立憲民主党は、党内で意見が割れていた消費税の減税について、「原則1年間の食料品ゼロ」の方針を決定した。深刻な対立に発展しないよう、慎重に取りまとめを進めた野田代表ら執行部のキーパーソンがFNNの単独インタビューに応じ、野党による関連法案の共同提出の可能性にも言及した。さらに、大型連休明けの後半国会では「戦闘モードに入る」として、その戦略の一端も明かした。

13年前の反省「執行部こそ党内に寄り添うべき」

「途中、非常に緊張感を持って対応したが、思った以上に成熟した議論が、誠実に、穏当に行われて、非常に党の成長ぶりを実感している。結論としてはこれしかなかった」

消費税の減税をめぐる党の方針決定について、FNNのインタビューにこう語るのは立憲民主党の小川淳也幹事長だ。2005年に初当選を果たした小川氏は党の政調会長などを歴任し、ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」では主人公として扱われて注目を浴び、次世代のリーダーにも目されている。

立憲は4月25日、臨時に執行役員会を開き、夏の参院選の公約として、原則1年間、食料品にかかる消費税をゼロとし、その後、高所得者を除外した形で、生活必需品などの消費税にあたる分の給付や所得税の控除を行う「給付付き税額控除」に移行する案を盛り込む方針を決めた。

臨時の執行役員会での方針決定後、会見に臨んだ野田代表(4月25日)
臨時の執行役員会での方針決定後、会見に臨んだ野田代表(4月25日)
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その後、野田代表は記者会見に臨み、「ゼロ税率は1年間に限る。そして経済情勢によっては、1回だけ延長することができるという後ろをしっかりと法律で決めたい」との考えを示した。野田氏は、減税の財源に責任を持ち、税率を元に戻すことを前提とすることで、消費税の減税を掲げる他の政党の主張とは一線を画した。こうしたいわば「責任ある減税」という姿勢について、小川氏は次のように強調した。

「野田代表らしいこだわりであり、矜持だ。失われた30年、日本がやり続けてきたのは場当たりであり、国力の衰退を招いている。矜持、正論は野田代表ならではでもあり、党として大事にしたい」

方針決定までに、立憲では消費税の一律5%への引き下げなども含む3つの案を検討してきたが、小川氏は、早い段階から今回の結論に取りまとめる必要性を感じていたと明かした。

「各地に応援に行った時、地方選挙、国政選挙を問わず、食料品の消費税ゼロを訴える人がたくさんいた。そこに党として集約させる必要があるのではないかと、1カ月2カ月ぐらい前から感じていた」

代議士会開始前に雑談する野田代表と小川幹事長(4月18日)
代議士会開始前に雑談する野田代表と小川幹事長(4月18日)

立憲の源流である旧民主党は、菅政権と野田政権のもとで社会保障と税の一体改革を進めたが、それに伴う消費税増税の方針に反発した小沢一郎衆院議員らが集団離党し、党の分裂を招いた。その結果、2012年の衆院選では大敗し、政権を失った。当時、小川氏は党の税制調査会などの幹部の一人として取りまとめにあたった。今回、かつてのような党分裂が頭によぎらなかったのか尋ねると、小川氏は「絶対にそうしてはならないと思っていた」と自らの苦悩を吐露し、当時と現在の違いについてこう指摘した。

「党内は当時より成熟しているとも感じていた。一番大事なことは、結果として13年前は執行部が党内を振り切った格好になったが、今回は執行部こそが党内に寄り添うべきだと思っていた。それが13年前の反省だ」

「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党を作ってください」と発言した枝野氏(4月12日)
「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党を作ってください」と発言した枝野氏(4月12日)

今回の方針決定までには、党を立ち上げた枝野元代表が、消費減税派を厳しく批判し、「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党を作ってください」と発言し、党分裂の懸念を指摘する声も上がっていた。このため、小川氏は枝野氏の事務所に複数回出向き、理解を求めていた。その時の枝野氏の様子について、小川氏は次のように語った。

