すると段ボール1箱分になる教本やオウム関連書籍が、大量に見つかったのである。

長官銃撃事件の当日に監察はXの自宅を検索していた
長官銃撃事件の当日に監察はXの自宅を検索していた

言わずもがな、警察官にも信教の自由がある。このトップシークレットを把握している警視庁幹部は、人権に関わる問題になりかねないと、X巡査長の問題を少しデリケートに扱っていた。

一方で、オウムへの情報流出があった場合はただごとでは済まない。人事一課の国島監察官自らX巡査長本人に事情聴取することになった。初めてX巡査長を呼び出したのは4月18日だった。

X巡査長と接触

国島が始めにオウムの信者であるかどうか質すと、X巡査長は「今年の初めに脱会しました」と話したという。そして入信の経緯などを悪びれもせず淡々と語った。

1988年3月巡査拝命。その直後の4月24日にオウム真理教にほんの軽い気持ちで入信したという。

教団指導者の下、諸々の修行に励み、事件前年の1994年9月頃から、教団の“諜報省大臣”こと井上嘉浩の配下に入ったという重大な事実もわかってくる。

井上嘉浩元死刑囚
井上嘉浩元死刑囚

「諜報」というからには警視庁内部の情報収集をしていたのだろう。警視庁幹部は、Xが井上に警視庁の内部情報を渡していた可能性を恐れていた。

国島はXに教団内部での役割について質した。するとXは井上からNシステム=自動車車両ナンバー読み取り装置から逃れるにはどうしたら良いかと聞かれ、「ナンバーに泥でもつけておけばヒットしない」とアドバイスしたことを明かす。

さらにXは、「警務要鑑を渡しました」と言い出した。

「警務要鑑」とは警察官が実務を行う上で必要な法律をはじめ、逮捕状、調書など必要書類の作成方法がまとめられた辞書の様な本である。

警務要覧
警務要覧

警察官は「警務要鑑」を傍らに置いて、分からないことがあれば都度手にとる手引き書の様にして使う。警察官の職務執行を学ぶには格好の教科書である。

井上からの依頼はそればかりではなかった。