食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。  

今回植野さんが訪れたのは故郷でもある栃木県・宇都宮市。植野さんが子供の頃から食べていた店を巡り食のルーツを解き明かし、地元に根付く昔ながらの名物料理を紹介する。

宇都宮ライトレールも開業した話題の街

東京から新幹線でわずか50分。

栃木県のほぼ中央に位置する宇都宮市は、北関東最大の都市。2023年8月には次世代型路面電車の宇都宮ライトレールが開業し今話題の街だ。

やってきたのは栃木県、宇都宮市にある二荒山神社。街中に突如大きな鳥居が現れる。

実は宇都宮は植野さんの故郷。そして、宇都宮といえば誰もがご存知の宇都宮ぎょうざ。街には多くの餃子専門店が立ち並び、浜松や宮崎とその消費量支出額を競う「餃子の街」だ。しかし、この街の名物は餃子だけでは無いのだ。

餃子に次ぐソウルフード「焼きそば」

続々とお客さんが訪れる、宇都宮焼きそばの店「千家」。

宇都宮で出会った名物料理1つ目は、ふっくらもちもち麺の千家の焼きそばだ。

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中太麺にたっぷりのキャベツとイカが入ったシンプルな逸品。

宇都宮には昼に手軽な焼きそばを食べる文化があり、番組で調べただけでも市内には約20軒の焼きそば店がある。

宇都宮焼きそばは、餃子に次ぐ宇都宮のソウルフードと言われている。

植野さんの実家の味を守り続ける店

植野さんの実家の焼きそば店「おかめや」は、1951年に祖父が開店。植野さんの父もその跡を継いで2代目となり、夫婦二人三脚でお店を続けてきた。

しかし高齢となり、体力的な限界を感じて閉店を決意。2010年、惜しまれながらも60年の歴史に幕を閉じた。

(右)千家店主の佐藤良平さん
(右)千家店主の佐藤良平さん

その「おかめや」の味を受け継ぎ、守り続けているのが、千家店主の佐藤良平さんだ。

佐藤さんはもともと近所で生まれ育ち、おかめやの焼きそばを食べて育った。

久しぶりの“実家の味”をかみしめる植野さん
久しぶりの“実家の味”をかみしめる植野さん

閉店を知った佐藤さんは「おかめやの焼きそばがなくなるのはもったいない!」と思い、店を訪ねて「おかめやの味を受け継がせてください」と頼み込んだという。

その後、店に何度も通い、熱意をぶつけた。

するとある日、お父さんからOKの返事をもらい、9カ月の修業期間を経て、2011年に「千家」の開店にこぎつけた。

植野さんは久しぶりの味に「懐かしいな」とかみしめていた。

宇都宮焼きそばのルーツを知る店

なぜ、宇都宮焼きそばは広まったのか?

訪ねたのは、1952年開店の石田屋焼きそば店。現存する宇都宮焼きそばの店の中では最古の店だ。

石田屋特製ミックス
石田屋特製ミックス

一番人気の石田屋特製ミックスは、細切りのハムや豚肉などがたっぷり入った具沢山の焼きそば。

その厨房をのぞいてみると、長いヘラを使って焼きそばを焼き、柄杓のような物に移したかと思ったら、そのまま袋にイン。

長いヘラを使って焼きそばを焼く
長いヘラを使って焼きそばを焼く

現在、市内にある焼きそば店の大半がテイクアウト可能だという。

気軽に持ち帰れることで焼きそば文化が広まり、お店が増えていったとも言われている。

知らない人はいない「カレーショップフジ」

続いて植野さんは、思い出のお店へ向かう。

そのお店があるのは宇都宮の中心地にあるオリオン通りの中。約500メートルに渡って80軒の店が軒を連ねる宇都宮市民憩いの商店街の中にあるお店だ。

宇都宮で出会った名物グルメ2つ目は、優しい甘さの「カレーショップフジ」のカレーだ。

1965年に開店し、宇都宮で知らない人はいないと言われるほど有名なカレー専門店で、昼時には空席待ちが出るほどの人気ぶり。

大橋さんご夫妻で長年営んでいたが、今では娘の加奈さんも加わり、家族でその味を守っている。

植野さんの思い出の味「カレー」
植野さんの思い出の味「カレー」

高校生の頃に戻って、「カレー」を頼んだ植野さんは、目の前に出された瞬間に「懐かしい!」と一言。「いろいろなものは忘れちゃうけど、この香りだけは覚えている」と学生時代の思い出に浸った。