「持論は持論として固いようには感じたが、一方で、懐深く構えていただけるという感触はあった。発言した直後は妥協点を見いだしがたいと思っていたし、そういう報告を上げてくる方も複数いたが、日にちが経つにつれて、枝野さんご自身も懐深く構えようと、軌道修正されているように感じた」

法案の共同提出の可能性「連携取れる野党各党とは協力」

消費税の減税をめぐっては、日本維新の会は食料品を2年間ゼロにする経済対策案を打ち出したほか、国民民主党は時限的に一律5%にする減税を政府に要請している。参院選では野党が一致して消費税減税を訴えていく可能性があるか尋ねると、小川氏は「ある」と明言した上で、法案の共同提出の可能性にも言及した。

「すでに党幹部の間では、法案提出の可能性も含めて議論がある。横の連携を取れる野党各党とはしっかり協力したい」

「1年間だけで本当に効果があるのか」と疑問を呈した国民・玉木代表(4月26日)
「1年間だけで本当に効果があるのか」と疑問を呈した国民・玉木代表(4月26日)

一方で、今回、立憲が決めた「原則1年間の食料品の消費税ゼロ」の方針に対し、他の野党からは批判が出ている。国民民主の玉木代表は4月26日、記者団の取材に対し、「1年間だけで本当に効果があるのか」と疑問を呈し、2日後の28日には、「外食する人がすごく減ってしまうのではないか。その意味でも飲食店の経営には大打撃になる可能性がある」と述べ、反対の立場を明確にした。

小川氏は「維新さんとは限りなく同じことを言っているので、足並みを揃えられると思う」との認識を示す一方で、国民民主からの批判には次のように反論した。

「ちょっと局部的、局所的な議論に陥りすぎている。食料品の減税について、飲食店も含めて、国民が望まないということになるだろうか。そうは思えない。精緻に議論しないといけない」

独自路線の国民民主…榛葉氏を前に「連結大事にする」呼びかけも

小川氏は1月のインタビュー取材では、今の通常国会について、「予算、企業・団体献金、選択的夫婦別姓、政権の信任、この4つが大テーマになる」と指摘していた。しかし、これまでに、予算では立憲の修正要求は受け入れられず、それ以外のテーマについても立憲が期待した通りの結果になっているとは必ずしも言えない状況だ。それは、参院選も見据え、独自路線を志向する国民民主が、立憲とは距離を置き、野党の足並みを揃えることができていないという現状も影響している。小川氏は国民民主に対し、次のように苦言を呈した。

「現状、政党支持率などで調子がよいので、独自路線を取りたいということはよく分かる。理解しようと努めてはいるが、その姿勢で一体何を得たのか。ガソリン税の暫定税率も廃止できず、所得税の壁も新たに壁ができただけだ。消費減税はおろか、夫婦別姓も進まず、逆に日本の政治の手詰まり感が出てきている。やはり自民党との協議、与党との協調に効果はない」

その上で、小川氏は「我々と一緒に歩む路線に回帰してほしい。支持団体である連合もそれを期待しており、粘り強く呼びかけていきたい」との考えを示した。

こうした小川氏の姿勢が改めて浮き彫りになった会合がある。JR連合が4月22日、東京都内のホテルで開催した「21世紀の鉄道を考える議員フォーラム」の総会だ。会長は国民民主の榛葉幹事長、事務局長は小川氏が務め、立憲や国民民主など旧民主党に所属した議員らが顔を揃えた。報道陣にクローズで開催された総会の中で、挨拶に立った小川氏は、榛葉氏を前に、列車の車両と車両をつなぐ「連結」に例えてこう呼びかけた。

「榛葉さんとの連結を大事にする。お互い気を引き締めていきましょう」

インタビューの中で、小川氏は、今後の国民民主との関係について、「表で互いの立場、考えを主張せざるを得ないケースが両党幹部にはある。だからこそ両党幹部が水面下で、膝詰めで顔を見て、しっかり話す機会を増やすように、これまでも努力してきたが、なお一層、後半国会に向けては努力したい」と語った。

