米大統領選挙も大詰めを迎えて情勢が明瞭になってきた。票読みを試みると「トランプ圧勝」の可能性が見えてきた。

スイング・ステート7州の最近の情勢は

票読みの前提にしたのが、今年の大統領選挙は「スイング・ステート(選挙毎に結果が揺れ動く州)7州の行方次第」という米国のマスコミに共通の分析で、ここでは全国の一般投票の行方は無視した。

その7州の情勢は、最近の世論調査では次のようになっている。(リアル・クリア・ポリティクス平均 10月18日)

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アリゾナ州     トランプ氏48.8% ハリス氏47.4%(トランプ氏+1.4ポイント)
ネバダ州      トランプ氏47.7% ハリス氏47.2%(トランプ氏+0.5ポイント)
ウィスコンシン州  トランプ氏47.9% ハリス氏47.8%(トランプ氏+0.1ポイント)
ミシガン州     トランプ氏48.3% ハリス氏47.4%(トランプ氏+0.9ポイント)
ペンシルベニア州  トランプ氏47.9% ハリス氏47.4%(トランプ氏+0.5ポイント)
ノースカロライナ州 トランプ氏48.5% ハリス氏47.5%(トランプ氏+1.0ポイント)
ジョージア州    トランプ氏48.7%   ハリス氏47.8%(トランプ氏+0.9ポイント)

ペンシルベニア州のマクドナルドでアルバイト体験したトランプ氏(10月20日)
ペンシルベニア州のマクドナルドでアルバイト体験したトランプ氏(10月20日)

確かにドナルド・トランプ前大統領は7州全州でカマラ・ハリス副大統領をリードしているが、その差は大きくても1.4ポイントで、とても優位であるとは認められない。しかし米大統領選挙の事前世論調査では、トランプ支持者数が実際より低く出る傾向が続いているのだ。

例えば2016年のペンシルベニア州の場合なら、投票日直前の世論調査ではヒラリー・クリントン前国務長官(当時)が6ポイントリードしていたのが、最終的得票率ではトランプ候補(当時)が逆転して0.72ポイント差で勝っている。2020年もノースカロライナ州でジョー・バイデン元副大統領(当時)とトランプ大統領(当時)が共に48%でタイだったが、選挙ではトランプ氏が逆転勝利している。

支持者であることを表明しない「内気なトランプ支持者」も存在するという
支持者であることを表明しない「内気なトランプ支持者」も存在するという

世論調査には本音を明かさず、実際にはトランプ氏に投票する有権者が相当数いると考えられ、今ではそれに「shy Trump supporters(内気なトランプ支持者)」という名前も付けられた。

その理由だが、トランプ氏の政策には賛同しながらも、その傍若無人な人柄まで支持していると他人には思われたくない人や、家族や友人、隣人などとの無用な軋轢を避けるために政治には中立を装う人、あるいは最後の最後まで迷った挙げ句、投票機の前でトランプ氏を選択する有権者がいると考えられ、社会構造が込み入っているスイング・ステートでは特にその傾向が強いと言われる。

「内気なトランプ支持者」の影響は?7州中6州で“優位”に

そこで今回は「内気なトランプ支持者」を掘り起こして、より実態に近い支持率を算出してみようと考えた。それにはまず7州のトランプ支持者の「内気」にぶれる度合いを知るために、前回2020年の大統領選挙の世論調査と実際の得票率の「差」を調べた。

アリゾナ州の場合だと、バイデン氏が+1.36ポイント、トランプ氏が+3.06ポイント、それを2024年の世論調査の支持率に加えるとバイデン氏を引き継いだハリス氏の予想得票率は48.76%、トランプ氏は51.86%となり、トランプ氏は+3.10ポイントになる。各州別の両候補の差は次のようになる。

アリゾナ州     トランプ氏+3.10ポイント
ネバダ州      トランプ氏+3.11ポイント
ウィスコンシン州  トランプ氏+8.17ポイント
ミシガン州     トランプ氏+4.12ポイント
ペンシルベニア州  トランプ氏+2.34ポイント
ノースカロライナ州 トランプ氏+2.40ポイント
ジョージア州    トランプ氏+1.67ポイント

こうした世論調査では誤差の範囲は2%で、それ以上は優位が確定的になるとされるので、トランプ氏はスイング・ステート7州中6州でハリス氏に対して確実に優位に立ち、ジョージア州でほぼ優位という結果になった。

これを選挙人数に換算すると、ジョージア州を含めて7州で93人がトランプ氏の選挙人団に加わることになる。残る43州と首都ワシントンの投票結果は2020年と同じと仮定すると、最終的な選挙人数はトランプ氏309人、ハリス氏229人となる。まずはトランプ氏の「圧勝」と言える数字だろう。

スイング・ステートの“部分的地滑り”現象でトランプ氏勝利?

また、最近のマスコミの報道もその傾向を裏付けている。

10月20日、60歳の誕生日を迎えたハリス氏。ジョージア州の教会では歌で祝福された。
10月20日、60歳の誕生日を迎えたハリス氏。ジョージア州の教会では歌で祝福された。

「スイング・ステートでトランプが上昇、ハリスはパニックに陥る」(政治専門サイト「ザ・ヒル」10月13日)

「カマラ・ハリスがトランプを破るチャンスは激減とネイト・シルバー(世論調査専門家)が分析」(ニューズウィーク誌電子版10月14日)

「選挙ギャンブル市場でトランプがテレビ討論以来最高位に」(英紙「インディペンデント」電子版10月15日)

2016年の大統領選挙でトランプ陣営の選対本部長を務めたケリーアン・コンウェイさんは10月11日に、FOXニュースのウェブサイトに寄稿した論評記事で「今回の大統領選挙では“幅の狭い地滑り(narrow landslide)”の可能性を除外しない方がよい」と提言した。全面的な“地滑り”現象ではなく、スイング・ステートの“部分的地滑り”現象でトランプ氏が勝利することになるのかもしれない。

ただ、この票読みは、世論調査会社が「内気なトランプ支持者」対策をしてデータを操作していないことを前提としている。また対比した2回の大統領選挙の民主党側の候補者が、2020年はバイデン氏、2024年はハリス氏と異なるのもデータの正確性から見て問題があるかもしれないので、この結論に間違いないとは断じ切れない。

とりあえず入手できる資料をベースに分析するとこのような結果が出たわけだが、数値の正確性はともかく「トランプ氏の圧勝」という結論は「当たらずといえども遠からず」とは言えないだろうか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。