誰しもが大切にすべきと考える“努力”。
今シーズン大リーグでMVPとなった大谷翔平も、道徳の教科書に載っている二宮金次郎も、共に尋常ではない努力を実らせた傑物だ。
しかし、『バカの壁』『死の壁』などベストセラー作品をいくつも世に出した養老孟司さん(東京大学名誉教授・解剖学者)は、「三年寝太郎」や「わらしべ長者」のような人生も大切だと語る。
養老孟司さんの最新刊『人生の壁』(新潮新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。
努力と成果を安易に結びつけないほうがいい
「何かしなきゃいけない」という気持ち、「手をかけたほうが良い結果になる」という考えは、あらゆる場面で見られるのではないでしょうか。
会社などでも、「私がこれだけがんばっているから、こういう風に回っている」「俺が細かく気を配っているから、何とか持っている」というように思いこんでいる人がいるかもしれません。
これは人間の習性、思考の癖のようなものです。
もちろんそういう気持ちを持つことが無意味だとは言いません。仕事において、がんばることが結果につながることもあるのは当然です。日本人はある時期まで必死に働かないと食えないという状況にあり、実際にみんなでがんばってきました。それゆえに余計に、「何とかしなきゃ」という気持ちでがんばる人が多いのでしょう。

ただ、努力と成果が結びつくとは、あまり思いこまないほうがいいのではないでしょうか。スポーツマンガの根性ものみたいな発想は持たないほうがいい。
大リーグの大谷翔平選手はたしかにものすごい努力をして、素晴らしい結果を出しています。その意味では努力と成果が結びついているのでしょう。でも、普通の子どもや普通の人にそんな努力はできっこありません。しかも彼と同じ量の努力をしても、同じ成果は絶対に得られません。
努力をしたから、これだけ手間をかけたからこんなに上手くいった、成功した。そういう考え方にとらわれないほうがいいでしょう。