福井・敦賀市に、全国の幼稚園・保育園の半数以上と取引をする企業がある。その出発点は、1枚の手作り色紙(折り紙)。100年以上にわたり受け継がれてきたのは「子供たちのために」という思いだった。
スタートは越前和紙に色を塗り込んだ「色紙」
外では遊具で体を動かし、室内ではおもちゃを囲んで目を輝かせる。そんな子供たちの日常を支えているのが、敦賀市に本社を置く「ジャクエツ」だ。折り紙やクレヨンから遊具・公園まで、子供たちの遊びの環境づくりにおいて全国一のシェアを誇る。
北海道から沖縄まで全国65の事業所を展開し、国内に約4万ある幼稚園・保育園・こども園の半数以上となる約2万5000施設と取引を持つ。
時代は大正5年にさかのぼる。敦賀市にある良覚寺の住職を務めた徳本達雄氏が、大学時代を過ごした東京で当時の日本で広まり始めていた幼児教育に出会い、その重要性を深く実感したことがきっかけだった。地元・敦賀に戻った徳本氏は幼稚園を設立し、その教育の核に据えたのが「色紙」だった。
幼稚園の中で子供たちが使うものは自分たちの手で作ろうと、越前和紙を使った色紙を作り始めたのだ。
越前和紙に障子を貼る際に使う刷毛を3本用いて、色を一から手作業で塗り込んだ。手間と時間をかけて生み出されたその色紙は、遊び道具が少なかった時代、近隣の園でも評判を呼び、依頼が舞い込むようになった。

これを機に、クレヨンやスケッチブックなど教材のバリエーションが広がり、やがて遊具の製造へと事業が拡大していったのだ。
最後は人の手で仕上げる…こだわりの「色紙」
創業から100年以上が経つ現在も、色紙の製造は続いている。
工場では、大判の用紙を通常サイズにカットする作業を、いまも手作業で行っている。角がぴったり合う“ワクワク感”を園児に味わってほしいという思いから、ミリ単位で調整する。
担当する村上光司さんは、スケッチブックなどの紙製品で断裁経験を積み、2025年4月から最も難しい色紙のカット作業を任されている。「もう20年ぐらい断裁して、やっとこれを切れるようになりました」
難易度は色によって違うという。鮮やかな発色を引き出す印刷工程では、色が濃くなるほど紙の水分量が増し、反りが出やすくなる。

紙が入荷した際には水分量を測定し、高い場合は保管して乾燥させるか、上から重しをのせて矯正するなど細やかな管理が求められ「反りを目で見ながら調整して切っている」というのだ。
創業から受け継がれる看板商品は、人の手によって丁寧にカットされた職人技の賜物だった。
「1か所切れてもほどけない」造船所仕込みのロープ技術
ジャクエツの工場では、他にも職人技が光る。
勤務歴30年以上のベテラン、“ロープの達人”加藤吉美さんは、もともと造船所に勤めていて船舶用のロープやワイヤーを編む仕事をしていた。その経験を生かし、遊具のネットを本体に取り付ける独自の結び方を生み出した。

子供たちの転落防止のため「1カ所切れてもほどけていかない」結び方でネット遊具を仕上げていく。「よりきれいに、子供さんが喜ぶように、けがしないような作り方というのも考えています」大きくたくましい職人の手から、安全で美しい遊具が生み出されているのだ。

巨大な遊具であっても、細部を形作るのは人の手。 職人の技が、子供たちの安全を守っているのだ。
「小さい社員がたくさんいます」
同社の製品開発にはもう一つ、独自の取り組みがある。自社の製品を実際に園児たちに使ってもらい改良点を洗い出すのだ。
園児たちの声を基にアップデートするといい、同社の社員は「小さい社員がたくさんいます」笑顔で話す。
遊具に不具合が見つかればそれが製品の改善に直結する。園児たちは単なる利用者ではなく、製品を磨き上げる立派な研究員でもあるのだ。
遊びを通じて社会課題に向き合う
同社が手掛け2025年3月にオープンした福井市中央公園の遊び場「しろっぱ」には、2024年のグッドデザイン大賞を受賞した遊具が設置されている。
車や最新家電、有名建築がひしめく中での最高賞だ。
設計したのは遊具デザイナーの田嶋宏幸さん。上空から見ると福井県の形がモチーフとなっていて、白い曲線状の遊具には福井の名産品・眼鏡の形が取り入れられている。
「子供が遊ぶ場所であるとともに、街とつながる場所になってほしい」という市の要望を受け、あえてキャラクター性を抑えた街になじむデザインに仕上げた。

また、しろっぱには障害の有無に関わらず、すべての子供たちが同じ空間で遊べるようにという願いが込められている。寝たままでも遊べる設計、わずかな動きでも楽しめる仕掛け、そして肌が触れる部分から金属特有のにおいをなくすなど、感覚面にも細やかな配慮が施されている。
田嶋さんは「孤独だったり、障害とか、心の病みたいなものって遊びで解決できるんじゃないかなと思って」と語る。遊具を大きく作ることだけが目的ではなく、遊びを通じて社会の課題に向き合うことが、自分の仕事だというのだ。
遊びを大切に、社会の課題に向き合うデザイナーと、その思いを形にする職人たち。

全国トップシェアを誇る遊具メーカーを支えているのは、時代が変わっても、創業者が大切にしてきた“子供たちのために”という思いだった。
