“闇バイト”による凶悪事件が多発した2024年。

身近なインターネットを入り口に犯罪へと手を染めてしまう若者は後を絶たないどころか増加している印象を受ける。

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インターネットの影響力の大きさを痛感したからこそ、“闇バイト”の怖さを、テレビだけでなくオンライン記事で伝えたいと思う。

強盗致死事件の実行犯が語る闇バイトの実態

2019年、東京・江東区で起きた“アポ電強盗致死事件”の実行犯、須江拓貴被告(28)。

小松園竜飛被告(33)、酒井佑太被告(28)と共に80代の女性の自宅に押し入り、暴行するなどして女性を死亡させたとされる。

小松園竜飛被告(左)須江拓貴被告(中)酒井佑太被告(右)
小松園竜飛被告(左)須江拓貴被告(中)酒井佑太被告(右)

2024年10月。東京拘置所にいる3人に接見を申し込むと、須江被告、酒井被告と話すことができた。

須江拓貴被告
こんにちは。裁判で話したことが全てなので、話すことないっすよ

最初の言葉は素っ気なかった。表情も法廷で見せたようなやや威圧的な雰囲気。

最初素っ気なかった須江拓貴被告(イラスト:石井克昌)
最初素っ気なかった須江拓貴被告(イラスト:石井克昌)

しかし、記者の出身地が須江被告と同じ長野県で、共通の知り合いもいると分かると安心したのか、少しずつ口を開き始めた。

――悪事に手を染めたのはなぜですか?

須江拓貴被告
最初は知り合いの紹介で、『楽に金が稼げるよ』と。2018年10月か11月頃から詐欺の受け子などをしていました。お金が必要だったので、紹介された案件をやっていました

――例えば強盗の時、指示役からどんな指示がくるのですか?

須江拓貴被告
闇バイトで知り合った指示役から住所・ターゲットの名前・家族構成・部屋の間取りが送られてきます。その後、自分たちで下見に行って、入るか入らないかは現場の判断でした

少しずつ話を始めた須江拓貴被告(イラスト:石井克昌)
少しずつ話を始めた須江拓貴被告(イラスト:石井克昌)

――下見ではどんなところを確認するのですか?

須江拓貴被告
人目につくかどうかを特に見ていました。強盗と窃盗で見るところは違うんですが、共通しているのはホームセキュリティのシールが貼ってあるかどうか。貼ってあるとすぐに警備会社が来ると思い止めることもありました

懲役28年判決に「よっしゃー」 と歓声…その真意は?

2021年3月。江東区で起きた“アポ電強盗致死事件”で、強盗致死などの罪に問われた須江被告に一審の東京地裁は懲役28年を言い渡した。

この時、須江被告は法廷で「よっしゃー」と歓声をあげた。

(※その後、被告3人はやり直しの裁判で無期懲役判決を受け、いずれも控訴している)

“アポ電強盗致死事件”の現場(東京・江東区 2019年)
“アポ電強盗致死事件”の現場(東京・江東区 2019年)

私はその真意をどうしても聞きたかった。

――あの時なぜ『よっしゃー』という言葉が出たんですか?

須江拓貴被告
自分には親族がいない中、正直不安の中での裁判でした。必死になって、やってしまったこと、自分の気持ちを訴えて、もう一度チャンスをいただけると思う中で出てしまった言葉でした。叫んだという記事があるが、叫んだつもりはないんです。相手の遺族などには申し訳ない気持ちです

応募から4カ月で人の命奪う…楽な儲け話の結末

須江被告と共謀し、同じく無期懲役判決を受けた酒井佑太被告。須江被告とは地元が近く、18歳の頃に知り合ったという。

接見時の酒井佑太被告(イラスト:石井克昌)
接見時の酒井佑太被告(イラスト:石井克昌)

――闇バイトに手を出したきっかけはなんだったんですか?

酒井佑太被告
2018年10月に、知り合いから『こんなのあるよ』と闇バイトを教えてもらいました。お金は欲しかったですし、興味本位で見てみたのがきっかけでした。最初はDM(ダイレクトメッセージ)で連絡が来て、その後テレグラムに移行して詳細を話しました。今のように身分証の提示はなかったです。最初は特殊詐欺の持ち逃げです。“出し子”をやると見せかけて逃げることをしていました。130万円くらいを持ち逃げして15万円もらいました

その後、SNSを通じて知り合った指示役の男性に「一緒にやらないか」と持ちかけられ、関西で同居を開始。生活の面倒を見てもらいながら今度は“闇バイト”の斡旋にも手を染めた。

酒井佑太被告
当時の闇バイトの報酬は奪った金の3~5%が普通でしたが、10%ほどと言って集めました。斡旋したのは20人くらいです

接見時の酒井佑太被告(イラスト:石井克昌)
接見時の酒井佑太被告(イラスト:石井克昌)

SNSを使って人を集めると、1案件につき1日10人ほどが応募してきたという。

酒井被告はその後、別の事件で逮捕され、まとまった金が必要になったことから、実行役として強盗に手を染めていく。

そして、最初に〝闇バイト〟に応募してからわずか4カ月後、須江被告らと共に人の命を奪った。

「捕まっても面倒を見るから安心しろ」は完全なウソ

「お金のため」とはいえ、どこかで引き返すことはできなかったのだろうか?

須江拓貴被告
(指示役の男性が)お金に困ったタイミングで、やってくれと言われて断れませんでした。やりたくない気持ちはありましたけど、恩もあるし、筋を通そうと

(イメージ)
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酒井佑太被告
闇バイトをやめたいと思ったことはなかったです。(指示役の男性に)お世話になっていたので続けました

指示役の男性から伝えられていたのは、“脅し”ではなく“甘い言葉”だった。

須江拓貴被告
指示役から『捕まったとしても面倒を見てあげるから安心してほしい』と言われていました。でも逮捕後には『お前がやったことだから知らない』と…

完全な使い捨てだった。

「お金のため」、「恩があるから」という理由で闇バイトに手を染めた2人だったが、その代償はあまりに大きかった。

闇バイトに手を出そうとしている人に伝えたいこと

――闇バイトをやろうと考えている人に伝えたいことはありますか?

酒井佑太被告
情報をしっかりと判別して、周りに流されないでほしいと思いますね

酒井佑太被告(左)須江拓貴被告(右)(イラスト:石井克昌)
酒井佑太被告(左)須江拓貴被告(右)(イラスト:石井克昌)

須江拓貴被告
わりに合ってないからやめるべき。人生きつくても、欲に負けないほしいです。SNS上には「#裏バイト」などと検索すれば多くの情報があります。規制を本気でやるなど仕組み自体を変えないと無くならないと思います

石破首相は闇バイトを募集するSNSの投稿について事業者の削除基準の明確化を検討する考えを示した。さらに警察庁も、捜査員が身分を偽って闇バイトに応募し、実行犯の逮捕につなげる「やとわれたふり作戦」導入の検討を始めた。

情報リテラシーの向上などと合わせ、急ぎの対応が迫られている。

(執筆:フジテレビ社会部 小山浩隆)

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