塩の香りとやさしい湯ざわり。
広島・江田島市の温泉宿「江田島荘」が、格式高い「日本秘湯を守る会」へ県内初加盟を果たした。希少な泉質と市民の熱意が生んだ“本物の湯宿”。その湯に込められた思いを取材した。

江田島の湯宿が“秘湯”の仲間入り

「気持ちがええよ。あんたも入りんさい!」
肩まで湯に浸かりながらそう話すのは、「えたじま温泉」を愛する市民。心と体がほどけていくようなやさしい湯ざわりは、地元の人々や宿泊客の疲れを癒やしている。

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江田島荘は、市が建設費用の一部を補助して2021年にオープン。島の観光振興の拠点として大きな期待がかかる中、2024年10月には“ホテル業界のアカデミー賞”とも呼ばれる「ワールドラグジュアリーホテルアワード」を中国地方で初めて受賞した。
そして今回、温泉ファンの憧れともいえる「日本秘湯を守る会」に加盟。広島県内では初となる快挙である。

「日本秘湯を守る会」のちょうちんを掲げる阿部総支配人
「日本秘湯を守る会」のちょうちんを掲げる阿部総支配人

江田島荘の阿部直樹総支配人が誇らしげに見せるのは、“秘湯の証”とされる「日本秘湯を守る会」のちょうちん。
「これは加盟宿が必ず掲げるちょうちんなんです」

半世紀以上の歴史を持つ「日本秘湯を守る会」は、厳しい審査基準をクリアした宿だけが加盟を許される会員組織。全国に1万軒以上ある温泉宿のうち、加盟しているのはわずか100軒あまり。温泉愛好家の中には加盟宿だけを選んで旅をする人もいるほどだ。

源泉は古代「白亜紀」の地層から

「この泉質は、専門家から見ても全国的にまれ。江田島の大地が生んだ温泉を、世界に発信したい」と意気込む阿部総支配人。
その温泉とは、一体どのようなものなのか。

えたじま温泉は地下1700メートルから湧き出る「化石海水型温泉」と考えられている。
約1億2000万年前、白亜紀の地層に閉じ込められた古代の海水が、今になって地上に姿を現したのだ。この解明には海外の研究機関での分析が必要とされており、今後の研究に期待が高まる。

一般的に「温泉」と名乗るには、19種類ある成分のうち1つでも温泉法の基準値を超えればよいが、えたじま温泉はその成分濃度が基準値の約26倍。主成分の塩化ナトリウムに加え、ラドンも多く含む。
湯上がりの肌はしっとり、それでいてさっぱりとした感触。希少な泉質と、市民を中心とした温かなおもてなしが評価され、今回の加盟につながった。

「有名になったらええね!そりゃ、有名になったら客が増えるし」
地元の常連客は秘湯としての認知が広がることを心から願っている。
江田島市も「市の観光拠点である江田島荘が、本物の温泉宿としての評価をいただき大変誇りに思う。今後も地域一丸となって島の新たな価値創造を進めていきたい」とコメントを寄せた。

江田島荘では、知ってもらうきっかけを増やすために、宿の源泉を再現した入浴剤を開発中。また、温泉の魅力を伝える冊子づくりにも取り組む予定だという。
江田島の大地と人が育んできた「えたじま温泉」。秘湯のちょうちんが灯る夜、湯けむりの向こうに島の希望が広がっている。

(テレビ新広島)

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