焼酎王国として知られる鹿児島県。しかし、県内の焼酎の出荷量は年々減少している。そんな中、伝統を守り続ける酒蔵だけでなく、風味や見た目など、今までにない発想を取り入れようという動きも。今、鹿児島で、焼酎の世界を広げようという挑戦が続いている。

鹿児島の焼酎造り ユネスコ無形文化遺産に登録

2024年12月、鹿児島の焼酎を含む、日本の伝統的酒造りがユネスコの無形文化遺産に登録された。

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各地の風土に応じて築き上げられた独自の技術が評価されたもので、鹿児島県酒造組合・田中完専務理事は「焼酎という、身近な、鹿児島にとっての宝が評価されたことはうれしい」と、率直に喜びを語る。

手造りこうじの焼酎は手料理っぽく、やわらかい

鹿児島県の薩摩半島のほぼ中央、西側に位置するいちき串木野市に、明治27年に創業した白石酒造。伝統的な製法を守っている酒蔵だ。

手作業によるこうじ造りを見せてもらった。重厚な木の扉を開けると、真っ白いさらしの上に、大量の蒸した米を載せた大きな作業台がある。窓のない密閉されたような空間。蛍光灯の明かりのもと、4人の男性が前かがみになり、米にこうじ菌を丁寧にすり込んでいる。

「ここから蔵の酵母も入ってくるので、蔵独自の味になる」と語る白石貴史社長。手作業だと「手料理っぽいやわらかい感じ」になるそうだ。

こうしてできた「こうじ」に、細かく切った芋を加えじっくり発酵させると茶色いドロドロの液体に。これが焼酎のもとになる。

さらに蒸留と呼ばれる工程に進む。この液体を蒸発させると蒸気が発生するが、それを冷ましてできたものが、芋焼酎になる。

「天狗櫻(税込1870円)」を試飲してみると、「芋の香りがしっかり広がる。甘みがあってまろやかで、とてもおいしい」というのが記者の感想。伝統的な製法から生まれる優しい味わいだ。

焼酎業界の革命児はある失敗がきっかけで誕生

芋焼酎が造られたのは、300年ほど前。薩摩藩主・島津斉彬が、銃の開発に必要な工業用アルコールをサツマイモで造らせたのが始まりだった。

そんな歴史ある焼酎業界に、2013年、革命とも呼べる新商品が誕生した。霧島市にある国分酒造が発売した「安田(税込1584円)」。製造工程に大きな特徴があるというので、訪ねてみた。

広い工場の中は芋の香りが漂っている。笹山護社長が、自慢の「安田のもろみ」を見せてくれた。足元にあるタンクのカバーを開けると、ブクブクと泡の出るベージュの液体が入っている。

「安田」は、意外な経緯で誕生した。笹山社長は「農家とのやりとりが不十分で、傷んだ状態の芋が入ってきた。それで焼酎を造ったが、焦げたような雑味・苦みが多く、失敗作だと思った」と振り返る。ところが、「半年くらいたった頃から、雑味・苦みの中にも、果実っぽい香りを感じるようになった」。

それまで業界ではマイナスと考えられていた、熟成させた芋を使うことが、「安田」独特の香りにつながるというのだ。

蒸留所で待っていたのは杜氏の安田宣久さん。そう「安田」とは杜氏の名字そのものだったのだ。まさに安田さんの集大成として取り組んだこの焼酎、蒸気を冷やす工程にもこだわりがある。

初公開した装置
初公開した装置

初めて公開したという装置を見せてもらった。「冷たい空気を吹き込むと空気がすごく膨張する。冷たい空気を入れて温度を下げてやる効果もある」と語る安田さん。空気を送るタイミングの見極めについて聞いてみると穏やかな表情で「言えない」と笑った。装置自体が企業秘密なのだ。

こうしてできあがった焼酎を1年間寝かせ、「安田」は完成する。

「あ~」「うわ~」試飲した記者は、立て続けに2回、感嘆の声を上げた。「口の中でふわっと香りが広がって抜けていく。すごくみずみずしいライチの香りがする。焼酎って芋の香りのイメージが強かっただけに、本当にインパクトがある」と、新感覚の味わいに驚いた様子だった。

しかし後味にはちゃんと芋の香りが。芋焼酎としての“プライド”は、決して忘れていない。

焼酎だけど焼酎じゃないピンク色のお酒を製造

「芋くさい」「おじさんが飲むもの」といった焼酎のイメージを大きく変えた「安田」に影響を受け、さらに斬新な商品を売り出した女性がいる。

2016年にミス薩摩焼酎に選ばれ、鹿児島の焼酎をPRしてきたLINK SPIRITS代表の冨永咲さんだ。

冨永咲さん:
焼酎は芋くさいって言われているけど、そうじゃない。安田のライチみたいな香りだったり、なんでこれが知られてないんだろうなと思って。

焼酎を広く知ってもらおうと、冨永さんは見た目にこだわった焼酎造りに挑戦した。「女性がときめくような」ピンク色を目指し、大隅半島の西部、宮崎県境の志布志市にある若潮酒造とタッグを組んだ。

杜氏の高吉誠さんは「紫芋の色素を入れて色をつけるって、どうなの!?」と、最初はあまり乗り気でなかったそうだ。しかし、その後、ピンクが美しい「NANAIRO」(税込5500円)を完成させた。

ツルンと丸みを帯びた透明のびんがキュート。貼ってあるラベルもデザイン性が高く、これが、またかわいい。見た目はまるで香水のようだ。製法は焼酎と全く同じだが、色素を入れたため、酒税法上はスピリッツに分類される。

焼酎だけど、焼酎じゃない「NANAIRO」を、ソーダ割りでいただいた感想は「ちょっとワインのような果実感というか、お花のような香りがポンポンはじける感じ」。合わせる料理の幅も広がりそうだ。

焼酎の未来は「可能性が広がっている」

それぞれのメーカーは焼酎にどんな未来を描いているのか。

「古典的な仕事だと思うが、魅力のあるところに自分が気づいてあげられれば、ハッとするものが生まれるのでは」と語るのは白石酒造の白石社長。

「焼酎の幅や可能性はまだある。鹿児島だけではなくて、若い人もグローバルにも広がっていくといい」と言うLINK SPIRITSの冨永代表。

「色々なことにチャレンジしながら焼酎造りを続けていくことで、新しい焼酎の世界が広がって、もっともっと楽しくなると思っている」と未来を語る国分酒造の笹山社長。

共通するのは、伝統ある業界でありながら、新しいものが生まれないかと模索しつつ、焼酎造りに取り組む姿勢だ。消費者にとっての薩摩焼酎の世界も、これから「もっともっと楽しく」なりそうだ。

(鹿児島テレビ)

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