようマニュアル等を準備
・職場のコミュニケーションスキルの向上
本調査報告書は事業用自動車事故調査委員会によって事業用自動車事故及び事故に伴い発生した被害の原因を調査・分析し、事故の防止と被害の軽減に寄与することを目的として作成しており、事故の責任を問うために行われたものではありません。
今後も事業用自動車事故調査委員会は、交通事故の少ない社会を実現するために活動を続けてまいります。
大型乗合バスの追突事故
ハンドル操作を誤り隣車線の大型トラックに追突
静岡県浜松市浜北区 令和4年12月4日5時53分頃事故概要
福岡・東京間を2名乗務で運行する大型乗合バスが、乗客17名を乗せて新東名高速道路の第3車両通行帯を走行中、同車両通行帯を左方にそれ、第2車両通行帯を走行していた大型トラックに追突した。この事故により、大型乗合バスの運転者及び乗客6名が軽傷を負った他、大型トラックの運転者が軽傷を負った。
事故の状況
大型乗合バスの運転者は、運行途中に腹痛を発症し、体調の回復を図るため運行表にないパーキングエリアで約21分間停車した。
停車した約21分間の遅れを取戻すため、道路工事に伴い第1車両通行帯の車線規制及び50km/hの最高速度規制が実施されていた事故地点の第3車両通行帯を120~124km/hで走行し、同車両通行帯を左方にそれて追突したものと考えられる。

状況図

原因
1.ハンドル操作の誤り
- 道路形状に応じた適切なハンドル操作ができず、車両通行帯をそれたことについては、 前方に対する集中力が低下したことによるものと推定され、その要因として体調不良及び速度超過が影響した可能性が考えられる。
- 腹痛発症時に運行管理者に連絡することなく、気兼ねから同乗の先輩運転者に相談することもなく、自らの判断で運転を継続した。

2.体調不良時マニュアルの未整備
- 運行の停止と報告の指示の規定はあるが、体調不良時の具体的な対応方法が明確でなかった。
- 運行の遅れを取戻すためと思われる速度超過が常態化していたものの是正されていなかった。

【参考】 「言い出しにくい雰囲気」は事故の前兆
これまで公表してきた重大事故について、今回の事故のように運転者が体調不良を訴えられず運転を継続したことにより事故となった事案も少なくありません。平成30年2月15日には、愛知県岡崎市でトラック運転手が、38度を超える発熱にもかかわらず運転を継続したために、信号待ちをしている車列に気づくのが遅れ追突事故が発生しました。体調不良を軽視せず、適切に申告し交代や休息を取ることが、安全確保に不可欠です。
再発防止策
適切な運行管理
- l日頃のコミュニケーションを密にし、乗務員の健康状態の把握に努めること。
- 突発的な遅れが生じた場合、定時運行を確保するために安全を犠牲にすることがないよう、運転者に適切な指示を行うこと。
- 日々の運行記録を確認し、速度超過等の違反が繰返されることのないよう指示すること。
適切な指導監督
- 体調不良時に、運転者が躊躇することなく対応できるようにマニュアル等を準備し、日頃から運転者に理解させること。
- 2名乗務の運行においては、先輩と後輩のような権威勾配が障害となることがないよう、職場のコミュニケーションスキルの向上に取組むこと。
事業用自動車事故調査委員会について
「事業用自動車事故調査委員会」は、平成26年 (2014年) 6月24日に設立された事業用自動車が関わる重大事故について、その原因を分析し、再発防止策を提言するための事故調査機関。
概要
- 人間工学、労働科学、健康医学、自動車工学、交通工学、道路工学などの専門知識を有する者で構成
- 毎年4回開催し、報告書について審議

【委員会の様子】

【調査事例】軽井沢スキーバス事故※ 国土交通省ウェブサイトから

【公表の状況】特別重要調査対象事故:19件重要調査対象事故:46件
経緯
社会的影響の大きな事業用自動車の重大事故については、事故の背景にある組織的・構造的問題の更なる解明を図るなど、より高度かつ複合的な事故要因の調査分析と、客観性のあるより質の高い再発防止策の提言を得ることが求められている。
国土交通省は平成26年(2014年)6月、(公財)交通事故総合分析センターを事務局として、各分野の専門家から構成される「事業用自動車事故調査委員会」を設置し、事業用自動車の重大事故について事故要因の調査分析を行っている。
事故調査の流れ

事業用自動車事故調査委員会委員名簿
- 酒井 一博
公益財団法人大原記念労働科学研究所主管研究員
- 今井 猛嘉
法政大学法科大学院 教授、弁護士
- 小田切 優子
東京医科大学医学部医学科公衆衛生学分野 講師
- 春日 伸予
芝浦工業大学 名誉教授
- 久保田 尚
埼玉大学大学院 理工学研究科 名誉教授、日本大学 客員教授
- 首藤 由紀
株式会社社会安全研究所代表取締役 所長
- 吉田 裕
関西大学社会安全学部 教授
- 廣瀬 敏也
芝浦工業大学工学部 教授
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