パレスチナ自治区ガザではイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続き、支援物資の搬入が3月に停止されるなど、その後も極めて不安定な状況だ。ガザ地区で活動していた「国境なき医師団」の村元菜穂さんは7月末には病院が機能を停止し、飲み水の提供もできなくなる可能性があると懸念を示した。

40度の暑さの中…7月末には飲み水なくなる危機も

村元さんは、5月20日から7月3日まで物流などの管理を担当するチームのリーダーとして、ガザ南部のナセル病院のほか、中部などでも活動し、医療施設や水道の維持、物資の調達、安全管理などを行っていた。

村元さんはガザ地区から移動したフランスでFNNのオンライン取材に応じてくれた。

フランスでオンライン取材に応じる村元さん
フランスでオンライン取材に応じる村元さん
この記事の画像(9枚)

――ガザ地区への支援物資の搬入が制限されているなか、病院の状況は?
村元菜穂さん:

医療品は全く足りていません。物資も3月2日から封鎖されていて、私がいた6週間の中では4台のトラックしか入ってきませんでした。それも医療品のみで他の物質は何も入っておらず、燃料が足りない状況でした。今、ガザでは電気は通っていないので、病院で何を動かすにも発電機で動かしている状態なので、燃料が足りなくなると病院を動かすことができません。

燃料は発電機や車、そして海水を飲み水に変える機械に使っています。患者さんへの飲み水のほか病院の周りにいる方々にも無料で水を配布していますが、機械が動かなくなると飲み水がなくなる。水はやっぱり一番生きるために必要なもので、今、ガザ地区では暑さが40度近くまで上がっていて水がない状況は健康に大きな影響を与えることになります。

MSF提供:ガザ北部で給水を受ける市民
MSF提供:ガザ北部で給水を受ける市民

村元さんは「このまま続けば、在庫は2週間。診療所も閉めなきゃいけないですし、海水を飲み水に変える機械をシャットダウンしないといけない。すると何千という方々の飲み水がなくなります。7月を越えられるのか分かりません」と危機感をあらわにした。

イスラエル軍はドローンで監視…医療施設も標的に

――イスラエル軍の攻撃で身の危険を感じたことは?
村元菜穂さん:

私たちが支援している場所は、一応、イスラエル軍も把握しているという話ですが、毎日のように空爆は聞こえていましたし、ドローンで上空から監視はされていました。

MSF提供:ガザ中部のオフィスでネコに癒される村元さん
MSF提供:ガザ中部のオフィスでネコに癒される村元さん

私がいた診療所でも近くで強い空爆が一度、ありました。空爆で私たちの診療所の窓が割れたり、ドアが開かなくなったり、職場の近くにあった木が吹っ飛んで、私たちの倉庫に、屋根に落ちたりして、診療所は中断せずにそのまま稼働していたんですが、診療所も病院も標的になっていて、治療の継続が難しくなっている状況だと思います。

スイカ1玉6600円と超高額に ガスはなく薪を燃やして生活

――支援物資が限られる中、ガザ市民の生活は?
村元菜穂さん:

現地スタッフで給料をもらっている方々でも一日に一食しか、食べられない状況です。1回、40度近くある中、スタッフが働いていたので市場で何かを買ってきてほしいと頼んだのですが、その時に買ってきたのがスイカ1玉、40ドルか45ドル(約6600円)くらいでした。市民が手を出せる金額ではありません。

MSF提供;村元さんとガザ在住のスタッフ
MSF提供;村元さんとガザ在住のスタッフ

現金で支払わないといけないのですが、現金も出回らなくなってきているので、毎日、スタッフは次に何を食べ、今度、自分の子供たちに食べさせることができるのか、何を食べられるのか、不安です。料理をするにも前はガスがあったんですけれども、今、ガスがないので、薪を買って料理をしたり、ほとんどの方がテントに住んでいる状況です。

