軍の兵士が叫ぶ「赤」「黒」の言葉に一喜一憂する若者たち。
毎年4月、タイでは若者の人生を大きく左右する「くじ引き」がおこなわれます。

それは、兵役に行くかどうかを決める「くじ引き」。
赤い紙を引けば最長で2年間の兵役、黒い紙を引けば兵役免除です。
 

タイの徴兵制とは?

タイは日本と異なり、徴兵制度があります。
徴兵は今年21歳となる男性が対象で、今年はタイ全土で、およそ35万6900人のうちおよそ10万4700人が兵役に就く必要があります。
ほぼ3人に1人が選ばれる計算です。

今年21歳を迎える若者は、生まれ故郷の会場で適正検査を受けます。
 

 
 
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合格すればくじ引きに進みますが、身長が160cmに満たない人や、太りすぎの人、痩せすぎの人などは「不合格」となり兵役は免除されます。

戸籍上、男性であれば、30歳になるまでに必ず検査を受ける必要があり、検査を受けない場合は、禁錮刑が科せられます
 

兵役が決まる運命の「くじ引き」

首都バンコクのドンムアン地区の会場では、適正検査に合格した154人から、兵役に行く7人を「くじ引き」で選ぶことになりました。

兵役免除の「黒い紙」を引き、喜ぶ男性や、その息子の姿に涙を浮かべて喜ぶ親の姿がいる一方で、兵役が確定する「赤い紙」を引いた男性は血の気が引いた様子です。
 

 
 

「赤い紙」を引いた若者は取材班に対し、「妻や子供がいるので2年間の兵役は大きな不安」と話します。
また、2年間のブランクが、仕事のキャリアに影響すると心配する声も聞かれました。
 

トランスジェンダーの若者も…

会場には、心と性が一致しないトランスジェンダーの若者も姿を見せます。
タイではトランスジェンダーであっても、戸籍上性別を変えることはできないため、兵役の適性検査には必ず参加する必要があります。
ただし、ほとんどの場合は適性検査で不合格となり、兵役免除となります。

バンコク・サイマイ地区の会場を訪れたラピーパットさん。
トランスジェンダーのコンテストで優勝経験もあるラピーパットさんは、性転換手術を受けていて、検査では不合格となり、兵役免除となりました。
 

ラピーパットさん
ラピーパットさん

その美しさからか、軍の兵士たちが、何度もスマホで一緒に写真を撮る姿もみられました。
今後は女優を目指して、オーディションを受けたいと話します。
 

パンサーさん
パンサーさん

また、大学に通うパンサーさんもトランスジェンダーの若者です。
「自慢の長い髪を切りたくないので、軍隊には入りたくない」と話していたパンサーさんは、検査会場に病院の診断書を持ってきていませんでしたが、検査会場で医師が「性同一性障害」と診断したため、同じく兵役を免除されました。
 

アイドルも例外ではない

画像中央:ベンベンさん
画像中央:ベンベンさん

今月9日には韓国のアイドルグループ『GOT7』のタイ人のメンバー「ベンベン」さんも徴兵検査にのぞみました。
会場はファンや報道陣であふれかえり、隣にいる検査を受ける若者も少しうれしそうです。
 

 
 

身体検査を通過したベンベンさん。
しかし会場では兵役を希望する若者が多く、必要な数に達したため、ベンベンさんは「くじ引き」をやることなく、兵役を免除されることが決まりました。

若者人生を大きく左右させるタイの徴兵「くじ引き」は、今月12日まで、タイの全国各地でおこなわれます。


【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】
 

佐々木亮
佐々木亮

物事を一方的に見るのではなく、必ず立ち止まり、多角的な視点で取材をする。
どちらが正しい、といった先入観を一度捨ててから取材に当たる。
海外で起きている分かりにくい事象を、映像で「分かりやすく面白く」伝える。
紛争等の危険地域でも諦めず、状況を分析し、可能な限り前線で取材する。
フジテレビ 報道センター所属 元FNNバンコク支局長。政治部、外信部を経て2011年よりカイロ支局長。 中東地域を中心に、リビア・シリア内戦の前線やガザ紛争、中東の民主化運動「アラブの春」などを取材。 夕方ニュースのプログラムディレクターを経て、東南アジア担当記者に。