その理由を尋ねるとダルビッシュは「良い投球をするためには、同じ動きを繰り返しても、脳はそれに飽きてしまう。そうしたとき、違う動きをすると初めて改善するという感覚があるから」と教えてくれました。

投球間にボールを放り投げるのと同じ理屈ですが、ほとんどの人は考えもつかないことです。そもそも通常、ピッチングやメカニクスは、何度も繰り返していくことで良くするのが王道です。

ところが、ダルビッシュは「別の動きをすることで良くできる」と、自身で発見していたのです。

並の投手とは別次元に考えることができるから到達したのでしょう。こうしたハイレベルな思考能力も、ダルビッシュを敬愛してやまない部分です。

大舞台でも「緊張しない」メンタルの強さ

一般的に言う“メンタル”の強さという面でも、別次元だと思います(ダルビッシュは、メンタルも技術とみなしています)。

2024年のポストシーズンでは、パドレスと同じカリフォルニア州でナショナル・リーグ西地区にあるドジャースとのライバル対決がありました。

両チームのファンによる応援の熱量に驚いた日本のファンも多かったと聞きますが、ダルビッシュはMLB特有の大舞台での熱狂的な雰囲気にも「全く緊張しない」と明かして、ファンを驚かせたそうです。

私はその根底にあるのは、彼の考え方にあると思います。彼は以前こうも言っていました。

「マウンドで僕がコントロールできるのは、この一球だけ。このボールが手から離れたら、もうどうしようもない。思うように行かないこともあるけれど、僕ができるのは、監督が僕の手からボールを取り上げるまで、ひたすら目の前の一球に注力して、投げ続けるだけだ」

言うまでもなく、彼はマウンドに立つまでに可能な限りの準備をしてきています。後は全力で投球するのみという境地に達しているのでしょう。

『ピッチングニンジャの投手論』(扶桑社)
ロブ・フリードマン
ロブ・フリードマン

日米で大人気のMLB公式アナリスト