全国の小中学生の陶芸の優秀な作品を決める「全国こども陶芸展」で2024年、最高賞に次ぐ「文部科学大臣賞」に輝いた小学生が焼き物の町波佐見町(長崎・東彼)にいる。自由な発想と父親譲りの技、まっすぐ、ひたむきに制作に取り組む姿を追った。
神話の木をモチーフに「文部科学大臣賞」受賞
北欧神話に出てくる一本の架空の木「世界樹ユグドラシル」をイメージした作品。

巨大な木には階段やはしごなどかけられ、細部にまでこだわって作られている。

手がけたのは下駄にはんてん姿の女の子、長瀬海さんだ。長瀬海さんが暮らす長崎県波佐見町は400年以上続く焼き物の産地だ。海さんの父親・渉さんは窯元が点在する中尾山に工房を構え、生き物をモチーフにした作品を手がけている。

焼き物とは思えないリアルな質感と独創的な表現力は国の内外で高い評価を受けている。
生まれた時からあった陶芸と父の背中
そんな父親の背中を見て育った海さんにとって、粘土で何かを作ることは日常生活の一部だった。

「ながせ陶房」陶芸家で海さんの父親 長瀬渉さん:(作品づくりは)3歳くらいから始めた。コロナになったのが年長(6歳)の年で幼稚園も登園できなかった。(工房で)粘土遊びをしていたのがよかったかな

物心ついた頃から触れている粘土、思い通りの作品を作るためには乾く前に作り上げるスピードも求められる。取材したこの日も粘土を手にするとあっという間に作品を作り上げてしまった。
迷いのない作陶スタイルとインスピレーションを受けるもの
海さんはこれまで頭に浮かんだ好きなものを作品にしてきた。一旦作り始めるとその手に迷いはない。

どの作品もリアルで精巧に作られる海さんの作品に大きな影響を与えているものがある。海さんは小学4年生。体育よりも、算数よりも、友達と遊ぶよりも大好きなもの、それは?
長瀬海さん(10):動物の本を読んだりするのが好き

同じクラスの友人も海さんのことを「(学校では)静かな存在」と表現し、静かに何をしているのかと聞くと「読書」をしているという。いま、海さんがどんな本にハマっているのか聞いてみた。
長瀬海さん(10):シートンさんの動物記がおもしろい、動物の特徴がシートンさんは細かく描いてあって仕草の癖が絵でわかる

イギリスの博物学者だったアーネスト・トンプソン・シートンが手掛けた「シートン動物記」は野生動物の生態が、実話をもとにリアルなタッチのイラストとともに描かれていて、時代を超えて読み続けられている名作だ。

海さんはそんなシートン動物記を見て、普段から頭にインプットしていて、作品づくりの際には本を一切に見ずに頭の中に細かく浮かべた情景を感じたままにカタチにしている。動物など生き物の姿・形を目に焼き付け、一気に作り上げるスタイルは陶芸家の父から受け継いだものでもある。

海さんの動物愛は本だけでは満足できない。近所にいる動物たちに会いに行くこともしばしば。動物と触れ合える時間、海さんにとっては、インスピレーションを得られる瞬間でもある。
2025年は最高賞の「内閣総理大臣賞」へ!モチーフは・・・
好きなことへのまっすぐな思いと豊かな表現力から生まれた「世界樹ユグドラシル」。

この作品で2024年は全国こども陶芸展で約1300点の応募作品の中から「文部科学大臣賞」を受賞。

2023年は恐竜の作品で「県知事賞」と2年連続の入賞を果たしている海さん。
2025年の目標はもちろん最高賞の「内閣総理大臣賞」だ。そして早くも2025年夏の陶芸展に向けて構想はすでに固まっているようで、どんな作品なのか一足先に教えてもらった。

長瀬海さん(10):鳥にする(KTN記者:鳥のどんな作品?)まだ秘密かなぁ
海さんは以前、巣から落ちたスズメのひな3羽を育て自然に帰したこともあり、鳥と直に触れ合った経験が作品づくりへのインスピレーションになるかもしれない。「第24回 全国こども陶芸展」は2025年6月に茨城県笠間市で審査会が開かれ、7月に入賞作品が決まる。

好きなものを思うままに。小さな手から広がる世界は焼き物の町に新しい風を吹かせそうだ。
(テレビ長崎)