秋に大発生するイメージの強い毛虫だが「桜の木の下は毛虫が落ちてくるかも」「毛に触るとかゆくなる」、そんなイメージを持っていないだろうか。
実は今の時期に発生し、皮膚炎をもたらす「チャドクガ」の幼虫は、桜以外のごく身近な植物に付く上「近くにいるだけでNG」という、なんともやっかいな虫なのだ。
公園やキャンプ場などで、チャドクガから身を守るには?もし庭で見かけたらどうやって駆除したらいいの?害虫駆除を専門にする「808シティ株式会社」の足立雅也代表に、チャドクガの危険性と身を守る方法について聞いた。
毒針毛は「風に乗って飛んでくる」ことも
「チャドクガは身近なところで発生し皮膚炎を引き起こす、我々と関わりの深い害虫だと言えます。特にGWとお盆の前後で孵化するため、旅行に出かけているうちに自宅で発生してそのまま見逃してしまう、というパターンが多いです」(以下、足立さん)
この記事の画像(6枚)チャドクガは、4~6月と7~9月の年2回、卵から孵化する。黄色と黒の模様の幼虫(以下、毛虫)は、主にサザンカやツバキの葉の裏側に複数匹でかたまっていることが多いという。
警戒すべきなのは、チャドクガの持つ「毒針毛(どくしんもう)」。分かりやすいのは毛虫の体のまわりの“トゲトゲ”や“フサフサ”の部分だが、これが皮膚に触れると、かゆみを伴う発疹が出てしまう。
毒針毛がやっかいなのは、卵・毛虫・脱皮した殻・さなぎ(繭)・成虫のすべての段階に存在することと、目に見えないほど細く軽いこと。
毛虫自体だけでなく、葉に残った卵や、脱皮したあとの抜け殻に付いた毒針毛が風に乗って飛んでくることもあるなど「近くを通るだけ」でも危険なのだ。
チャドクガが好むサザンカやツバキは山などに自生している他、家の垣根や植え込みに使われることがある。そのため、キャンプなどの山でのレジャー時や、自宅の庭には注意が必要だ。
フンの有無で危険を回避
では、そんな毒針毛から身を守るためには、どうしたらいいのだろうか。
まず、チャドクガがつく木がある場所に行くときには、長袖・長ズボンなど「極力皮膚を出さない服装」をすると良いという。
「半袖・半ズボンという服装だと、飛んできた毒針毛が直接皮膚に刺さります。さらにかゆみが出て皮膚を掻くことで、刺さった無数の毒針毛が皮膚の上で広がって、かゆみの範囲も広がったしまいます。また、搔いているうちに痛みも生じます」
さらに、皮膚を出さない服装をしていても、服の生地に毒針毛がつく可能性があり、注意が必要。
たとえば、毒針毛がついた袖で額の汗をぬぐってしまうと、服から皮膚に毒針毛が刺さり、直接皮膚に触れた場合と同じように皮膚炎を引き起こしてしまうという。
では実際に自宅や外出先で、木に毛虫がついているかどうかを確かめるにはどうしたら良いのだろうか。
足立さんによると、木の下に落ちている“フン”を目印にしてほしいという。
「毛虫のフンは、深い緑色をした、ご飯粒くらいの丸くて小さい粒々です。このフンが木(垣根や植え込み)の下に集中して落ちていたら、大量の毛虫が隠れている可能性があります」
足立さんによると、フンが落ちているスペースの垣根・植木の葉の裏をチェックし、毛虫がずらりと並んでいる場合は、チャドクガの幼虫である可能性が高いという。
「毒針毛を固めて駆除」も
フンや毛虫を見つけた場合、まずは「近づかないこと」が鉄則。
しかし、外出先ではなく自宅の庭で発見した場合、そのまま放置しておくのも怖いだろう。そんな時は、服装と薬剤に注意しつつ自力で駆除することもできる。
「毛虫を殺すには、市販されているチャドクガ用の殺虫剤を使ってください。この時、必ず風向きを確認し、自分や周囲の人にかからないように噴霧します。また『毒針毛固着剤』も専用に売られています。これは毛虫を殺すのではなく、毒針毛ごと『固めて動けなくする』もので、これを使った後に葉や枝ごと切り取って駆除、燃えるゴミとして処分します」
駆除する際は、長袖・長ズボンが必須。それに加え、ゴム手袋・ゴーグル・使い捨てのマスクなどがあると良い。
また、撥水タイプ(つるつるした素材)のつなぎを着るのもおすすめ。さらにゴーグルやマスクで覆いきれなかった顔の露出部分については、ワセリンなどを厚めに塗っておくことで、もし表面に毒針毛がついても皮膚に刺さりにくくなり、後々洗い流すことができるという。
また、卵や脱け殻などが近くにあれば、それも見逃さずに処分してほしいという。
「農薬を使って毛虫そのものを殺すことはできますが、それで終わりではありません。毛虫の死骸や抜け殻、卵の殻などを物理的に除去しないと、毛虫本体がいなくなった後も皮膚炎を引き起こす原因になります」
さらに、駆除作業中に着ていた服には毒針毛がついている可能性があるため、そのまま処分するか、洗濯機で洗う場合は他の服とは別にして「その服のみで」洗うのが良い。
「サザンカやツバキの近くを通りかかったが、かゆみの症状などは出ていない」場合は過敏になる必要はないが、もし症状が出た場合は、その時着ていた服は分けて洗濯すると良いだろう。
身近な場所で発生する毛虫の被害だが、むやみに手を出すことはせず、しっかりと準備を行ってから駆除してほしい。
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【足立雅也(あだち・まさや)】
害虫駆除や鳥獣対策を手掛ける「808シティ」代表取締役社長。大手害虫駆除専門チェーン店勤務中に全国コンクールで優勝。その後、業務用殺虫剤、噴霧器を販売する商社に転職。蚊やマダニに対する殺虫剤効力評価試験に協力する。宿泊関連業界、殺虫剤メーカーと協力し、トコジラミ駆除方法を研究し、講演や執筆にて全国に広める。独立後、自ら現場作業をする傍ら、数社の技術指導を行う。