誰にとっても厄介な人生を軽く生きるにはどうすればいいのか。自分にとって居心地の良い場所をどう見つければいいのか。
『バカの壁』『死の壁』など「壁」シリーズがベストセラーとなっている著者の養老孟司さん(東京大学名誉教授・解剖学者)は、最新刊の『人生の壁』(新潮新書)を制作中に肺がんが見つかり治療。
その経験を経て人生がどう変わったのか。
著書『人生の壁』(新潮新書)から一部抜粋・再編集して紹介する。
わかってもらうことを期待しない
他人に理解してもらえないことで悩む人もいます。家族や友人、会社や組織の同僚に理解してもらえない。その悩みのもとには、無理な期待があるのではないでしょうか。
自分のすべて、全人格を理解してもらうのが無理だというのは誰にでもわかることです。そして理解してもらう必要があることと、必要がないことがある。
では何を理解してもらえないか、理解してもらいたいと思っているのか。そこが本来の問題になります。
しかしそれを突き詰めて考えたところで、相手がどう考えるのかはわかりません。どうせわからないことなのだから、そもそもわかってもらうことは最初からあきらめたほうがいい、と私は思っています。
家族が俺のことを理解してくれない、会社が私のことを理解してくれない。そんなことを不満に思った時には、裏返しで考えてみればいいのです。では自分は相手のことを理解しているのか。

完全に理解なんかしているはずがありません。理解できるわけもない。理解してもらえないという不満を抱く前提には、他者や組織が自分のことを理解してくれるはずだ、してほしいという希望か願望があるのです。
しかしこれがまったくの間違いです。他者の無理解というのは今に始まったことではない。それでは不安になるかもしれません。では誰が一体、自分という存在を受け入れてくれるというのか。