昭和後期のプロ野球に偉大な足跡を残した偉大な選手たちの功績、伝説をアナウンサー界のレジェンド・德光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や“知られざる裏話”、ライバル関係とON(王氏・長嶋氏)との関係など、昭和時代に「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”、令和の今だからこそレジェンドたちに迫る!
速球と落差の大きいカーブを武器に、巨人のV9をエースとして支え続けた堀内恒夫氏。沢村賞2回、最優秀防御率、最多勝、最高勝率3回、MVP、新人王など数々のタイトルを獲得し通算203勝。13年連続2桁勝利、高卒ルーキーにして開幕13連勝、ノーヒットノーランの試合で3本塁打など、数々の偉業を成し遂げたジャイアンツのレジェンド投手に徳光和夫が切り込んだ。
【前編からの続き】
バックネットにボールをぶつけたプロ初登板
1965年に開催された第1回ドラフト会議で、堀内氏は巨人から1位指名を受け、巨人に入団した。
堀内:
僕が入ったころは、高校生はだいたい二軍からのスタート。延岡での二軍キャンプでは内野手の練習とピッチャーの練習を1日おきにやらされてたんですよ。
当時、先輩に渡辺(秀武)さんっていうサイドスローのピッチャーと高橋一三さんがいたんですね。球団はこの2人に期待してたらしいんです。でもね、この2人が二軍戦で打たれるんですよ。打たれたピッチャーを一軍に連れてくわけにはいかない。
徳光:
そうですね。

堀内:
誰かほかに良いピッチャーはいないかっていう話になって、北川(芳男)さんというピッチングコーチが、川上(哲治)監督と藤田(元司)コーチに、「いますよ。球は速いけど、どこに行くか分かんない」って推薦してくれた。それで一軍に行ったら、間違って抑えちゃったんですよ。
オープン戦の半ばくらいから上に行ったんですけど、しょうがないから「そのまま開幕しちゃえ」って開幕したんです。だから、渡辺さんと高橋一三さんが良ければ、僕も交代だったんですよ。
徳光:
分かんないもんですね。
堀内:
ツキのあるやつっていうのは、とことんあるんですね(笑)。
徳光:
長嶋さんとの初対面は覚えてらっしゃいますか。

堀内:
初めて会ったのは、オープン戦で二軍のキャンプから一軍に上がったときです。長嶋さんは、僕のことなんて誰だか分かんないでしょ。それで、「坊や、何?」って言われましたから。
徳光:
「坊や、何?」ですか。
堀内:
「坊や。何?」って。「何」じゃない。ユニフォームを着てんだから選手ですよ。そんな感じでした。
徳光:
そして、公式戦初登板ではバックネットにボールをわざとぶつけた。
堀内:
はい。言っときますけど1球目じゃないですよ。投球練習のボールです。練習の1球目をバックネットに投げた。
前の日に菅沼さん(高校時代の監督)と電話で話してたんですよ。「堀内、どうせお前はマウンドに行っても、多分キャッチャーが見えないと思うから、1球目をバックネットに投げろ。そしたら、お客が馬鹿にする。笑うから、それで落ち着くだろう」って言われて。それで1球目に投げたんですよ。
徳光:
実際に効果はあったんですか。
堀内:
ありましたよ。最初、(キャッチャーの)森(祇晶)さんが見えなかったもん。マウンドから見てても、どこにいるか分かんない。
徳光:
そんなもんなんですか。
堀内:
「あれ、どこにいるんだろう」っていう感じ。そのくらい緊張してましたね。投球練習で6~7球投げさせてくれるじゃないですか。1球もストライクにいきませんでした。「どうしようかな」と思いましたよ。
でも、プレイボールかかって1番バッターの1球目、中(暁生)さんという左のちっちゃいバッターのインコース、ストライクですよ。ダーン。自分でもびっくりしましたね。1球もストライク入らなかったのに。
堀内氏の初登板は1966年4月14日の中日戦。先発して6回を投げて2失点(自責点1)。試合は巨人が9対2で勝ち堀内氏は初勝利をあげた。
新人で開幕13連勝…止めたのは吉永小百合さん!?

4月14日の初登板で中日から勝ち星をあげた堀内氏は、そのまま負けることなく白星を積み重ねる。7月27日の阪神戦まで13連勝。ルーキーの開幕13連勝は、現在も破られていないプロ野球記録だ。5月30日の大洋(現・DeNA)戦から6月22日のサンケイ(現・ヤクルト)戦にかけては44イニング無失点という快挙も成し遂げた。
徳光:
1勝したと思ったら破竹の13連勝ですよ。プロの怖さみたいなものはなかったですか。
堀内:
怖いなんてことはなかったです。打たれりゃ怖いかもしれないけど、打たれないから怖さはないです。
徳光:
完封も多かったですもんね。逆に言うと、「プロってこんなもんか」みたいな…。
堀内:
そうです。「そんなもんだ」と思いました。だって、うちに王さん、長嶋さんっていう日本一のバッターが2人いるわけですよ。「あとは3番目以下だから」なんて思ってた。「たいしたことねぇな」なんて言ってやってたんです。今言ったら怒られますよ(笑)。
徳光:
ホリさん、連勝がストップした試合は覚えてますか。

