食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

今回植野さんが訪れたのは故郷でもある栃木県・宇都宮市。2023年に開業したばかりの宇都宮ライトレールに乗り込み、沿線スポットやグルメの名店を訪れ、知られざる魅力を発見する。

国内75年ぶりに新設「宇都宮ライトレール」

2023年に開業した次世代型路面電車、宇都宮ライトレール。

宇都宮は県庁などがある駅の西側が中心市街だが、宇都宮ライトレールができたのは東側。

宇都宮大学のキャンパスやサッカーJリーグの試合も行われるスタジアムのそばなどを通り、隣の芳賀町の工業団地まで14.6キロを44分で結ぶ。

宇都宮ライトレールに初乗車した植野さん
宇都宮ライトレールに初乗車した植野さん
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国内において路面電車が新設されるのは75年ぶりとあって、地元の人のみならず多くの鉄道ファンも訪れている。

1日乗り放題の乗車券に加え、餃子のお食事券付きのユニークな乗車券も。運賃は初乗り150円。交通系ICカードをタッチするか整理券を取って現金でもOKだ。

運転席のすぐ後ろを陣取った植野さんも童心に帰る中、ライトレールは街中を静かに進む。

この宇都宮ライトレールの開業もあって、今、この街に移住者が増えているという。ライトレールが走る沿線には現在、約10棟のマンションが建設中だ。

「しもつかれ」が食べられる老舗酒造

乗車してから15分、7つ目の駅にある平石中央小学校前駅は、ライトレールができたことで再注目されているエリアだ。

駅から歩いて約20分、到着したのは明治4年創業で150年の歴史を誇る老舗の酒蔵、宇都宮酒造。

ここで作られるのが、地元の農家が栽培したお米と蔵の近くを流れる鬼怒川の伏流水から作られる日本酒「四季桜」だ。

亡き父の跡を受け継ぎ、伝統的な酒造りを守っているのが、今井昌平さん。

植野さんは「栃木県のお酒が全国的に注目されたきっかけが『四季桜』。日本酒好きの間では好まれるお酒ですし、地元の人にとっても誇り」だと語る。

「昔はお酒単品で飲む機会があったと思いますが、いまは料理と飲む機会が増えて、ペアリングを考えて作っています」と今井さんは話す。

酒蔵見学も受け付けているということで、植野さんも少しだけ見学させてもらうことに。

仕込みのタンクの中をのぞかせてもらうと、もろみが発酵することで生まれる炭酸ガスの泡が。日本酒が生きているのがわかる。

栃木の郷土料理のひとつ「しもつかれ」
栃木の郷土料理のひとつ「しもつかれ」

そして、今井さんが持ってきてくれたのは栃木県を代表する郷土料理のひとつ「しもつかれ」。

正月に食べた塩引き鮭の頭や、節分の豆の残り物に加え、ニンジンや大根などの野菜、酒粕を一緒に煮て作られる先人たちの知恵が詰まった料理だ。

家庭によって味が変わるという「しもつかれ」。宇都宮酒造では自前の酒かすを使い、隠し味でオリーブオイルが入っているという。

創業51年の山小屋風レストラン

そんな今井さんがおすすめするレストランが、宇都宮酒造から歩くこと12分の場所にある、レストラン シャレー。

1973年に開店した山小屋風の内装で広々とした店内で、今年で51年を迎える洋食店だ。

お客さんの元に運ばれるのは熱々のチーズハンバーグに、シンプルなデミグラスのハンバーグ。

定番のデミグラスハンバーグは、ミニトマトをたっぷり使った酸味のある特製のソースが自慢の逸品だ。

さらに気になったのが、激辛ミートソース。

オリーブオイルの中に赤とうがらしと粉唐辛子を加え、さらにもう一種類の粉唐辛子を追加。

激辛ミートソース
激辛ミートソース

ミートソースと特製のデミグラスソースを加えて炒めたら、仕上げに辛いソースを追加して混ぜ合わせれば完成する。

「辛いのがじわじわきています…」と辛さを味わう植野さん。そして、「ただ辛いだけじゃなく、ミートソースの肉やたまねぎなどのうまみ、甘みがあるので、うま辛です」と味わった。

日本一の広さを誇る竹林を育てる「若山農場」

続いては、宇都宮駅から車で約20分。駅から出ているバスで行くこともできる宇都宮の隠れた名所へ向かう植野さん。

その場所は若竹の杜、若山農場。英語で「バンブーフォレスト」と書かれている。

ここにあるのは竹だ。竹を育てている農場で竹林の広さは24ヘクタール、東京ドーム5個分で日本一の広さを誇っている。

数々の映画やドラマなどのロケ地にもなっていて、今や年間8万人が訪れている。

農場の中には去年、タケノコ料理を気軽に食べられるカフェもオープンした。

タケノコご飯に煮物、天ぷらなど、タケノコ料理が詰まったお重やタケノコたっぷりのグリーンカレー、さらに竹炭を練り込んだ真っ黒いコーンのソフトクリームまで。

まさに竹づくしのアミューズメントパークだ。

若山太郎さんは、祖父の代から続くこの農場の3代目。

この竹林をさらに進んでいくと金色に輝く竹林が現れる。

金に明るいと書いて金明孟宗竹(きんめいもうそうちく)と呼ばれ、鮮やかな緑色と黄色が交互に節を彩る珍しい竹だという。

そして、若山さんが用意してくれたのは竹筒で作った、飯ごう。

竹筒の飯ごうでタケノコご飯を堪能
竹筒の飯ごうでタケノコご飯を堪能

竹筒に、洗ったお米と農場で作られたタケノコご飯の素を入れて火にかけてあとは出来上がるのを待つだけ。

出来たてを味わった植野さんは「おいしい。竹の香りがふわっときて、タケノコがおいしい」としみじみ。

3代目が雰囲気を守り続ける名酒場

すっかり日も暮れ宇都宮市街へ戻ってきた植野さん。旅の締めに、行っておきたい店があるそう。

栃木県庁のすぐ近くの路地裏で歴史を重ねる名酒場「庄助」。

1950年、店の開店当時の店内の写真には、お客さんがぎっしり。74年経ったいまでも雰囲気は変わらず、連日賑わいを見せている。

現在は亡き夫の後を受け継いだ、3代目の益子節子さんがお店を切り盛りしている。

そんな宇都宮の名酒場、庄助には、様々な名物料理がある。

天然のキノコをふんだんに使い、白菜と一緒に煮込んだきのこ鍋。あげの中に納豆とネギ、チーズを入れて揚げた納豆信田。

薄くてサクサクの食感が楽しいハムカツに柔らかく煮込まれたモツ煮など。酒のあてにちょうどいいつまみが勢揃いしている。

植野さんが注文したのは庄助名物、ゆずみそ。

ゆずみそは店の天井に吊るされている。ゆずの身をくり抜いて皮の中に味噌を詰め、乾燥させて作る庄助オリジナルの逸品だ。

植野さんは「ゆずの香りがふわっときて、みそがふわふわと口の中で広がる」と味わい、お酒を一口飲んでゆっくりと堪能した。

植野さんの食のルーツをたどりながら、土地に根付いた食の新たな魅力を発見できた。

日本一ふつうで美味しい植野食堂
毎週水曜〜金曜、18時〜18時30分
BSフジで放送中
Tverで見逃し配信中
https://tver.jp/series/srv0f3st58

日本一ふつうで美味しい植野食堂 by dancyu
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