福島県郡山市の阿武隈川沿いに建設されている大規模な水門。2026年3月から運用開始を目指すこの設備は、大雨により市街地に溜まった水を1秒間に最大で18トン川に放出することができる。近年増えている短時間強雨に備え、各自治体でも対策が進められている。都市での対策を取材した。
ゲリラ豪雨に弱い街の対策
周囲を山地に囲まれ、盆地や阿武隈川など低い場所に水が集まりやすい福島県郡山市は、街なかが比較的短時間で冠水してしまうというゲリラ豪雨に弱い街でもあった。
この記事の画像(12枚)この問題の解消を図ろうと、郡山市は2014年から「地下」の大改造に乗り出した。
その名も「ゲリラ豪雨対策9年プラン」。市の中心部、JR郡山駅周辺に雨水を溜める施設を建設。短時間の局所的な雨により、下水道の処理能力を一時的に超えてしまった場合、それをカバーするための「水がめ」をつくる。
溜まった水はポンプなどを使って、ゆっくりと川に吐き出すというものだ。
東北の自治体として初めて国のゲリラ豪雨対策制度・国土交通省「100mm/h安心プラン」に登録された。
最大の施設 小原田貯留管
そして、その「水がめ」があるのはマンホールの下。最も深いところで地下11メートル。これが、市街地大整備のプロジェクトのひとつ「小原田貯留管」だ。
奥へ奥へと進んでいくと、直径4メートル、長さ1.4キロにも及ぶ巨大な配管が現れた。ここだけで1万7000トン、25メートルプール56杯分の雨水を溜めることができる、プロジェクトの中でも最も巨大な施設だ。
下水道管からあふれた水をこの「水がめ」にためて、水門を経由し阿武隈川に排水するという仕組みだという。
地下施設整備で被害が改善
郡山市上下水道局・下水道整備課の乙川貴司課長は「雨水対策・浸水対策は、流すだけ・貯めるだけではなかなか被害を軽減できない。昔に比べて、雨が集中して強く降るようになっている。さらには都市化の進展によって、雨水が浸透する機能も低下しているので、対策のためには色んな方策で対応が必要」と話す。
郡山市街地では、このような雨水をためる設備を2023年度までに5カ所整備し、現在はそこに雨水を流すための水路の工事を進めている。
地下施設の整備により市街地の排水機能は向上し、ゲリラ豪雨に対する街なかの浸水被害は改善された。市のシミュレーションによると、1時間に約60ミリの雨が降った場合、整備前と整備後で浸水する広さが半分ほどになるという。
川の治水対策も合わせて
私たちの足元で進む「ゲリラ豪雨」対策。一方、郡山市では2019年の東日本台風による阿武隈川の氾濫で全世帯の約15%が浸水被害にあうなど、「川そのもの」が抱え込める水の量も課題となっている。
乙川課長は「企業や住民の皆さんは、苦労してきたと思う。整備を通じて少しでも安心できる、安全安心な街づくりを進めていきたい」と話し、国や県とも連携しながら、県内を流れる阿武隈川の流域で川底の掘削や木の伐採などで抱え込める水の量を増やし、上流では大規模な遊水地の整備も行われている。
災害多発県 対策は完璧?
2013年から2022年の浸水被害額を都道府県別にみると、福島県が約7027億円と突出している。東日本台風で氾濫した阿武隈川の上流では、遊水地が2024年秋にも着工というスケジュールで進み、被災の経験も活かされたハード面の対策が進んでいるが、これで安心と思ってはいけない。
東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・松尾一郎さんは、気象庁のデータを示し「福島県の年平均気温は1890年から2020年までの130年で2℃も上がっている。
このことにより大雨の頻度は上がっている。ハード面の整備は進んでいるが、完成するまでに時間がかかる。その間にいかに命を守るかというと、ソフト面。自身の防災への意識が重要」と話した。
(福島テレビ)