自民党総裁の石破首相と、公明党の斉藤代表、日本維新の会の吉村代表が25日、国会内で会談し、教育無償化と社会保険料引き下げの方針と来年度予算案の早期成立に関する合意文書に署名した。

これにより、与党過半数割れにより危ぶまれていた来年度予算案は、修正しての成立が確実になったが、この3党首会談には、3つの異変が見て取れた。

そのキーワードは「部屋」「視線」「予算」。そこからは今回の合意が何度も修正を加えた上でのガラス細工だったことと、今後の政局に向けた思惑が窺える。

いつもの「常任委員長室」ではなく「講堂」で開催

今回の会談で、真っ先に目を引いたのが、会談場所だった。この党首会談は参議院議員会館1階の「講堂」という広い部屋で行われた。

党首会談と言えばこれまで、首相と党首という位置付けの場合は首相官邸で、党首同士の対等の立場の場合は国会議事堂本館の3階にある「常任委員長室」という部屋で行われてきた。

常任委員長室で行われた石破首相と維新・前原共同代表
常任委員長室で行われた石破首相と維新・前原共同代表
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今回は通常なら常任委員長室で行われるのに相応しい。この部屋は議事堂の中央に位置し、皇居側を望む、格式の高い歴史ある部屋だ。

一方で、今回の開催場所となった参院の講堂は、参院議員の事務所が入る議員会館の中にある広い部屋で、設備は比較的新しいが、重要会談に使う例はほとんどない。

では、なぜこの部屋で行われることになったかを取材すると、維新の吉村代表の強い意向があったことがわかった。

吉村代表“こだわり”の講堂で署名 2月25日
吉村代表“こだわり”の講堂で署名 2月25日

吉村氏としては、常任委員長室には“いかにも国会”という椅子や調度品が整えてあり、豪華にみえる“よくある国会の部屋”で会談するよりも、事務的な会議室のような場所で署名を行いたかったようだ。

そこからは、これまでの永田町的な党首間の合意と一線を画し、教育無償化と社会保険料引き下げを実務的に実現するための党首合意にしたいという意図が読み取れる。

とにかく広かった今回の会場 2月25日
とにかく広かった今回の会場 2月25日

講堂は常任委員長室より遙かに広いため、各党の党首・幹事長・政調会長が3人ずつ横に並んで座るという見慣れない光景になり、結果的にいつもと違ってより目立つ形になった感もある署名式となった。

石破首相は紙を見ながらコメント

そして会談では、署名を終えた3党首がそれぞれ挨拶を述べたが、石破首相の様子にいつもと違う点があった。それが視線だ。

あいさつの中で石破首相は、協議を行った3党の実務者に感謝を述べ、合意した教育無償化と社会保障改革の概要に触れた上で「与野党の建設的な協議の合意は、我が国の国会のあり方としても、非常に意義深いものであり、我々自由民主党としては、合意事項の実現に向け、責任と誠意を持って対応してまいります」と述べた。
この間、石破首相の視線は、ほぼ下を向いていた。

手元の紙に目を落とす事が多かった 2月25日
手元の紙に目を落とす事が多かった 2月25日

石破首相と言えば、これまでの経験や思いと信念を元に自身で言葉を紡ぐのが持ち味だが、この挨拶では、ほとんどの場面で手元の紙に目を落とし、用意された文章を読むのに徹した。

とりわけ、教育無償化と社会保険料改革の合意内容についての部分では顕著だった。

これについて関係者は、合意文書の文言が精緻に詰められたものだったから、石破首相も言い間違いが許されず、紙に書かれた文言の通りに読むことに徹したのではと解説している。

合意の文言は相当つめられたものだった
合意の文言は相当つめられたものだった

確かに、今回の合意文書は、自公と維新の間で何度も修正を加えまとめたものだった。特に、政調会長の間でまとまりかけたものを、弁護士でもある吉村代表が、自ら表現の細部に手を入れて変更させ、あいまいな表現を排除するなどを徹底して出来あがったものだ。

