子どもは大切にしたい。親であれば誰しもが思うことであろう。

しかし東京大学名誉教授で解剖学者の養老孟司さんは、昔のほうが子どもを大切にしていたと語る。一体どういうことなのか。

『バカの壁』『死の壁』など「壁」シリーズがベストセラーとなっている養老孟司さんの最新刊『人生の壁』(新潮新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

昔のほうが子どもを大切にしていた

いまは子どもを大切にしていると言いながら、実は大切にしていない気がします。自殺が多いのはそのあらわれだとも考えられます。「昔の方が子どもに厳しくてスパルタだったじゃないか」というのはよくある勘ちがいです。

たしかに体罰やゲンコツはありました。そこだけ取り上げると、スパルタ式で厳しかったように思われるでしょう。

一方で、忘れられがちなのは、昔は子どもが簡単に病気などで亡くなっていたことです。たとえば昭和一四年頃まで、日本では乳児の10人に1人が1年以内に死亡していました。

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この死亡率は戦後、どんどん下がっていき、高度成長期頃には乳児、新生児の死亡は100人に1人くらいになり、現在の死亡率は乳児が500人に1人、新生児が1000人に1人くらいです。

つまり、子どもはとても弱い存在で、いつ急にいなくなるかわからないというのが、かつて社会の常識でした。そんなはかない存在であるからこそ、親も社会も子どもを大切にしなければと考えていたのです。