6月22日の会期末に向け最終盤を迎える今国会で、石破内閣に対する不信任決議案の行方が最大の焦点となっている。立憲民主党など野党は5月、江藤前農水相について、不信任案の提出も辞さない構えを見せ、更迭に追い込んだ。野党が一致結束すれば、閣僚も辞任に追い込めるという少数与党の現実を突き付けた。それは内閣不信任案も同じだ。仮に可決した場合には、石破首相は衆院の解散、もしくは内閣の総辞職という二者択一を迫られる。その場合には政局の流動化は避けられず、場合によっては野党による政権樹立の可能性も否定はできない。しかし、野党第1党である立憲民主党は慎重な姿勢を崩していない。その背景に何があるのか、そして取材を通して浮上した衆院解散・衆参ダブル選挙の可能性にも迫った。
内閣不信任案の提出めぐり立憲は慎重な姿勢 野党内で高まる「提出圧力」
「適時、適切な時に総合的に判断する」
立憲民主党の野田代表は1日、仙台市で記者団から内閣不信任案の対応について問われると、このように述べ、慎重に判断する姿勢を改めて示した。また、与党との修正合意を経て衆院を通過した年金制度改革法案について、石破首相が6月中旬にカナダで開催されるG7サミットに出発する前に、参院での審議を終えて成立を図るべきだとの考えを示した。
一方、内閣不信任案をめぐっては、他の野党からは、衆院で51議席以上を有し、唯一単独で提出できる立憲に対し、提出を求める声が出ている。
国民民主党の玉木代表は3日の記者会見で、「去年12月に103万円の壁の178万円を目指しての今年からの引き上げ、ガソリンの暫定税率の廃止、この2つは3党の幹事長で合意したが、我々としてはその2つの約束は十分に果たされていないという認識だ」と強調した。その上で、内閣不信任案について、「出るかどうかは野党第1党、特に野田代表がどう判断されるかだ」と指摘する一方で、「公党間の約束を守っていない政権を易々と信任できないというのが私たちの基本的な姿勢だ。厳しい姿勢で臨みたい」と述べ、提出された場合には賛成する可能性を示唆した。

また、日本維新の会の前原共同代表も5月22日の記者会見で、提出に慎重な立憲に対し、「政治家を30年余りやってきた中での本能、経験則から来るものだが、首を取れる時に取りに行かなければ取ることができない」との認識を示した。その上で、「昔は戦で殺し合いをしていたが、それはよくないということで、民主主義、選挙制度ができたが、本質は戦だ。手を緩めた方が負けだ」と強調した。前原氏は「どう考えるかは立憲さんに任せるが、首を取りに行くつもりがあるのかどうかという意思次第だ」と述べた。
さらに、立憲の党内からも内閣不信任案の提出を求める声があがっている。それは党重鎮の小沢一郎衆院議員からだ。立憲が5月31日、ユーチューブで配信した動画の中で、小川幹事長との対談に臨んだ小沢氏は次のように訴えた。
「今の石破内閣はどうしようもない。不祥事を起こしている。何で不信任をしないのか。絶対に不信任を出さなければダメだ。過半数がない時はしょっちゅう通るはずがないからといって出しておいて、過半数がある時は出さないなんてどういうことだ。そんなばかな政党、野党はない」

断固として内閣不信任案を提出すべきだと主張する小沢氏の発言はさらに続いた。
「石破の方が選挙をやりやすいなんてアホなことを言うヤツがいる。何を言っているか。敵失だけで選挙をやっているようではダメだ。断固、戦わなければダメだ。そのシンボリックなのが内閣不信任案だ。これができないならば、とても我が党に明日はない。国民から見放される」
小沢氏の発言に対し、対談相手の小川氏は、「職責上、そこはのりをこえて明確に言うことはできないにしても、我々は戦闘集団で、戦って勝ち取って本気で対決するからこそ解決できることがあるという路線を、地で行けるように、今の職責に照らしてなお、ただ今の言葉は重く、そして厳しく、しっかり胸に刻みたい」と応じた。

こうした党内外からの「提出圧力」に対し、野田氏は慎重な姿勢を崩していない。野田氏は5月24日、千葉県船橋市で国政報告会を開き、次のように語った。
「よく内閣不信任案をどうするかと言われる。だいたい外野の人がペラペラペラペラよく言う。よく考えて判断をしたい」
内閣不信任案をめぐる他の野党の主張について、ある立憲の幹部は、「賛成するから提出すべきだと言うのであれば分かる。しかし賛成するかどうかを明言せず、出すべきだと言われても困る。あまりにも無責任だ。まずは態度を明確にすべきだ」と憤る。
そして、このような不信任案に慎重な立憲内の声などが報じられるたびに取り沙汰されるのが、自民党と立憲民主党の「大連立」に関する臆測だ。
年金法案合意で「大連立の布石」との見方 実際には厚労関係議員の訴えで決断
「随分、飛躍のある話ではないか。例えば、我々は消費税減税、食料品ゼロ%と言った。真っ向から反対してきた。税財政の考え方など大きな方向性で一致点がなくて、大連立はないのではないか。基本政策の色々な意味での一致がなければいけない」