「戦闘能力上げていく」企業・団体献金や選択的夫婦別姓に言及

その後半国会での戦略を尋ねると、小川氏は「戦闘モードに入っていく。戦う野党第1党として戦闘能力を上げていく」と強調した。その上で、連休明けに、与野党の協議が再開する企業・団体献金をめぐる対応に言及した。

「今国会中に結果を出したい。ついては、宙ぶらりんの公明・国民民主両党が焦点であり、彼らの考えを法案化して、国会に提出することを求めたい。もしそれがかなわなければ、その内容でこちらが出すというぐらい戦闘能力を上げるのも一つだ」

企業・団体献金の扱いをめぐっては、与野党で3月末までに結論を得るとしていたが、禁止を求める立憲や維新などに対し、自民党などは規制の強化を主張し、その隔たりは大きく、一致できずにいる。

さらに、立憲が選択的夫婦別姓の導入に向け、国会に単独で提出した民法改正案についても言及が及んだ。小川氏は「リベラル系の政党を中心に、賛同いただける可能性はある。しかし、原則、賛成だったはずの国主民主、公明、自民のリベラル派、このあたりの態度が曖昧だ」と指摘。そして、「戦闘集団たる野党第1党」として、「立憲案に賛同を求めるベクトルと、党議拘束解除を各党に求めるベクトルの両立てで、後半国会に臨むというのが取りうる戦略ではないか」との考えも示した。

「三位一体で自ら局面作り主導を」参院選前の政権交代「最大のビッグシナリオ」

インタビューの中で、党の支持率が伸び悩んでいることについて尋ねると、小川氏は次のように語った。

定例会見に臨む立憲・小川幹事長(4月15日)
定例会見に臨む立憲・小川幹事長(4月15日)

「政策対応、国会対応、選挙対策、これが三位一体だ。いずれも、野党第1党が自ら局面を作り、場を主導しているという雰囲気、プレゼンス、存在感につながらなければ、このまま伸び悩むことになる。逆にそこを主導して力があると有権者に認識してもらえれば、ここからもう一段二段、浮上する可能性は残っている」

そして、参院選について、「非常に簡単ではないとはいえ、近畿を中心に、1人区で複数の政党がバッティングしているケースをどれだけ調整して、野党候補の一本化を主導できるかどうかだ」と強調した。

こうした戦略を語る小川氏の視線の先には何があるのか。筆者は2007年、旧民主党の担当記者を務めて以降、折に触れて小川氏にも取材を続けてきた。今、その小川氏の念頭には、野党による政権交代があることは間違いない。

後半国会では、少数与党の中、立憲など野党が内閣不信任決議案を衆院に提出した場合、野党がまとまれば可決する可能性がある。仮に可決した場合には、石破首相は衆院の解散、もしくは内閣の総辞職という二者択一を迫られる。内閣総辞職となった場合には、首相指名選挙が行われる。小川氏は、内閣不信任案の扱いについて、次のように述べ、慎重に検討する考えを示した。

「今の異常な国際情勢はよく踏まえるべきだ。ただし、政権を信任してはいないということが前提になるので、後半国会では、我々、野党第1党は戦闘集団だという趣旨に沿って難しい判断をしなければいけない。出す、出さないと言い切るのは控えたい」

一方で、参院選前の野党による政権交代の可能性を尋ねると、小川氏はこう言い切った。

「衆院で野党が過半数を制している以上、その可能性は常に保持しておくべきだというのが私の考えだ。最大のビッグシナリオとして、その可能性は常に保持しておくべきだ」

仮に首相指名選挙になった場合に、与野党双方から、首相候補として、国民民主の玉木氏を擁立する可能性を指摘する声も上がっている。これに関し、小川氏は「与野党第1党の党首が最有力の首相候補というのは原則、変わらない」とする一方で、「過去には日本新党方式のようなイレギュラーなケースもあった。今の時点においては、あらゆる可能性を排除すべきではない」との考えを改めて示した。

衆院が少数与党の状況の中で、事実上の政権選択選挙になると指摘されている参院選まで約3カ月。その前に大政局が起きるかどうか、野党第1党として政権交代を目指す立憲民主党の後半国会での戦い方、「戦闘能力」が試されている。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局