「今、自分の命がいつどうなるかわからないという毎日を過ごしています」
栗原市など、宮城県内で4店舗のフィットネスジムを経営する後藤聡さんは、元消防士として数々の災害現場で命と向き合ってきた。
かつて「体力が無ければ命は守れない」と、仙台放送の取材に対して語っていた彼は、放送のわずか20日後に急性リンパ性白血病という大きな試練に見舞われた。
8か月に及ぶ闘病生活は、彼の「体づくり」に対する考えを根本から変えることになった。
「体力が無ければ命は守れない」元消防士がジムを作った理由
後藤さんは17年間にわたり消防士として働き、岩手宮城内陸地震や東日本大震災の発生時には救助活動にもあたった経験を持つ。
多くの命と最前線で向き合う中で、彼が強く感じたのは「体力づくりの重要性」だった。
後藤聡さん:
消防署が忙しくなってきた。なぜ忙しくなるかと言うと、健康づくりが上手にできていない。消防署の手前の仕事として、健康づくりを提供しようと思って、ジムを作りました。
彼の経営するジムには、これまで運動習慣の無かった地域の高齢者も通うようになり、後藤さん自らが体力づくりについて指導を行ってきた。
通う人々からは「痛みが無くなって調子がいい」「感謝しかない」といった声が寄せられ、ジムは地域コミュニティの健康を支える重要な拠点となっていた。
突然の白血病宣告と失った日常
地域の人々の健康を支え、過去にはボディビルの大会で優勝した経験も持つ後藤さん。
しかし、2025年8月に仙台放送のニュース番組内で体力づくりの大切さを訴えたわずか20日後、急性リンパ性白血病と診断された。
異変の始まりは些細なものだった。トレーニング中に過度な息切れを感じたものの、最初は「年のせい」だと思っていたという。その後、入院直前にできた痔が痛み、肛門科を受診したところ、医師から別の病気を疑うよう勧められ、白血病が発覚した。
そこから始まった入院生活は8か月に及んだ。食べることも、体を動かすことも、家族や仲間と会うこともできない日々。当たり前だった日常は突然奪われ、鍛え上げられた筋肉は入院中に11キロも減少してしまった。
「生きるための備え」闘病を経て変わった思い
白血病を発症する直前、後藤さんは元消防士の視点から体づくりの大切さを訴えていた。
後藤聡さん:
筋トレは最強の防災。体が健康でないと逃げられない。もっと言うと、いろいろな助けができなくなる。なので、体づくりは、一番の備え。
災害から逃げるため、そして人を助けるため。「守るための体力」が、彼の信念だった。しかし、自らが命の危機に直面し、過酷な闘病を経験したことで、その考えに新たな意味が加わった。
後藤聡さん:
もし体の備えをしていなかったら、今、ここにいなかったかもしれない。体の備えは、病気をした時にも生かせる。
鍛えた体は、自然災害から身を守るだけでなく、病魔と闘い、生き抜くための大きな力となった。
「守るための体力」は、「生きるための備え」だということにも気付かされた。
子供たちへ伝える「病も災害」というメッセージ

退院から1か月が経過した現在、後藤さんは再発への不安を抱えながらも、1日2時間の有酸素運動と筋トレで体力の回復に励んでいる。そんな彼には、今、果たしたい約束がある。
2025年8月25日に入院したことで、9月1日に予定されていた小学校での授業が中止になってしまったのだ。この授業は、昨年の放送を見て後藤さんの思いに共感した、石巻市立開北小学校の檜垣篤典先生から依頼されたものだった。
石巻市立開北小学校 檜垣篤典先生:
消防士は、自分の命のためではなく人の命を助けるために体を鍛えている。体を鍛えて自分の命を守ると子供たちも繋がるのではないか。
今回、改めてこの「防災と体づくり」についての授業が行われることになった。
元消防士として、そして体づくりのプロとして。何より、壮絶な闘病を経た今だからこそ、後藤さんが子供たちに伝えたい思いがある。
後藤聡さん:
災害は地震や火事など自然災害をイメージすると思うが、病も災害と思っていい。防ぐためには、起きる前から備えておく。それは体を健康にしておくということに繋がる。そういった社会をみんなでやれた時に、防災が強化されると思う。
病という予期せぬ「災害」を乗り越えようとしている後藤さん。彼が伝える「生きるための備え」は、これからの地域社会の防災をさらに強く、確かなものにしていくはずだ。
