ホテルでの取り調べ
現職警察官が警察庁長官銃撃事件に関与したとなれば、警察史上初の大不祥事である。
取り調べを極秘で行うには、他の警察官の目がある警察施設は使えない。栢木がホテルを探し、かつて日本赤軍のメンバー逮捕の際に使った中央区茅場町の「パールホテル」に決まった。

最上階の一番広い1014号室を借り上げ、栢木、石室、山路によるX巡査長の取り調べが始まったのは、1996年4月21日。午前8時半、Xは白の長袖シャツに青のジーパン姿で現れる。所持品もなく近所のコンビニにでも行くかのような格好だ。
すぐ帰れるとでも思ったのか、Xを出迎えた取調官3人が驚くほど軽装で来たのである。

「あなたの担当をすることになった公安第一課の石室警部補です。教団に警察の内部情報を渡した経緯や、井上嘉浩容疑者との関係などについて聴きたいと思っています。協力して下さい」と伝えると、Xは警察官らしく背筋を伸ばし「Xです。宜しくお願いします」と言って神妙に事情聴取に応じる姿勢を見せた。
石室が「事実だけを話して下さい。また断片的であっても、知っていることがあれば話して欲しい。嘘はダメです。推測では話さないで下さい」と念を押すと、Xは小さな声で「はい」と答えた。
まずは生い立ちや警察官になった経緯から始まり、やがてオウムとの最初の接点について話が及ぶ。