沖縄県名護市辺野古沖で修学旅行中の生徒らを乗せた抗議船が転覆し、女子生徒ら2人が死亡した事故を受け、文部科学省は5月22日、学校の対応が教育基本法に反するとして是正を指導した。国がこのような見解を初めて示したことに賛否が分かれる中、専門家は「萎縮する必要はない」と語り、平和学習の「あるべき姿」を探求するための材料として捉えるよう訴える。鹿児島県内で平和学習に携わる現場は、一連の動きをどのように受け止めているのか。
「偏りがあった」――文科省の是正指導、専門家はどう見るか
文部科学省は今回、同志社国際高校に対し「特定の考え方に偏った取り扱い」があったとして、教育基本法違反との見解を初めて示した。
この見解について、憲法や法教育を専門とする鹿児島大学の渡邊弘准教授は、まず事故そのものへの思いを口にした。
「心から深い哀悼の意を表したい。二度とこういう事故が起こらないようにするのが教育に携わる者の責務だと強く感じる」
その上で、文科省の指導の内容を丁寧に整理する。教育の「内容」について文科省が意見を述べることは避けるべきだとしながらも、「様々な見解を提示することが必要」という教育の「方法」に関する指摘については、一定の妥当性を認めた。
「文科省の報告書を読むと、教育内容については触れないようにという配慮が見られる。一方の立場の人の話だけ、その人たちが見せたいものを見るだけによって平和学習が終わるかということは、文科省の指摘通り『偏りがあった』と言わざるを得ない」
「生徒には思想の自由がある」――平和教育が大切にすべきもの
渡邊准教授は高校教師として働いていた経験も持つ。長崎県で原爆に関する平和学習を実施する際には、被爆者の証言を聞くとともに、核抑止論についても提示していたという。
「生徒には憲法で保障された思想の自由があるので、思想の自由を教師が侵すことがあってはならない。まんべんなく色々な立場の材料を生徒に与えて、生徒が自分で自分の考え方を作り上げていく。そのプロセスを持つのが平和教育としては大事だ」
多様な視点を示し、生徒自身が考え、判断する力を育てること。それが渡邊准教授の考える平和教育の核心だ。
そして今の教育現場に向けて、力強くこう訴えた。
「鹿児島県では知覧特攻平和会館など、平和教育の現場の場所がたくさんある。これまで鹿児島県の先生方もそれを生かしながら平和教育に対して努力をしてきたと思う。これまでのやり方をさらにバージョンアップするための一つの材料として今回の文科省の報告書を捉えたらいい。萎縮するのではなくて、これを機に本来あるべき平和学習の姿を先生方が探求していく方向に持っていくべきだ」

「史実をお伝えするのが一番の役割」――知覧の現場に立つガイドの思い
太平洋戦争末期、旧陸軍の特攻基地があった南九州市知覧町。南九州市観光協会では、基地跡周辺の戦跡を修学旅行の生徒らに案内する観光ガイドを行っており、2025年度は全国から訪れた約4500人に平和学習の案内をした。
観光ガイドを務める山下つきみさんは、辺野古の事故を「本当に痛ましい事故だと思った」と語る。
今回、文科省が教育基本法違反を認定したことについては、「非常に難しいことだと思っている」としながらも、自身の活動への影響については落ち着いた見方を示した。
「個人的には、今後それを不安に思ったり、懸念材料にはならないと思う。ここはただ(特攻の)史実をお伝えするのが私たちの一番の役割だと思っているので」
そして、これからの活動についてこう言い切った。
「これから大変だな、心配だなとは私的には持ってはいない。これまでと同様にやっていくということに尽きると思う」
問い直される平和学習の「あるべき姿」
今回の文科省の是正指導は、国が学校教育の内容に初めて踏み込んだという点で、教育界に大きな波紋を広げた。一方で、渡邊准教授が強調するように、この動きを「萎縮」につなげるのではなく、平和学習の質を高める契機として捉える視点も確かに存在する。
知覧で淡々と史実を伝え続ける山下さんの姿勢もまた、平和学習の一つの形を示している。特攻隊員たちの記録と向き合いながら、事実をそのまま届けること――それ自体が、生徒たちの思考を促す出発点となり得る。
辺野古の事故で2人の命が失われたことを重く受け止めながら、教育現場は今、「どのように平和を伝えるか」という問いと改めて向き合っている。
