バイデン大統領は5月15日、ビデオメッセージを公表し、トランプ前大統領に対し11月の大統領選に向けたテレビ討論会に2回参加するよう促した。
バイデン大統領は、「ドナルド・トランプは2020年に私に2回の討論会で敗れた。それ以来、彼は討論会に現れなかった。今、彼はまた私と討論したいかのように振る舞っている。”私の一日”にさせてくれ。何なら2回してやる。では日程を決めよう。ドナルド (裁判は毎週)水曜日が空いているそうだな」と述べた。トランプ氏がポルノ女優への不倫口止め料裁判で水曜日以外は動けない事を皮肉った。
これに対し、トランプ前大統領も自身のSNSで「今こそ討論の時だ。ペテン師ジョーと討論する用意がある」と応じた。
この記事の画像(5枚)党の候補者を正式に決定する7月の共和党大会、8月の民主党大会を前にした直接対決は異例だ。テレビ討論会の開催は、トランプ氏が2月に口火を切り、バイデン氏はようやく4月に「いつになるかわからないが喜んで討論する」と応じていたが、具体的な時期は決まっていなかった。
バイデン氏の陣営は15日、ビデオメッセージの公開に当たり、討論会の開催条件をいくつか提示した。一つは、トランプ氏が参加した2016年の共和党予備選の討論会(CNN/Fox News/CBS/ABC/Fox Business/CNBC)とバイデン氏が参加した2020年の民主党予備選の討論会(CNN/CBS/NBC/ABC/PBS/MSNBC)を主催した放送局による会の開催だ。
二つ目は、どちらかの党への偏りを避けるため、討論会の司会者は主催する放送局の正規の人員から選ぶこと。
三つ目は、討論会は1対1の直接対決であること。つまり、“第三の候補”となるロバート・F・ケネディJr氏は参加しないことを条件にあげている。
さらにバイデン氏は、討論会は、候補者と司会者だけによるテレビ局のスタジオで行うべきとしていて、聴衆の参加を拒否した。
これに対し、トランプ氏は聴衆を呼ぶべきだと主張している。聴衆を拒否するバイデン氏を巡っては今、あらゆる演説会場で親パレスチナによる抗議者が現れ、演説が中断することが珍しくない。また聴衆の中に熱狂的なトランプ支持者がいれば、自らのペースが乱されることが想定されるからだ。支持・不支持は関係なく、あらゆる聴衆の声を励みにするとされるトランプ氏にとっては、ペースをつかみづらい流れとなる可能性もある。
専門家は“先手”のバイデン氏が有利と想定
バイデン氏が6月と9月のテレビ討論会を提案したことを受けて、すぐさま反トランプ氏のCNNが6月27日を提案し、ABCが9月10日を提案した。バイデン、トランプ両氏ともその日程を受け入れたが、あまりのスピード決定に“出来レース”ではないかとの指摘もある。
この動きについて、大統領選挙を分析するジョージ・ワシントン大学のトッド・ベルト教授は「先手を打ったバイデン大統領にとって有利な展開になる」と語る。
ベルト教授は、「バイデン、トランプ両陣営は、この数週間、テレビ討論会の交渉を続けてきた。先手を打つことでトランプの(日程や条件)を潰すことが出来た。これにより“大統領を続けるには年を取り過ぎている”と言う批判を交わすのにも役立った」と語る。
これについてトランプ氏は15日、3回目のテレビ討論会をFOXニュース主催で10月2日に行うよう提案したが、バイデン氏はこれを完全に無視している。
ベルト教授はさらに、バイデン氏が提示した3つの条件のうち2つがバイデン氏を有利に働くと語る。
ベルト教授:
「1つ目は、双方の主張を邪魔しないよう、一方のマイクの音声をカットすることだ。トランプ氏は、人を打ちのめすのが大好きだ。いじめっ子になるのが大好きなのだ。もしバイデンを言い負かしたり、いじめたりすることができれば、バイデンは大統領になるには年を取りすぎている、あるいは体が弱すぎるという事実を強調することができると考えている。もうひとつは、聴衆を入れないテレビ局のスタジオを使うたことだ。一般教書演説などを見ればわかるように、共和党員は民主党員よりも大統領に野次を飛ばす傾向が強い。ヤジによって、バイデンが調子を崩す可能性もある。また、聴衆の反応がないため政策的な問題についてじっくり話すことができる。そして、3つ目は、この討論会に第3党の候補者が参加しないようにしたことだ。最後に第3党の候補が参加したのは1992年には、当時の候補者が大きな勢いを得ることができた。これはバイデン、トランプ両氏にメリットがある」
2020年9月、前回の大統領選でバイデン氏とトランプ氏が初めて直接対決した90分間のテレビ討論会は、史上3番目となる7310万人が視聴したとされている。これはスーパーボウルの視聴数に匹敵する。
しかし、今回はどうだろうか。アメリカでは、無党派層が4割に上るとも言われているなか、81歳のバイデン氏と77歳トランプ氏の高齢者の直接対決は望まないとの声もあがっている。合意された6月と9月のテレビ討論会は「視聴者数」にも注目が集まっている。
(執筆:FNNワシントン支局千田淳一)