例えば、私立高への就学支援金の加算額は当初、石破首相が国会で表明したとおり「45万7000円をベース」とされていたが、吉村代表が「ベース」を削除し「45万7000円」とさせたという。「ベース」とした方が、維新が求めるさらなる上積みを目指せる数字だと言えるが、吉村代表は、あいまいな表現だけに引き下げられる余地もあるとみたのか、額を確定させることにこだわったようだ。

それだけ自民党としても、曖昧な表現をちりばめることで、今後の協議で方針を調整する余地を残したかった思惑があったことも窺える。

とはいえ「事実上」「念頭」などの言葉は今回の合意文書にも残っており、石破首相も様々な表現を言い間違えないように注意したとみられる。今後の3党の協議、とりわけ社会保険料引き下げの協議の難航を予兆するものとも言えそうだ。

教育無償化の「核」が盛り込まれる2026年度予算案に維新の対応は?

一方、吉村代表は署名後のあいさつで、「政党で重要なことは、公約を実行することだと思う」と述べ、「日本維新の会はこれからも公約を実行する。あくまでも政党は手段であるということを肝に銘じて、少しでも社会を変える有権者との約束を守る、それに向けて進めていきたい」と強調した。

しかし、予算案に賛成することについては、この場で言及しなかった。

多数の記者とカメラに囲まれた吉村代表
多数の記者とカメラに囲まれた吉村代表

合意文書にも予算案の早期成立は盛り込まれているのだが、吉村代表は、得た成果を強調することに徹したのだ。その後の記者会見で吉村代表は予算案に賛成する意義について問われ、「これは野党としても責任を持つということになる。今回この我々の公約を実現する、社会を変える。教育そして社会保障の分野で大きく前進することになる。ですのでこの本予算についても賛成して、全体を前に進めるということになる」と述べた。

そして維新が自民党・公明党との連立政権に加わる可能性については「その可能性はありません」と否定した。

さらに吉村代表は、26日夜のBSフジ「プライムニュース」で、2026年度予算への賛否について問われ、明言を避けた。

就学支援金の加算や給食の無償化は2026年度から実施予定 資料映像
就学支援金の加算や給食の無償化は2026年度から実施予定 資料映像

実は、今回の合意の核である私立高校への就学支援金の加算や小学校給食の無償化は26年度から実施することになっており、26年度予算案にこれが盛り込まれたならば、反対すると矛盾が生じてしまうことになる。

確かに現時点で1年後に審議される来年度予算の賛否を明言する必要はないが、与党から見れば、来年度予算案に維新の賛成を取り付けるための装置を埋め込んだ形にもなる。維新の今後の与党との距離感は、より難しいものになる可能性がある。

国民民主からは「連立合意文書に見える」との皮肉も
国民民主からは「連立合意文書に見える」との皮肉も

こうしたことを見透かしてか、国民民主党の古川代表代行は26日の記者会見で、与党と維新の合意文書について「合意文書を見ると個別具体なものではなくて広範な分野についての合意で、具体的なことはほとんどこれからと。先入観なく見ると連立合意文書にも見える。野党の立場であれだけ幅広いところを本当にやっていくのはなかなか大変だと思う」と維新への皮肉を口にした。

その国民民主党も、年収103万円の壁引き上げをめぐり、仮に与党との協議が決裂し与党が公明党案を盛り込んで予算案と税制関連法案を採決する場合、賛否について難しい判断を迫られる。

立憲も難しい交渉になりそう
立憲も難しい交渉になりそう

また、立憲民主党も与党と予算案の修正協議を行っているが、与党が大きく譲る姿勢は見せず、立憲は予算案に反対する見通しの中、修正協議で何を勝ち取るか難しい交渉となっている。

与党と維新の合意で見えた異変のウラにある様々な思惑は、与野党の垣根を超えて、夏の参院選と、その後の政権の枠組み再構築を見据えた今後の政界全体に大きな影響を与えそうだ。

(フジテレビ政治部デスク 髙田圭太) 

髙田圭太
髙田圭太

フジテレビ報道局  政治部デスク 元「イット!」プロデューサー