撃たれると分かっていても…毎日、何千人も食料を取りに行く

アメリカとイスラエルが主導する人道支援団体「ガザ人道財団」をめぐっては国連機関が7月15日、援助地点などで少なくとも674人の殺害が確認されたと発表した。イスラエルはハマスに支援物資が渡らないための措置と主張しているが、国際社会から批判の声が上がっている。

「ガザ人道財団」のHPより 支援物資を提供する様子
「ガザ人道財団」のHPより 支援物資を提供する様子

村元菜穂さん:
ガザ人道財団が食料を渡している場所が危険な退避要求場所です。そこでいつ開くか、わからない状況で、多分、夜中から待っていて、ちょっとでも動いたりすると射撃されることがあるという状況です。

さらに村元さんは「この支援システムは、国境なき医師団としては非人道的であり、支援を紛争の道具としているとしか思えません」と訴える。

MSF提供:村元さんは医療施設の維持、物資の管理などを担当
MSF提供:村元さんは医療施設の維持、物資の管理などを担当

村元菜穂さん:
私は最初「撃たれる、死ぬ」って分かっているんだったら、市民はガザ人道財団の支援場所に行かなくなるだろうと思っていたんですけど、それでも毎日毎日、何千っていう方々が食料を取りに行こうとする。飢えで死ぬのか。危険を冒してでも小麦粉をもらいに行って、自分の子供や妹とかにご飯を与えられることができるか、二択っていう感じになっています。

少女は私たちに「戦争を終わらせて欲しい」と訴えてくる

村元さんは「ガザの市民はハマス・イスラエルとかじゃなくて、停戦を求めています。彼らは何も悪いことはしていないなか、毎日、空爆に怯えながら過ごしている。ただ普通に生きたい、それだけだと思います」と話す。

MSF提供:ガザ北部のがれきの中を歩く親子
MSF提供:ガザ北部のがれきの中を歩く親子

村元菜穂さん:
診療所にいて10歳くらいの女の子が近寄ってきてずっと訴えかけてきたんです。ボロボロのサンダルをはいて、ボロボロの洋服を着て、見るからにご飯も食べていない。私は最初、お金が欲しいとかご飯をちょうだいって、言っているのかと思ったんですが、「早く戦争を終えて欲しい」と、目を見て、まっすぐにそう、私に言ってきたんです」

ガザの人で家族や身内を亡くしていない人は多分いないと思います。そんな中でも1年半過ごしてきています。ドローンの攻撃で子供だろうが女性だろうが武器を持っていなくても撃たれる。人間として扱われていない、そんな状況がこのままでいいとは思いません。

日本人にガザで起こっていることに関心を持って欲しい

イスラエルとハマスの停戦協議は続いている。しかし、ハマスはイスラエル軍のガザ地区からの完全撤退と恒久的な停戦を求めているのに対し、イスラエルは撤退は一部のみ、また停戦も一時的なものだとする主張を変えておらず、合意の見通しは立っていない。

こうしたなかイスラエルはハマスから譲歩を引き出すため、ガザ全域で攻勢を強めていて、市民の犠牲者が日々、増え続けている状況だ。

村元さんは日本人にガザで起きている事に関心を持って欲しいと訴えた。

村元さんは日本を含む国際社会に関心を持って欲しいと訴える
村元さんは日本を含む国際社会に関心を持って欲しいと訴える

村元菜穂さん:
今、ガザ地区でイスラエル軍が行っている殺害は、国境なき医師団、私としてもジェノサイドと言えると思います。このまま国際社会が見逃すことができないと思います。

日本の皆さんには、ガザで起きていることが遠いことではなく、本当に起きていることだと信じていただきたいです。毎日、空爆で亡くなっている人たちがいるということ。明日、隣で寝ている妹や子供が生きているかどうか、分からない。何の保証もないという現実。日本の皆さんがガザに関心を持つこと、それだけでも小さなステップになると思っています。

【取材・執筆=フジテレビ イスタンブール支局 加藤崇】

加藤崇
加藤崇