異動から2か月が過ぎた頃、Fさんは出社前に腹痛が始まるようになり、遅刻も多くなっていきました。

環境の変化に適応できず…

食欲がなくなり、仕事への意欲も下がり、突然涙が出てくることもあったそうです。近所の内科で整腸剤を出してもらいましたが、服薬しても治らなかったため、心療内科を紹介されました。

これまでの経緯を話すと、「適応障害」と「自閉スペクトラム症」の傾向があると言われました。自閉スペクトラム症には、興味の対象が限られていたり、イマジネーションやコミュニケーションが得意でなかったりという特性があります。

Fさんは、営業職になって外部とのコミュニケーションの機会が増えたことでストレス過多となり、腹痛や勤怠の乱れというストレス反応が現れました。

環境への適応が難しくなったということです。グレーゾーンであっても、その環境に適応していれば、カウンセリングや医療機関の受診はあまりしません。

就職や異動など環境の変化があり、頑張っても適応できない、あるいは適応しようと頑張りすぎて抑うつ状態になった人たちがカウンセリングにきて、適応障害だけでなく、発達障害グレーゾーンでもあったというケースが非常に多いのです。

以上のようなことから、グレーゾーンの特徴の1つに適応障害があるということもできるでしょう。

『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)

舟木彩乃
心理学者・カウンセラー。公認心理師・精神保健福祉士。博士(ヒューマン・ケア科学/筑波大学大学院博士課程修了)。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や地方自治体のメンタルヘルス対策に携わる。

舟木彩乃
舟木彩乃

心理学者・カウンセラー。公認心理師・精神保健福祉士。
博士(ヒューマン・ケア科学/筑波大学大学院博士課程修了)。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」。株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。文理シナジー学会監事。一般社団法人企業広報研究ネットワーク理事。AIカウンセリング「ストレスマネジメント支援システム」発明(特許取得済み)。
カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や地方自治体のメンタルヘルス対策に携わる。Yahoo!ニュース エキスパートオーサーとして「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館新書)、『「なんとかなる」と思えるレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等がある。X(エックス)にて職場のメンタルヘルスなどをテーマとした勉強会(不定期)やイベント、集団セラピーなどを案内している。