地元で愛される町中華 「オギノラーメン」

続いて、細い路地へ入って行く植野さん。

訪れたのは宇都宮の街の路地裏に佇む「オギノラーメン」だ。

約90年間、地元で愛されてきた店で、店内は家族連れで賑わい、子供達も美味しそうにラーメンを食べている。

宇都宮で出会った名物グルメ3つ目は、昭和の雰囲気満載「オギノラーメン」。昔ながらのシンプルな中華そば、だ。

麺類もデザート系も両方楽しむことができるメニュー
麺類もデザート系も両方楽しむことができるメニュー

特徴的なのは店内で、よく見てみると、メニューの左側は麺類だが、右側はデザート系メニューがずらりと並ぶ。

オギノラーメンは「ラーメンと甘党の店」と銘打ち、アイスクリームやクリームソーダなどスイーツも楽しむことができる。

植野さんの記憶に焼きついていたのは、子供心をくすぐる魅惑の組み合わせだ。

看板メニューのちゃんぽん
看板メニューのちゃんぽん

注文したのは、ラーメンと並ぶもう一つの看板メニュー、たっぷりの野菜と豚バラ肉が乗ったオギノラーメン名物のちゃんぽん。

細長いお皿は、「お客さんにインパクトを与えたい」と初代が考案したそう。

「50年近くぶりかも」と興奮する植野さんは、一口食べて変わらない味を懐かしんだ。

伝統野菜、新里ネギが食べられる

宇都宮ならではの食材を使った料理を出しているというのが「居酒屋きょうや」。

宇都宮で出会った名物グルメ4つ目は、宇都宮の伝統野菜 新里ネギを使った料理だ。

「居酒屋きょうや」ねぎの炭火焼き
「居酒屋きょうや」ねぎの炭火焼き

宇都宮市新里町で栽培される伝統野菜の新里ネギ。甘味や旨みが強いのが特徴のネギだが、その育て方に特徴がある。

農家の方にネギを見せてもらうと、根本が丸く曲がっている。これが美味しさの秘密で、欠かせないのが、成長したねぎをわざと横に倒す「ふん返し」。

江戸時代から受け継がれてきた栽培方法で、倒したネギが上に伸びようとして曲がっていく時にかかるストレスが、ネギをぐっと甘くするという。

新里ネギの甘味と旨みを堪能できる調理法が一本まるまるの炭火やき。表面が真っ黒になるまで焼いたら、一番外側の部分を剥いていただく。

食堂飲みの原点とも言える思い出の店

この日、植野さんがどうしても訪ねたい店があった。

地元で愛され72年、1952年に開店した「三平食堂」だ。

植野さんを「ホッ」とさせる「三平食堂」の湯どうふ
植野さんを「ホッ」とさせる「三平食堂」の湯どうふ

人気の理由は豊富なメニューのラインナップ。唐揚げ、コロッケ、目玉焼きがついた三平ランチをはじめ、約20種類に及ぶ定食の数々。

さらにラーメンやタンメンなどの麺類に丼もの。酒のつまみになる一品料理も充実している。

食堂飲みが大好きな植野さんだが、この三平食堂は、その原点とも言える店だ。  

この日、植野さんは父親が頼んでいたというメニュー「湯どうふ」を注文。「いろいろなもの食べていますが、この世界ってホッとする」とこぼした。

日本一ふつうで美味しい植野食堂
毎週水曜〜金曜、18時〜18時30分
BSフジで放送中
Tverで見逃し配信中
https://tver.jp/series/srv0f3st58

日本一ふつうで美味しい植野食堂 by dancyu
日本一ふつうで美味しい植野食堂 by dancyu