端本悟元死刑囚のアリバイ

端本は既に95年3月ユーゴスラビアを後にし、ロシア経由で早川と一緒に3月22日帰国した。帰国便の機内でビジネスクラスに乗っていた早川は隣の座席が空いていたのでエコノミーに座っていた端本の席を隣に移してやったという。
2人は機内で長時間話し込んだと言われている。

オウムへの一斉捜査が始まり端本は逃走していたが、95年7月、潜伏していた埼玉県内で逮捕される。

逮捕後の取り調べで、長官事件当日のアリバイについて端本は当時交際していた「オウムシスターズ」と呼ばれた美人4姉妹の1人、小島貴理子(仮名)と一緒にいたと話した。「3月29日に杉並区阿佐ケ谷のホテルに泊まって、30日の長官事件についてはホテルのテレビを観て知った」と供述している。

オウム真理教の阿佐ヶ谷道場 1995年
オウム真理教の阿佐ヶ谷道場 1995年

しかし小島は「泊ったのは30日でした。その日のことはよく覚えています。彼は何か思い詰めた様子で口数が少なかったんです。翌朝になって彼が乗ってきた軽トラックで阿佐ケ谷道場まで送ってくれました」と話し端本の供述を否定する。

特捜本部は、端本と小島が宿泊したと供述した杉並区阿佐ケ谷のホテルに向かい裏付け捜査を行う。するとホテルのチェックイン記録は3月30日午後であることが判明した。2人が宿泊したのは事件後だったのである。

端本悟と目撃情報の共通点

犯行当日のアリバイがないことで俄に端本にフォーカスしていった特捜本部は、犯行当日に犯人らしき男を見たという住民の目撃情報に立ち返る。

端本悟は事件当時28歳、身長174センチ体重68キロである。

目撃情報Aは事件発生の直前、上野にあるジュエリー会社常務の春田浩一によるもので、午前8時25分にアクロシティFポートの自宅を出た際に3メートルくらいの距離で目撃した不審な男は身長175センチ前後だったという。

身長160センチほどの春田が「見上げた感じがした」として高身長で若い印象を受けたと話した。

目撃情報Bにある銃撃犯そのものを目撃したアクロシティBポート3階の篠田光子は、犯人は細身ですらっとしてフランス映画に出てくるような動きだったと証言している。

また目撃情報Cでは、事件直前の午前8時25分ごろBポートに住む男性が出勤のためEポートとFポートの間を通り過ぎたところ、飾り窓越しに黒っぽいコートで帽子を被った男がいて、2~3メートルの距離で男と通り過ぎた。身長は175センチくらいで体形はふつうの体格だったと証言している。いずれも身長は175センチから180センチと高身長ですらっとした体形だったという。

さらに事件前日の3月29日の朝、現場近くで停車していた会社役員の車の運転手に「長官の車ですか?」と話しかけた不審者(目撃情報G)についても30代くらいでメガネをかけ白っぽいコートを着た男が目撃されているほか、29日午後7時15分ごろには、南千住警察署長の公舎の敷地内をのぞき込んでいた男がいたという不審者情報(目撃情報J)が寄せられている。

男の年齢は28歳くらい、身長178センチ、痩せた細身で、髪は少し長めでボサボサ、顔は色白、髭は何日か剃っていない感じのうっすら生えた無精髭が、右ほほから顎にかけて青っぽく生えていたそうだ。該当しそうな人物の写真を捜査員から見せられたこの目撃者は、男が端本悟であったと証言している。