中国の大型連休「春節」が今年も2月10日から始まる。早くも首都・北京の観光地には地方から多くの人々が押し寄せ、賑わいを見せ始めている。

故宮の前には平日にも多くの人が人が押し寄せた
故宮の前には平日にも多くの人が人が押し寄せた
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今年の春節で移動する中国人の数は、当局の予想で延べ90億人だそうだ。90億人が多いということはわかるが、どれくらい多いのかは想像できない。純粋に数字だけでいえば中国の人口の約6倍に当たる。14億人でも想像するのは難しいからあまり意味はないかもしれないが、とにかく中国の人口の6倍強の人が移動する。

観光などで日本に来る中国人は、かなりの数にのぼるはずだ。そこで、中国人と触れあう機会が増えるであろう日本に住む人たちに向けて、改めて北京に住んでいて感じる「平均的な」ないし「一般的な」中国人像を考察してみたい。

食事が済んだらとっとと辞去

先日、中国人の支局スタッフが結婚披露宴を挙げた。このときの食事はバイキング形式で、昼から火鍋というなかなかヘビーな食卓だった。ポイントは食事の後、自分の都合で(とっとと)会場を後にする中国人が何人もいたことだ。

支局スタッフの結婚披露宴は一般客もいるレストランで行われた
支局スタッフの結婚披露宴は一般客もいるレストランで行われた

自分は他の日本人数人と同じテーブルにいたが、いつ辞去すればいいのか決められず、結局全員が一緒に出るという“集団行動”になってしまった。

早々に辞去することに遠慮し、頃合いを見計らっておそるおそる、というのが日本人的な感覚だが、辞去した中国人に聞くと「ご祝儀も包んだし、食事をしたらあとは自由だろう」と堂々と言われた。新郎新婦との関係の深さもあるだろうが、そのサバサバとした言いぶりは、さも当然と言わんばかりだった。

感覚優先の中国人 旅行も都市から地方へ

他人の視線を気にして周囲に気を遣う日本人と違い、中国人は自分の感覚を大事にする人が多いと思う。「普通に考えれば」の「普通」は、理屈や常識ではなく自分の思いで、優先するのは頭より心、直感に近いものもあるのだろう。人と同じであることにこだわらず、自分で良いと思うことや心地良いものに忠実だ。そういう文化だと言ってもいいかもしれない。

ゼロコロナ解禁後から空港には多くの中国人旅行者が
ゼロコロナ解禁後から空港には多くの中国人旅行者が

自分で好きに決めたいという気質は、訪日旅行のスタイルにも変化をもたらしている。実は中国人の団体旅行が解禁されてからも、日本への旅行者はそれほど増えていないという。「すでに個人旅行が主体で、団体旅行そのものの需要が落ちたから」(日中外交筋)という分析もある。

旅先で自由に行動し、やりたいことをやりたいときにする中国人が増えたのだ。旅行先も東京や大阪に限らず、地方の「穴場」も人気だという。人があまり行かない場所に行き、SNSで発信する中国人も多いと聞く。いわば日本全国が中国人にとっての観光スポットになったと言ってもいい。

北京の観光地では着飾った女性達がよく見られる
北京の観光地では着飾った女性達がよく見られる

加えて言えば中国人の、特に女性は独特のポーズでの「自撮り写真」が好きで、「人と違う」「自分だけ浮く」ことを気にしているようには見えない。自身の美的感覚がまずあるからで、自分の「決めポーズ」はいくつもあるようだ。個性的なポーズで写真撮影を行っている人はおそらく中国人である。

中国在住の日本人“あるある”

中国に馴染んだ日本人も、一定程度は「自分の心に従う」という中国人気質の影響を受けるようだ。以下が、中国生活に慣れた日本人が帰国した際にやってしまう「あるある」の一部だ。

電話や話の声が知らないうちに大きくなっている
赤信号でも平気で渡ってしまう
相手に聞き返す時に「ぁあ?」と言ってしまう

朝夕の交差点は、さながらカオスである
朝夕の交差点は、さながらカオスである

いずれも日本的な常識や規則を守るのではなく、現地での感覚が浸透したがゆえの言動である。中国では「よくあること」と言っても差し支えないだろう。相手の話を聞き取れない場合、中国では「ぁあ?」とよく言うが、日本ではあり得ないだろうし、自分も無意識の行動や言動が相手に驚かれた経験がある。習慣とは恐ろしいものだが、人目を気にしないという意味では楽である。

中国=中国人ではない

もちろん全ての中国人がそうだというわけではない。中国人が重視するものとして「メンツ」が有名だが、日本とビジネスを行っている中国人に「中国人に一番不要なのはメンツだ」と流ちょうな日本語で言われたことがある。メンツは仕事の障害でしかなく、効率や利益を優先すべきだという至極真っ当な考え方で、同席した日本人と顔を見合わせ驚いた。

貧富の格差は生活水準の違いに繋がり、教育環境の格差は礼節の有無をより顕著にし、情報化により価値観は多様になった。見る対象や角度によって全く違う姿になってしまうのが今の中国である。

中国に来て常に思うのは、日中政府間の関係と、人と人との関係は全く違うということだ。中国では政治と国民が乖離しているからで、中国イコール中国人ではない。少なくとも日本に来る中国人の旅行者は日本が好きだから来るわけで、そこに他意はない人がほとんどだ。

処理水放出に伴い、迷惑電話をかけるのも中国人だが、正確な情報を把握し、日本で海鮮の食を堂々と楽しんでいるのも中国人である。

中国人に、または中国帰りの人に「ぁあ?」と言われても、悪意がないことはほぼ間違いない。少なくとも民間レベルの交流を深める春節になってほしい。

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。