「男はどんな人着だ?」と食い気味に反応した。
「身長180センチくらいで、体格はがっちりしており、髪は7.3分け、色白で眼鏡をかけていたとのことで、背広の上下でYシャツ姿にベージュのコートを着た男だそうです」と関川巡査長は即答した。
「先ほどのベージュのコートの男と似ているのか?」との理事官の問いかけに、関川がかぶりを振った。今しがた地取りから帰ってきたばかりだ。同輩はおろか上司とも話をする時間もなく会議に来ている。
ところが理事官は少しでも気になる点があると、すぐに掘り下げたくなる性分で、それを指摘することを任務としている。
「地取り捜査員にあっては、捜査会議前に情報の核となる部分を他の捜査員とも連携し少し摺り合わせしてから会議に臨んではどうか。摺り合わせをすれば、追加で確認したくなってくる話が見えてくる。得られた情報に関連情報がないか確認することで、情報が次の情報を呼び込み活きてくるんだ。連携を密によろしく!」と喝が飛んだ。
捜査員は咳払いすらしない。
その日以降、事件数日前の不審者情報がどんどん集まってきた。
事件現場周辺以外のアクロシティ内の聞き込みを担当する「地の2」が、現場を事前に下見したともとれる、怪しい男の情報を掴むのである。
目撃情報H 双眼鏡で長官宅を覗く男
「地の2、橘警部補(仮名)であります。
本日得られた情報は日時がはっきりしないのですが、事件発生3日から4日前の早朝、Bポートの3階から4階に上がる非常階段で、踊り場のところに双眼鏡でEポート方向を覗いている男がいたというものです。
目撃したのは新聞配達員で、不審に思って『何をしているのですか』と声をかけたそうですが、男はその際『警察だ。仕事中だから早くあっちに行ってくれ』と言ったそうです。男は身長160センチから170センチくらいで、年齢は30歳から40歳、白っぽいコートを着ていたとのことです」

この目撃情報は1年後に再び注目される重要な情報となった。
そんなことは当時誰も知るよしもない。
「この新聞配達員の話はまだありまして…」
橘は報告を続けた。