島根・松江市にある工房で、島根伝統の幻の染料にこだわり、丁寧な手仕事で着物を織り上げる染織家が創作活動を続けている。もともとファッションの世界に身を置いていたが、沖縄で染めや織りの技術を身に着けた後、創作の地に選んだのが故郷の松江だった。伝統を「紡ぎ」続ける染織家の思いを聞いた。

“幻の染料”で織りあげる着物

松江市にある「絹工房」。

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ここで創作活動をしているのが、染織家の矢野まり子さん。その工房でまず目を引くのは大きな機織り機だ。自らが設計し、京都の機屋で作ってもらったものだという。

その機織り機で、様々な色合いに草木染めされた絹糸を使い、気品あふれる着物や帯を織り上げている。その絹織物は、国の内外から高い評価を受けている。

20代のはじめに織物と出会った矢野さんは、東京や岡山・倉敷市でファッションの世界に身を置いたあと、沖縄・石垣島で染めや織りの技術を身につけた。20年ほど前に、故郷の松江に工房を開いた。創作を続ける矢野さんにとって、中でも「紫」には特別な思いがある。

矢野さんは「この紫は、地元で栽培された「紫根(しこん)」という染料を使って染めたものです」と語った。

いにしえから高貴な色とされてきた「紫」。

日本に伝わる本来の紫を引き出すのが、ムラサキ(紫草)の根「紫根(しこん)」だ。漢方としても使われた植物「ムラサキ」の根を乾燥させたもので、古くから染料や薬として使われてきた。しかし、ムラサキは絶滅危惧種に指定され、今では幻の染料となっている。

2000年に島根・雲南市加茂町で「出雲根紫(いずもむらさき)」として栽培が復活、矢野さんはその出雲根紫で絹糸を染め、帯や着物に織りあげている。

矢野さんは「染織家にとっては本当に夢の染料で手に入らないし、一生染めることはないだろうと思っていましたが、地元で栽培されていることがわかって使わせていただいている」と話す。

着物の一点一点に想いを乗せる

矢野さんは、織りに使う「糸」にもこだわっている。

サナギが生きている状態の繭(まゆ)から糸を引く、昔ながら「生繭繰糸(なままゆそうし)」で糸を繰り出す。こうして作り出された絹糸は艶やかで柔らかく、色の乗りも際立つという。こうして繰り出された糸を「紫根」のほか、季節の草木で染め上げている。

『出雲路の 縁をむすぶ 衣紫(きぬむらさき)』

矢野さんは、仕上げた着物の一点一点に一句したため、想いを乗せている。「最初に句ができる場合と、あとにできる場合とありますが、今回のこの着物の句は、最初にでき上がりました」と話す。

また臭木(くさぎ)や藍などで染めた着物には、『宍道湖に 浮かぶおもいの 水衣(みずごろも)』との句を添えた。

矢野さんが織りなすデザインや作品。手に取った人にどのように感じてほしいか問うと、「時代を超えた色柄でありたいと思っています。この着物を求めてくださった方には100年、お母さん娘さん、お孫さんまで長い時間をかけて着ていただけたらと思っています」と思いを語った。

自然豊かな島根で育まれた素材を活かし生み出される様々な絹織物…伝統の輝きを次の時代につなげようとしている。

(TSKさんいん中央テレビ)

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TSKさんいん中央テレビ
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