実行犯が長官の出勤確認か?
「その新たな男を目撃した小林巡査長以外の裏付けは取れているのか?」
「はい。南千住署警備課で当日の警備態勢について確認し、パンをかじっていた警戒員からも話を聞きまして、裏付けが取れています」

長官宅の警戒員は、長官が住むアクロシティEポートの出入り口近くの川沿いの道にスバル・レオーネを停め、長官の出勤時間の1時間前から警戒することになっていた。
長官の出勤時間、帰宅時間については、事前に南千住署警備課警備係に連絡が入る。
事件当日は「午前8時半出勤」と連絡があり、警護にあたる警戒員は午前7時半に長官宅の所定の位置で警戒していた。
「この警戒員でありますが、事件前日にありました、長官宅周辺でビラを配って逮捕されたオウム信者の件について、署長から報告するよう急遽求められ、警戒車とともに長官宅前を一度離れ南千住署に向かったそうです」

前にも述べたが、事件前日の3月29日、長官宅があるアクロシティ一帯で、ある不審な男がマンションの郵便ポスト一軒一軒にビラを入れていた。
長官宅周辺で男を見咎めた警察官が、男を住居侵入の現行犯で逮捕する。調べるとこの男はオウム真理教の出家信者だったことが判明した。
谷岡警部補は報告を続けた。
「警戒員は署長報告を終えた後、再び長官宅に向かう前に腹ごしらえのため、持参のパンを車の中でかじっておりまして、その際に南千住署庁舎警備の小林巡査長に目撃されたとみられています」

この警戒員はその後、長官宅のあるアクロシティに警戒車スバル・レオーネで戻っている。
そして午前8時20分、長官の車が到着。
長官を迎えに来た長官秘書官に、南千住署警備課係長が前日にアクロシティで配られていたビラを手渡し、そうした事案が前日にあったことを報告した。そして秘書官は長官にビラを見せ、事案を直接報告したとみられる。
撃たれた国松長官が病院に搬送された際、血染めのビラが長官の手中から見つかっていた。

谷岡警部補の裏付け捜査報告が終わると、理事官は「地取り班はこうした諸情報をどう評価しているのか!?」と吠えた。
こういう時は責任者に分析結果を求めている。
それを察して、捜査会議のリズムを狂わせないようにするのは中堅幹部の務めである。地取り班筆頭の「地の1」の警部総括班長である栢木は立ち上がって答えた。