東京証券取引所に上場する企業の2023年度の決算がほぼ出そろった。SMBC日興証券によると、TOPIX(東証株価指数)を構成する、3月期決算の企業6割超で最終利益が増益となる中、メガバンク3社も例外ではなく、2社で過去最高益を更新した。
“金利のある世界”に戻りつつある中、メガバンク3社の視界は良好か?死角は何か?行方を占う。

三菱UFJと三井住友が過去最高益 3社あわせて3兆円突破

メガバンク3社の2023年度の最終利益は、三菱UFJフィナンシャル・グループが1兆4907億円、三井住友フィナンシャルグループは9629億円となり、いずれも過去最高を更新した。

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一方、みずほフィナンシャルグループは6789億円と過去2番目の高水準となり、3社の最終利益の合計は初めて3兆円を突破した。

好決算の背景に歴史的円安も・・・「ゲタを履いた数字と受け止めるべき」

国内では、脱炭素やデジタル分野など企業向けの融資が活発だったことが収益を押し上げた。海外でも、アメリカを中心に金利が高止まりする中、貸出金利と預金金利の差である「利ざや」が膨らんだ。

さらに業績の追い風となったのが急速に進んだ「円安」だ。三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長は「極めて力強い決算」、みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長は「実力がついている」と手応えを示した一方、三井住友フィナンシャルグループの中島達社長は「ゲタを履いた数字と受け止めるべき」と振り返った。

2024年度3社とも増益へ 三井住友 最終利益初の1兆円超え見通し

好業績の勢いは2024年度にも及んでいて、3社ともに増益を見込んでいる。

三菱UFJフィナンシャル・グループは1兆5000億円の見通し。三井住友フィナンシャルグループは1兆600億円と、グループ初の1兆円超を予想。みずほフィナンシャルグループは7500億円の見通しだ。

“金利のある世界”へ 日銀の追加利上げに3メガトップは

今後、3社の業績にとって大きな焦点となるのは、日銀の金融政策正常化に向けた「追加利上げ」の動きだ。

3社は日銀のマイナス金利解除による影響を2024年度の業績見通しに織り込んでおらず、400億円から500億円押し上げ効果があると試算している。また、三井住友フィナンシャルグループは、金利全体が0.1%上がると約400億円の増益効果があるとの見方も示した。“金利のある世界”が再到来を3社のトップは前向きに捉える一方で、慎重な姿勢も崩していない。

三菱UFJフィナンシャル・グループ 亀澤宏規社長
三菱UFJフィナンシャル・グループ 亀澤宏規社長

三菱UFJフィナンシャル・グループ 亀澤宏規社長:
プラス要因になってくる。利ざやが改善してくるのでポジティブ。金利がある世界に入ると、これまでの低金利ということで調達できる世界から変化して、事業活動における収益を上げるとか、インフレに負けない資産価値の強靭化をするというニーズが増えてくると思うので、お客様に寄り添った形でニーズに対応していく。日本経済が復活していくチャンスだと思うので貢献していきたい。

三井住友フィナンシャルグループ 中島達社長
三井住友フィナンシャルグループ 中島達社長

三井住友フィナンシャルグループ 中島達​社長:
正常化に向けた第一歩。今後も正常化に向けた動きが継続することを期待。住宅ローンを借りている人は負担が増えるが、預金金利収入の増加の効果が今後上回ってくるので、家計にもプラスの影響が出てくる。

みずほフィナンシャルグループ 木原正裕社長
みずほフィナンシャルグループ 木原正裕社長

みずほフィナンシャルグループ 木原正裕社長:
利ざやが拡大するメリットがある一方で、インフレ2%が継続ならコストに響いてくる。両者しっかりコントロールしながらやっていく。政策金利の引き上げがあるかどうかは見通しが難しい。落ち着きどころをある程度見極めてからでないと動けない。難しい局面。

日銀のマイナス金利解除以降、3社は普通預金の金利を0.02%とし、これまでの20倍に引き上げた。今後、変動型の住宅ローン金利が引き上げられる可能性もある。“金利のある世界”に戻りつつある中、多くの行員がそれを知らない世代に入れ替わっている。アメリカの長期金利の高止まりや大統領選、中東情勢の緊迫化、さらに歴史的な円安も加わり、銀行を取り巻く環境は嵐の前の静けさと言えるのかも知れない。
(執筆:経済部 山下あす奈)

山下 あす奈
山下 あす奈