避難者が多い西部リビウの生の声

欧米による支援が停滞し、前線での戦況の悪化が伝えられる中でのウクライナ入り。1年前に比べても明らかに戦争の終わりが見えなくなってきている。今回の取材は、首都キーウ以外にも南部の都市オデーサおよびミコライウ、西部の都市リビウや、前線まで30kmのところにあるヘルソン州の村など計5か所で行った。

アナログな“日本式”街頭インタビュー

今回の取材の課題の一つは、そんなウクライナの人々の本音をどうやれば聞き出せるかだった。戦時下に「戦争についてどう思う?大統領は?」などと聞いても、なかなか答えてくれない。そこで考え付いたのが、日本でよく見るフリップを使った取材方法だ。

これが意外にも“当たり”だった。マイクを差し出しても通り過ぎようとした人に、フリップを見せると物珍しさに立ち止まってくれることも。さらに、シールを貼る過程で考えることになるようで、自ら進んで理由を語ってくれる人が多かった。

もちろん日本と同様、立ち止まってくれる人は少数派。500人以上に声をかけた結果、以下の50人の生の声をきくことができた。

まずは全員に以下の4問を質問。
1. 「ロシアの侵攻から2年、戦闘継続を望みますか?」はい・いいえ・わからない
2. 「シルスキー現・総司令官を信頼していますか?」はい・いいえ・わからない
(今年2月ウクライナ軍の総司令官に就任したシルスキー氏は、モスクワの高等軍事学校で学んだことから、旧ソ連およびロシア軍の影響を受けているといわれる。)
3. 「ザルジニー前・総司令官を信頼していますか?」はい・いいえ・わからない
(ザルジニー氏は2021年にウクライナ軍の総司令官に就任。侵攻当初、首都キーウの防衛に成功。その後のロシア軍との戦いで成果を上げ国内で支持を集める。しかし、23年6月からの反転攻勢ではあまり成果があがらず、またゼレンスキー大統領との不和が表面化し今年2月に解任される。次期イギリス大使に内定。)
4. 「ゼレンスキー大統領を信頼していますか?」はい・いいえ・わからない
その後、気になることなどについて聞いた。

戦場から離れ避難者が多い西部の街リビウの生の声

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ウクライナ西部の都市リビウはロシアとの主戦場である東部や南部、そして首都キーウからも離れているため、侵攻当初から多くの難民が避難した街。我々はそんなリビウで取材を開始した。

 リビウ在住 20歳男性 ユーリ
1. 戦闘継続を望まない
2. シルスキー現・総司令官を信頼していない
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼している
「戦争の継続は望んでいない。他の人もそう思っていると思う。だから政府は方針を変えるべき。1年前とは考えが変わった。でも、もし徴兵されたら国のために戦う。それが、国のためになるなら」
「ザルジニーは未来を見据えて動いていた。シルスキーは古い考えの人。ゼレンスキー大統領は人々に希望を与えた。でも戦争はもういらない」

リビウ在住 49歳女性 オクサナ
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼している
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼していない
「ウクライナにとって勝利が必要だから、戦争は続けるべき。たとえ5年、10年かかっても。
ザルジニーやシルスキーなど軍人たちは勝利をもたらしてくれる。だから信頼している。でも、ゼレンスキーは我々に勝利をくれなかった。だから信頼していない。以前も投票していない。ウクライナにはロシアと違って大統領を批判できる自由がある。その自由を守るために闘い続ける必要がある」

リビウ在住 10代女性
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼している
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼する
「もし家族や友人などが徴兵されたら戦場に行くべきだとは思うけど、なぜと聞かれても答えられない」

