福岡市中心部の住宅街に隣接する造船所で、全長146メートルの「タンカー」の進水式が一般公開され、約1200人の見物客で賑わった。目当ては、街中の造船所という珍しい立地だからこそ撮影できる迫力の映像。工場内部の様子と進水式の舞台裏に密着した。
“住宅に迫る”巨大タンカー撮れる
福岡市天神から車でわずか10分余りの場所に位置する「福岡造船」。6月14日。この日は、早朝から県内外から約1200人が集まり、長い列を作った。目当ては、一般公開されるタンカーの進水式だ。

今回の船は、全長146メートル・高さ13メートルと石油などを運ぶ大型タンカーと比べ“小ぶり”だが、住宅に隣接する街中で見ると、巨大な船が、まるで家の真上に迫り来るような異様な光景に映る。正に、この景色を写真や動画におさめられると、SNSで話題になっているのだ。

巨大なタンカーは、そぐ側を走る福岡都市高速からも見ることができ、船や車が行き交う光景は、福岡市の都市景観賞にも輝いている。

技術力が詰まった「福岡造船」内部
進水式の10日前。取材班は、テレビメディアとして初めて、福岡造船の工場内部での撮影を許された。まず、訪れたのが、「ブロック」と呼ばれる船のパーツを造る「船殻工場」。

タンカーの製造とあって、部品の1つ1つがかなり大きい。この巨大なブロックをどうやって運び出すのか?「福岡造船福岡工場」の久恒勝平さんに尋ねると、「工場内の屋根が開き、そこからブロックを出して、船を造る台に出す」とのこと。

ボタン1つで工場の屋根が自在に開閉する仕組みになっていた。

ブロックをクレーンで運び出し、数カ月かけて100パーツほどを組み合わせることで、船の形ができあがる。

これまでに約140隻の船を製造してきたこの工場。こうして造られるタンカーはもちろん、タンカー用の鎖や錨も想像以上の大きさだ。

記者が驚いていると、「福岡造船福岡工場」の川嶋隆誠さんが、「この船が動かないようにするものなので、それなりに大きい。進水式の時も注目してもらいたいが、このアンカー(錨)を進水中に海に降ろして勢いを止めます」と説明した。

主力は化学薬品など運ぶタンカー
その後、製造中のタンカーの上へ移動し、船の一番高いデッキから船を見回すと、“迷路のような配管”が目についた。

「ヨーロッパの船主様に造っている『ステンレスケミカルタンカー』という船になります」と川嶋さん。化学薬品などを運ぶ専用のタンカーだという。1隻あたり1万本以上もの配管が使われ、その設計には、高度な技術力が求められる。

「福岡造船は、50年くらい前に、日本で初めてステンレスケミカルタンカーを造り、そこからコンスタントに何隻も建造していくうちに技術力や信頼を獲得することができて、今、主力として建造できている」と川嶋さんは、胸を張る。

30秒の「進水式」今や“イベント”
そして迎えた進水式当日。早朝から1万9000トンの船を陸から海に滑らせるための準備が進む。「盤木(ばんぎ)」という土台を外すと、いよいよ準備完了。

進水主任の「進水準備完了!」の合図でベルが鳴り響き、レバーが倒されると、いよいよ、進水開始。

軍艦マーチが流れ、くす玉が割れる中、巨大なタンカーが滑るように海中に進んでいった。タンカーが動き出して海に浮かぶまでは、わずか30秒ほど。

対岸まで、わずか400メートルほどしかないため、すぐに錨を降ろして船のスピードを弱めたり、事前に準備された小さな船を使でタンカーの向きを変えたりと、街中の港ならではの工夫が凝らされていた。

「進水方式という工場が、今では多くないみたいで、珍しいイベントになっている」と川嶋さん。集まった見物客も「かっこ良かった!」「初めて見たけど、楽しくて…凄かった」と迫力満点の進水式を堪能していた。

川嶋さんは、「地域の人のお蔭で、街中のこの場所で船が造れているので、一緒に見てもらい、一緒に船を造っている思いになって貰えたら」と進水式を一般公開する意味を強調した。

多くの人に見守られながら初めて海に入った福岡生まれのタンカー。これから海上でエンジンなどを整備し、秋には、ヨーロッパの発注元に引き渡される予定だ。

福岡造船では、年間に約4隻が建造されおり、今後も進水式は一般公開する予定だ。
(テレビ西日本)