中国海軍の空母が、太平洋上でこれまで進出することがなかった「第二列島戦」を東にまたぐ海域まで、展開を拡大させたことが明らかになり、日本の安全保障に影響を与える行動に警戒感が高まっている。

防衛省によると、中国海軍の空母「遼寧」とミサイル駆逐艦などが、7日午後6時頃、南鳥島の南西約300kmの海域を航行していることが確認された。

中国海軍の空母「遼寧」(提供:防衛省)
中国海軍の空母「遼寧」(提供:防衛省)
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同海域は、伊豆諸島、硫黄島などがある小笠原諸島、グアムなどを結ぶ「第二列島線」と呼ばれる安全保障上の防衛ラインの東側で、中国海軍の空母が、第二列島線を越えて太平洋海域に進出したのは初めてだ。

この中国空母の動きは、日本の安全保障上、警戒のフェーズ(段階)を引き上げるべき事態だとの見方が広がっている。防衛省関係者は「今回はいきなりグッと太平洋側に出てきた感じがする。今までとは違う」とした上で、「より一層サラミ戦略が進んでいる」と述べ、近年、海洋進出を段階的に、かつ急速に進める中国への警戒感を示している。

中国海軍の空母「山東」(提供:防衛省)
中国海軍の空母「山東」(提供:防衛省)

さらに同7日午後には、空母「山東」もミサイル駆逐艦や高速戦闘支援艦などとともに、沖縄県宮古島の南東を航行していることが確認された。

この海域は、奄美、沖縄等を含む南西諸島から台湾、フィリピンを結ぶ「第一列島線」近辺で太平洋で、中国空母2隻の同時展開が確認されたのも初めてだ。

提供:防衛省
提供:防衛省

中国当局は10日になって「『遼寧』と『山東』の空母編隊が西太平洋などの海域で、遠海防衛および、統合作戦能力を検証した」と発表した。

この発表も加味して、今回の太平洋上の中国空母の展開は、「第二列島線」の東と「第一列島線」近辺で行った、台湾有事を意識した、より実践的な訓練ではないかとの見方が出ている。具体的には「第二列島線」の東に展開する「遼寧」をアメリカ空母役に見立てて、「第二列島線」を超えて台湾に接近してくることを、中国空母役である空母「山東」が阻止するという統合訓練ではないかということだ。

さらに自衛隊幹部は「空母2隻とも太平洋まで運用できるということの見せつけだ」との見立てを示している。

吉田統合幕僚長
吉田統合幕僚長

吉田統幕長は、12日の会見で「中国軍が空母の運用能力および遠方の海空域における作戦遂行能力の向上を図っているものと認識をしている」「非常に速いスピードで軍事活動の活発化と、軍事行動範囲の拡大が進んでいる」との見解を示した上で「我々の危機感が高まっている」と強調した。

齋藤海幕長
齋藤海幕長

さらに、齋藤海幕長も、10日の会見で「空母の部隊運用能力を向上させるためには、ある程度広い海域で訓練する必要がある。”ある時期になると出てくるな”ということは、私は予想していた」と述べた。

空母搭載の戦闘機が自衛隊哨戒機に“異常接近”も

さらに、中国軍は空母2隻を太平洋に展開するなかで”特異”な行動も見せた。それは、空母搭載の戦闘機による、自衛隊哨戒機に対する異常接近だ。

手前が自衛隊哨戒機、奥に確認できるのが中国軍の戦闘機(提供:防衛省)
手前が自衛隊哨戒機、奥に確認できるのが中国軍の戦闘機(提供:防衛省)

中国軍の空母「山東」搭載の戦闘機は、太平洋の公海上空で7日午前10時半ごろから約40分間と、8日午後2時ごろから約80分間の2度にわたり、警戒監視を行っていた海上自衛隊のPー3C哨戒機に対し、異常な接近を繰り返した。最も接近した時の距離は、約45メートル。また8日には、Pー3C哨戒機の前方約900メートルを横切る危険な飛行も行った。

自衛隊機は通常どおりの安全な距離を空母と保ちながら警戒監視を行っていた中での中国軍機による異常な接近。自衛隊幹部は中国軍機の異常な接近について「空母に近づかせたくないのだろう」「”訓練を見られたくない、邪魔されたくない”との意思表示だろう」との見方を示した。

自衛隊哨戒機に異常接近した中国軍の戦闘機(提供:防衛省)
自衛隊哨戒機に異常接近した中国軍の戦闘機(提供:防衛省)

今回、中国軍が太平洋上においてより実践的な訓練を行うなど軍事活動を拡大・活発化させていることについて、防衛省内では「南西シフトと1つのところの防衛体制を強化するだけではなくて、日本全体の防衛体制を強化していく必要がある」との指摘も出るなど、今後の日本の安全保障にとって、太平側の防衛の重要性は一層高まっている。
【取材・執筆:フジテレビ政治部・防衛省担当 鈴木杏実】

鈴木杏実
鈴木杏実

フジテレビ報道局政治部記者。防衛省担当。