船がないと買い物にも病院にも行けない…。そんな瀬戸内海の離島と目的地を自動で走る「自律航行船」が実用化の一歩を踏み出した。約3年半にわたって実証実験を繰り返し、ついに旅客を乗せた試験運航が始まった。
将来的には“無人航行”も視野に
「今、船がゆっくりと動きだしました」
鈴木義崇記者が乗り込んだ船は、自動で船を操る“自律航行システム”で運航している。

約3年半前の2021年から広島・大崎上島町を舞台に大阪本社の「エイトノット」が実証実験を開始。水上移動を手軽なものにしたいとの思いから、本島から離島へのモノの運搬や人の送迎、辺りが暗い時間帯の航行などを積み重ね、実装に向けたギアを上げてきた。将来的には無人航行も視野に入れている。

2024年12月上旬、広島県内のドックで作業を進めるエンジニアたち。かつて瀬戸内海の別の航路で使われていた船に自律航行システムを搭載するため、船の大きさを詳細に測っている。

今回の船は初めて挑む大きさ。しかし、エンジニアは「対応できる船の種類を増やしていけば汎用的なものになる」と実用化への手応えを感じていた。
離島に生協の宅配サービス広がる
そして2025年1月13日。自律航行システムを搭載した船が竹原市の港でスタンバイしていた。

大崎上島町とエイトノットは竹原港~大崎上島町内の港を、フェリーの運航時間外にあたる月曜日の早朝と金・土・日曜日の夜間に旅客便として試験運航することにした。本格導入を意識し、運賃は一人1000円。予約制で、期間は3月末まで。

さらに、週に1便は「生協ひろしま」の宅配サービスも。生協のスタッフが荷物を船へと積み込み、二次離島である「生野島」の住民へ食材や日用品を届ける。大崎上島のすぐ隣にある生野島。5世帯8人が暮らす小さな島に向かって船は自動で曲がり、ゆっくりと港へ入っていった。

港では島民が船の到着を待ち受けている。
ーー何を注文しましたか?
「障子紙、お肉、ボディーシャンプーとかいろいろ」
これまで冷凍食品を買う際は船の時間を計算する必要があったが、今回のサービス実現は島民にとって「夢のよう」だという。
島民との約束「実験で終わらず実装へ」
大小約700の島々が存在し、船が生活に根ざした瀬戸内海ならでは試み。小さな島にも物流サービスが広がる可能性が出てきた。

自律航行船の試験運航が始まったことについて、生野島の住民は「時間がものすごく有効利用できる」と期待を寄せている。

また、実際に乗船した大崎上島町の谷川正芳町長は「わが島は安芸灘諸島の8号橋という夢を抱いてきたが、その計画は30年前から動かない。道をどう確保するかというと、船が核になっていかざるを得ない」と話す。

港で生野島の住民とかたい握手を交わしたのは、エイトノットの木村裕人CEO。
「約3年半前にお約束したこと、実験で終わらず実装までいくという約束に踏み出せたのかな」
自律航行船の導入によって離島の生活がより魅力的で豊かに…。将来的な無人航行の実現も見据え、奮闘は続く。
(テレビ新広島)