立憲の野田代表は5月23日の記者会見で、年金制度改革法案をめぐる自民・公明両党との修正協議が「大連立に向けた布石」ととらえる見方があることについて、こう強調した。大連立との臆測が浮上したのは、2日前の党首討論の場で、野田氏が石破首相と年金法案の修正協議で合意したためだ。この動きに関し、他の野党では、「大連立への布石ではないか」との見方が急速に広がった。
野田氏は、「基本政策で一致できるかというと、今のところそうではない」と述べた上で、立憲が掲げる選択的夫婦別姓制度の導入、企業・団体献金の禁止について、「やる気がないのであれば、次の段階に進むことはできない」として、大連立の臆測を打ち消した。
しかし、他の野党の疑心暗鬼は収まらない。2日後の25日、国民民主の玉木代表は東京都内で記者団の取材に応じ、大連立の可能性について次のように指摘した。
「そう考えている政界関係者は多くなってきている。少なくとも自民党側の一部は明らかにそれを意識した動きをしている。よく考えたら不思議だ。急にこの年金という重要な法案について、バタバタと(会期が)残りわずかのところで修正合意し、しかも衆院と参院の審議時間が極めて短い。ありえないと思う。何で野党第1党が合意しているのか。それは当然、何か政策以外の要素がそこにあると疑われても仕方がない状況ではないか」

玉木氏は「その点も踏まえての内閣不信任案の“提出”あるいは“不提出”ということになるので、特に立憲さんの動きはよく我々として見定めたい」との考えを示した。
さらに、年金法案が国民民主や維新などが反対する中で衆院を通過した翌日には、地元・香川県内で記者団の取材に対し、次のような見方を示した。
「与党側から野党の中に大きなくさびを入れられたような気がする。立憲民主党は果たして内閣不信任案を出せるのか。そちらの疑問の方が今拡大しているのではないか」
その上で、玉木氏は、「出す時にはさすがに年金と違って、他の野党にも相談があるのだろう。まさか自公とだけ相談はしないと思う」と立憲をチクリと刺した。
それでは今回の年金法案をめぐる動きは将来的な大連立を視野に入れたものだったのか。立憲の執行部メンバーの1人は内情について次のように明かす。
「党内の厚生労働関係の議員からの強い訴えを受けて修正に応じた。正直、大連立なんて全く念頭に置いたものではない。将来の年金制度への危機感からだ」
また、別の幹部は立憲と自民・公明の3党で正式合意した27日の党首会談でもそれは表れていたと話す。党首会談を終えた野田氏は記者団の取材に対し、「年金改革の一里塚だ」と述べ、今後も真摯に協議する場を作るよう与党に要請したと明らかにする一方で、次のように語った。
「せっかくの機会であったので、年金については一定の合意ができたが、まだ6月22日の会期末までの間に決着をつけなければいけないテーマとして、政治資金規正法の問題、あるいは選択的夫婦別姓の問題、暫定税率の廃止など、色々なテーマがある。審議、協議をしようという提案をさせていただいた」

そして、野田氏の隣にいた小川幹事長は、「全体として極めて緊張感、緊迫感、ある種の迫力の伴う党首会談だった」と強調した。党首会談にも同席していたある関係者は次のように振り返った。
「単に年金で合意しただけではなかった。今の国会では、企業・団体献金の禁止、選択的夫婦別姓、ガソリン税の暫定税率廃止といった解決していない問題が山積している。党首会談では、野田代表から解決を強く求めたが、石破首相や自民党の森山幹事長からは明確な返答はなく、議論の深入りを避けて、早くその場から立ち去りたいという雰囲気を感じた」
内閣不信任案に立憲幹部「ニュートラル」 衆参ダブル選の可能性も見据え判断
それでは、将来的な大連立の可能性はあるのだろうか。立憲の関係者は、「選挙区で多くの議員が自民党と戦っている。大連立なんて無理だ。ありえない」と完全否定する。
一方、ある幹部は、「参院選の前はない。参院選の後は通常はない。参院選でどういう結果が出るかは分からない以上、その後の政界の姿は全く予測がつかない」と吐露する。さらに、内閣不信任案の対応について、次のように語った。
「現時点ではニュートラルだ。石破政権を信任はしていない。しかし、アメリカのトランプ政権との関税交渉もある中で、政治空白を生んでよいのか。また、他の野党との提出に向けたすり合わせが十分ではない。不信任案が可決するかどうか、可決した場合には衆院の解散となるかどうか、首相指名選挙ではどう対応するか、その見通しがまだ立っていない」
また、別の幹部は、「提出するかどうか判断するタイミングは会期末の2~3日前になるのではないか」との見方を示している。

衆院が少数与党の状況の中で、事実上の政権選択選挙になると指摘されている参院選。FNNが5月に実施した世論調査では、参院全体で議席がどうなってほしいかを聞くと、「自民党と公明党が過半数を占める」は38.0%だったのに対し、「今の野党が過半数を占める」が53.7%と半数を超えている。
立憲の執行部メンバーの1人は、不信任案が可決した場合には、「石破首相の性格からいって解散してくるだろう」との見方を示している。衆参ダブル選挙の可能性も見据え、野田代表が難しい決断を迫られる時が刻一刻と近づいている。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)