堀内:
覚えてますよ。大阪、広島って遠征だったんです。移動日に西宮のバッティング練習場に、週刊誌の表紙の写真を撮りに行ったんですね。相手が吉永小百合さんですよ。吉永さんが目の前にいて、吉永さんを抱えるようにしてバットを構えるんですよ。それをやってから広島へ行って投げて負けたんです。
徳光:
(笑)。
堀内:
あれで人生おかしくなっちゃった(笑)。
徳光:
ホリさんは童顔でしたよね。童顔の少年がプロのおっさんをバッタバッタ倒したわけですよ。
しかも1球投げるごとに帽子がキュッと曲がる。これが有名だった。あれは高校時代から曲がってたんですか。

堀内:
いやいや、曲がってないです。あれはプロに入ってから。菅沼さんから「ちょっと大きめの帽子をかぶれ。そしたら帽子が横になるから。そういう色を出さなきゃダメだ」って言われて。
徳光:
菅沼さん、名プロデューサーですね。
巨人歴代No.1の速球!?…力を抜いて155km/h

堀内氏は入団1年目の1966年、16勝2敗、防御率1.39の成績を残し、最高勝率、防御率、新人王、沢村賞のタイトルを獲得した。
徳光:
ホリさんがルーキーの頃って、プロ野球で一番球が速かったですかね。
堀内:
どうですかね。僕はよそのチームのピッチャーについてはよく分かりませんけど、巨人の中では僕が一番速いですよ。60年近くプロ野球の世界にいますけど、僕より速いピッチャーはいないですよ。
徳光:
18歳のときの堀内恒夫は江川さんよりも速い。
堀内:
江川は速くないです。江川は150km/h前後ですよ。
徳光:
そうですか。ホリさんはどのくらいですか。
堀内:
僕は当時155km/hって書いてありました。調べたのでね。輪っかの中にボールを通すんだけど通らなくて、力を抜いて投げたら1球通った。それが155km/h。その次のボールで根元にぶつけて壊しちゃった。
徳光:
へぇ。そうですか(笑)。
ノーヒットノーラン達成試合で3打席連続ホームラン

入団2年目の堀内氏の成績は12勝2敗、防御率2.17だった。
堀内:
2年目に背番号「18」をもらったんですけど、腰を痛めて半年間ダメだった。
徳光:
2年目は腰痛に悩まされましたね。復帰はオールスターあけでしたよね。
堀内:
オールスター明けです。そこからまた12も勝っちゃったんですね。
徳光:
しかも2敗ですからね。ノーヒットノーランもこの年ですよね。
堀内:
はい。
この年10月10日の広島戦で堀内氏はノーヒットノーランを達成。この試合で堀内氏はバッティングでも活躍し、プロ野球史上初の投手による3打席連続ホームランを記録した。
堀内:
「これはもう1本いくか、じゃあ最後まで投げちゃおうか」って言ってたら、「おい、ヒットも打たれてねえぞ」って話になった。
徳光:
そこで初めて。
堀内:
そうです。それで、3ボール1ストライクになったら、(コーチの)藤田(元司)さんが、ベンチから「歩かせろ」っていうんですよ。ノーヒットノーランにフォアボールは関係ありませんから。
徳光:
なるほど。ええ、ええ。
堀内:
でも、「こんなもん、ど真ん中に投げてやる」ってど真ん中に投げたんですよ。そしたらカキーンってものすごい良い当たりが左中間に飛んだんです。でも、レフトの相羽(欣厚)さんが左中間を守ってたんです。そのあと怒られましたね。
徳光:
そうですか。怒られたんですか。

堀内:
そりゃそうでしょう。藤田さんに怒られましたよ。「歩かせろって言ってるのに、お前、何で勝負するんだ」って。「いやいや、大丈夫です。あんなもんいつでもできますから」って言いましたけど、1回しかできなかった(笑)。
徳光:
19歳で。生意気な選手だったんですね(笑)。
生意気な態度に記者が「悪太郎」と命名
堀内氏は新人とは思えない型破りな言動のため、「悪太郎」「甲府の小天狗」などのあだ名をつけられた。
徳光:
「悪太郎」とか「甲府の子天狗」っていうのは、誰が言ったんですか。

堀内:
新聞記者なんですけどね。新聞記者ってのは取材に来るのはペーペーなんですよ。大したのいないんですよ(笑)。だけど僕は18歳でしょ。彼らは大学を出ているから22より上。その人たちに向かって、「いちいち同じ質問するんだったら、1個にまとめてこい」って言ったんです。
徳光:
(笑)。
堀内:
もう面倒くさいから。でも、それが気に食わないわけです。勝ってるときには絶対に言わないの。負けたときにやるんですよ。だから2年目、腰を痛めたときに、「悪太郎、再起不能」とか、「甲府の子天狗、鼻が折れる」とかね。
【後編に続く】
(BSフジ「プロ野球レジェン堂」 24/11/12より)
「プロ野球レジェン堂」
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