2025年5月、3本目の滑走路の着工が本格的にスタートした成田空港が、「第二の開港」といわれるほど、大きく変わろうとしている。
新しい成田空港とはどのようなイメージなのか?国土交通省の航空局長や観光庁長官を歴任しており世界の航空産業に精通し、観光による地域活性に詳しい成田国際空港会社の田村明比古社長に聞いた。
「第二の開港」変わる滑走路とターミナル
成田国際空港会社 田村明比古社長:
成田空港の発展に関ってこられた先人たちのおかげで、新しい滑走路整備工事に着手することができました。空港の面積が2倍近くなるので新しい空港をつくるのと同じです。
滑走路とともに変わるのが、ターミナルだ。

現在、第1から第3まで3つに分かれているターミナルを1つに集約する「ワンターミナル」として大きく生まれ変わる。
「ワンターミナル」方式が採用される理由は、ハブ空港として乗り継ぎの効率化がはかれるためだ。
近年、異なるアライアンスの航空会社がグループを越えて乗り継ぎをはじめるなど、ニーズが多様化し、分散したターミナルでは効率性が担保できなくなりつつある。
また、出入国管理などの面でも、1か所に集約することで設備や機能の効率性・生産性が向上し、人手不足への対策や省エネ、脱炭素にもつながる。
新しいターミナルのコンセプトはワクワク感のある空間だと田村社長は言う。

成田国際空港会社 田村明比古社長:
現在成田空港の1日あたりの旅客数は10数万人で、そのうちの8割近くが外国の方たちです。日本と最初に出会う場所であり、最後に別れを告げる場所として日本や成田の魅力をターミナル等で表現していきたいと思っています。ターミナル内にいる間にエンターテイメントを楽しめるなど、ワクワクするようなものも提供していきます。
また、田村社長は世界の空港での成功事例の1つとしてシンガポール・チャンギ国際空港の名前をあげた。

チャンギ国際空港といえば、空港内のガラス張りの緑園も面白いが、なんといっても商業施設の充実ぶりだろう。高級ブランド、電子機器のほか、世界各国の料理と本格的なローカル料理など、500店以上の店舗と飲食店が楽しませてくれる。
地域の人が楽しめる空港に…
商業施設の利用者のうち7割が地元の人たちだということで、成田空港も地域の人が楽しめる空港を目指す。
成田空港と千葉県や空港周辺市町村は空港を核として地域の産業を発展させる「エアポートシティー(仮称)」実現のため新組織を開設した。
空港の機能強化によってうまれる経済効果を地域に波及させるのが狙いで空港周辺に、ハイテク産業や観光、住宅などの開発を進めていくとしている。

田村社長は「千葉県は、インバウンド1人あたりの都道府県別消費単価が日本で2番目に低いんです。成田や佐原、銚子などには江戸情緒が残る街並みがあるものの、観光資源としてあまり活用できていません。空港にとっても地域産業が活性化すれば、その需要が恩恵をもたらします。また、成田は世界の空港のなかでも珍しく空港周辺に農業が発達しています。スマート農業 生産性の高い農業を海外に輸出していきたいです」と意欲を述べた。
また、成田空港は日本最大の貿易港としての役割も果たしている。
「成田空港は、貨物の重量・金額ともに日本全体の約7割を担っています。世界においてもベスト10に入る重要な貿易港です。これは、世界の貿易取引市場がアジア・太平洋間が大きいためであり、成田は北米からみればアジアの玄関口、東南アジアからみると出口にあたります。さらに日本の首都圏は世界最大の都市圏でもあり、ハブ空港としての魅力は十分にあります。しかし、アジアの他の空港も最先端技術や設備投資などで差を縮めてきているため、成田も貨物ターミナルに最先端技術を取り入れていきます」と田村社長は作業の効率化のため設備投資を積極的にしていくとしている。
空港へのアクセスも拡充へ
空港へのアクセスも飛躍的に充実する予定だ。

圏央道の最後の区間、千葉県の松尾横芝ICから大栄JCTまでの約18キロが2026年度に開通する予定で 、東京湾アクアラインや房総半島方面から成田空港が結ばれ、関東一円から空港への高速道路網が完成する。
新しいインターチェンジの整備も新滑走路の近くに検討されている。
鉄道では、成田エクスプレスや京成ライナーの都心側へのアクセス性を高めることが大きな課題だ。
現在の空港駅は構造上、増便が難しいためターミナルが新たに作られるタイミングで、空港駅をつくり直すほか、空港周辺の単線区間解消をはじめ都心方面への利便性向上を目指す。
最後に重要なのは、最先端技術を旅客や空港職員にとって効果が十分発揮できるように導入することだ。海外ではICT技術で、入国審査や搭乗手続きを一元化し手続き全体を簡素化、円滑化する空港が増えている。
また、空港内を走る車や搭乗橋など各種設備の自動化・無人化も実用段階に来ている。
だが、国内では独自のルールの存在や官民連携の遅れなどから導入が滞っている。「第二の開港」にむけて、関係各所が連携して、世界トップレベルの空港の誕生を願っている。
【取材・執筆=フジテレビ社会部 大塚隆広】