リビウ在住 25歳男性 ダニーロ
1. 戦闘継続を望まない
2. シルスキー現・総司令官を信頼している
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼していない
「私は(ロシアに一方的に併合された)ルハンスク州のセベロドネツク出身。これまでに2014年と22年の2回にわたって家族と一緒に避難した。もうすでに自分の家と故郷は失った。廃墟と燃え尽きた畑しか残っていない。だから戦闘の継続は望まない」
「多くの友人や知人が戦闘で命を落とした。15人もの友人だ。これ以上、土地のために人の命を失うことに反対だ。この1年で国民は政府に絶望している」
「いくらウクライナを愛していても、本当は戦いたくない」
「でも、動員されたらウクライナを守るため戦争には行く。正しいのはウクライナだから。避難民として、領土をとりかえすには戦わなければならないのはわかっている。友達とも話すけど、戦闘は早く終わってほしいけど、呼ばれたら行く」
「侵攻前は、旅行をよくしていた。塹壕に行って死ぬことなく、国境を越えて世界を旅してみたい」
「ゼレンスキー大統領を信頼しない理由?面白い質問だ。でも答えない。なぜなら答えるのに3時間以上必要だから。最初から、彼を信頼してなかった」

リビウ在住 男性 教師
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼している
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼している
「私も含めほとんどの人は戦争を継続すべきだと思っている。ロシアは力でなければ止められない。ウクライナだけでは終わらない。ロシアはバルト3国やポーランドに行くと公言している。100年前にロシアの兵士がいたところはすべてロシアの領土だと。フィンランドも同じ。日本の北方領土もそうだ」
「弾薬も尽きてきたし、停戦したほうがよいという声もあるのも知っている。西側が理解しなければならないのは、もしウクライナがこの戦争に負ければ、民主主義が世界で負けるということ。そして、世界の独裁者たちに隣国に攻め入る理由を与えることになる」
「私の周りでも多くが動員され、そのうちの何人かが怪我したり死んだりしている。とても悲しい」
「ゼレンスキー大統領はこの2年間、様々なことを世界に証明してきた。彼がいるから、世界が支援してくれている。支援が終わったら、もう誰もウクライナを助けることはできない」

リビウ在住 女性 30代
1. 戦闘継続を望まない
2. シルスキー現・総司令官を信頼していない
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼していない
コメントなし

リビウ在住 17歳男性 学生
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼できるかわからない
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼できるかわからない
「これまでに亡くなった人が浮かばれないから、戦闘は続けるべき。動員されても僕はいかない。僕は兵士としてではなく、ドローンを作ったりして、ロシア兵を殺害する。」

リビウ在住 男性 ペトロさん
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼できるかはわからない
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領は信頼する
「ザルジニ―は我々の将軍だから支持する。ゼレンスキー大統領も支持する」

リビウ在住 男性 オレクサンドルさん
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼できるかはわからない
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼していない
「ゼレンスキー大統領を信頼しない理由は、彼が国をコントロールできていないから。ただPR活動しているだけ。特にザルジニーを解任したときに駄目だと思ったよ。もう全然信頼していない」

キーウからリビウを訪問中 30歳女性
1. 戦闘は継続すべき
2. シルスキー現・総司令官を信頼している
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼している
「この戦争には勝つべきだと思っている。そして唯一の方法は戦闘を続けること。どれくらい時間がかかるか分からないけど。もう私の人生ですでに10年間戦争(2014年から)しているし、このまま30年続くかもしれない。だから唯一の方法は勝つこと」
「私はいま30歳で妊娠している。もしかしたら私も軍隊に行かなければならないかも。そうなったら両親に子供の面倒を見てくれるように頼まなければならないと、半分ジョークで言っている。でも真面目に、もし動員されたら迷わずに行く」
「本当に赤ちゃんを産むべきか。1年後、2年後どうするべきなのか、いつも考えている」

リビウ在住 男性
1. 戦闘継続を望まない
2. シルスキー現・総司令官を信頼できるかはわからない
3. ザルジニー前・総司令官を信頼している
4. ゼレンスキー大統領を信頼している
コメントなし

(執筆:FNNロンドン支局長 田中雄気)

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田中 雄気
田中 雄気

FNNロンドン支局長。侵攻後のウクライナをこれまでに5回取材。元社会部記者。夕方および夜のニュースのディレクター、デスク、プロデューサーなどを経験。