白血病などの患者に骨髄の提供をサポートする「骨髄バンク」の登録者が高齢化とともに足りなくなることが懸念されている。テレビ新広島の社員が骨髄ドナーに選ばれ、入院して細胞の採取に臨んだ。また、過去に移植を受けた人は「神様が私の中に入ってきて、生かしてくれている」と語る。「骨髄バンク」の実情を取材した。
認知度が低い「骨髄バンク」の活動
「骨髄バンク」は白血病などの患者に、血縁のない人から造血幹細胞の提供を受け、患者への移植をサポートしている。このシステムでは、ドナーと患者はお互いが誰かを知ることはできない。そんな事情もあり、骨髄バンクの活動の認知度は高くないのが実情だ。

そんな中、テレビ新広島の社員が骨髄ドナーに選ばれた。インターネットなどの事業を担当する渡辺琢水(わたなべ たくひろ)だ。

今は30代だが、10代から「人助けできれば」という気持ちで、献血を重ねてきたという。献血の延長線上で大学生の頃、友人と「骨髄バンク」に登録。それから今までに連絡が来たことはなかったが、今回、その連絡は突然やってきた。
ドナーの連絡はショートメール
テレビ新広島・渡辺琢水:
最初はスマホに「あなたと患者の型が一致しドナーに選ばれました。3日以内に回答を」とショートメールが来た。最初はちょっといたずらかなと思ったのが正直なところです。

前向きな返事をしたところ、指定された病院で骨髄バンクのコーディネーターの面談を受けることになり、改めて意思確認が行われた。コーディネーターの神村尚美さんは、「骨髄の提供は、ドナーの自由意志なので、いつどの段階でも辞退できる。リスクも理解した上で提供するかどうかを決めてほしい」と説明。

骨髄の提供の副作用や合併症のリスクはゼロではなく、検査や投薬による通院や採取による入院など時間的負担もかかることから辞退する人も少なくないという。

骨髄バンク中四国地区代表の松浦裕子さんによると、提供には休みを何回もとる必要があるので、仕事を理由に辞退するケースが最も多いとのことだ。
登録者55万人のうち10年で24万人が年齢制限超え
骨髄バンクの担当者の説明から、高齢化でドナー登録者の不足が懸念される実情が浮かび上がってきた。ドナーになれるのは18歳~54歳、働き盛りの年齢だ。現在登録者はおよそ55万人。このうちの24万人が10年以内に年齢制限を超え、登録者が大きく減ると予測されている。

また、およそ1600人いる待機患者と提供された骨髄や細胞が適合する確率は、数百から数万分の1ということだ。

日々、待機患者と接する広島大学病院の土石川佳世医師は、「少しでも多くの方にドナー登録していただき、治療の選択肢を広げていければ」と語る。

説明を受けた渡辺だが、提供の意思に変わりはないようだ。
テレビ新広島・渡辺琢水 :
すごく人の役に立ちたいので、提供を進めたい気持ちは変わらない。家族に対してもそこは説明しようと思いました。

提供には家族の同意も必要で、この日は、実際に提供を行う病院で、家族も交えて最終面談が行われた。面談にはドナーとその家族、さらに弁護士などの第三者が立ち会う。

小さな子を抱える渡辺の妻は、不安を隠せない様子ながらも、こう語る。
渡辺の妻:
意思が固いので反対してもしょうがない。不安はもちろんあるが、患者さんが助かってくれるならいいかな。

骨髄バンクが行うドナーの提供方法は「骨髄採取」と「末梢血幹細胞採取」の二つに分かれる。骨髄採取は全身麻酔をし、腸骨(骨盤骨)に針を刺し注射器で骨髄液を吸引する。

一方、末梢血幹細胞採取は意図的に注射で造血幹細胞を増やし、採取するもの。今回、渡辺が行うのは、この「末梢血幹細胞採取」。採取前に3日間、注射により提供する造血幹細胞を増やす。

渡辺は、ボランティア休暇制度を使い3日間休みをとり入院した。入院費用は患者の健康保険などから支払われ、ドナーに負担はない。
テレビ新広島・渡辺琢水:
投薬を全部で4回やって、2日目ぐらいから肋骨や腰が響いたり、歩くと痛む

入院2日目、いよいよ細胞採取だ。担当医師からは、「がんばってね。今から長丁場になる」と励まされる。血液成分分離装置を用い、およそ3~6時間かかる。

胃痛や筋肉痛を伴う人もいるということだが、渡辺は大丈夫だったようだ。
テレビ新広島・渡辺琢水:
平気です。しびれもないし特に痛みもない。

渡辺の造血幹細胞は採取されてすぐ、患者のもとへ届けられた。提供者に患者の詳細が知らされることはない。
13歳で急性骨髄性白血病に
患者にとって、骨髄バンクはどのような存在なのか?10数年前、提供を受けた患者を取材した。広島県廿日市市でバレエ講師をする三木まりあさん。3歳からバレエを始め、バレリーナを目指していた13歳のとき急性骨髄性白血病にかかった。

バレエ講師・三木まりあさん:
いろいろな治療をして抗がん剤を使うわけだから、副作用として吐き気とか脱毛とかすごくあって絶望的な感じでした。

三木さんの両親は、骨髄移植を決断し、3か月後にドナーが見つかった。患者にとって、移植は、拒絶反応などのリスクもあり命がけだ。三木さんはまたバレエを続けたい一心で、つらい治療を乗り越えた。
「神様が私の中に入ってきて、生かしてくれている」
バレエ講師・三木まりあさん:
骨髄移植については、血を入れ替えるという風に話されていて、たったそれだけのようなことなんですけど、人が生まれ変わるというか、ドナーさんが本当に神様のような存在で、神様が私の中に入ってきて、私を今生かしてくれているという感じ。

移植で症状が安定した三木さんは、先日初めてバレエ教室の発表会を開いた。受付でパンフレットと共に配布したのは、骨髄移植のリーフレット。ロビーには、骨髄バンクのブースも設けられた。

まずは、骨髄バンクの取り組みがあることを一人でも多くの人に知ってもらいたいと考えている。今は、全力でバレエに取り組む三木さんは、ドナーの存在で人生が変わったと語る。

バレエ講師・三木まりあさん:
本当にもうありがとうの一言ですよね。今、楽しいよって伝えたいですね。楽しくて幸せで、生きてるよと伝えられたらうれしいなと思います。
骨髄バンクについての情報は、「日本骨髄バンク」のホームページにドナー登録の方法など、詳しい説明がのっている。
(テレビ新広島)