ウクライナ情勢の戦況は膠着状態。兵器不足とされるウクライナ軍に対し、西側からの支援の現状はどうか。またロシアでは3月に大統領選挙が行われるが、反ウクライナ侵攻を掲げる元下院議員の動きが注目される。「BSフジLIVEプライムニュース」では兵頭慎治氏と小泉悠氏を迎え検証した。

ウクライナは守りながら攻勢準備をできるか…欧米の支援はどうなる

新美有加キャスター:
ウクライナ軍とロシア軍の間では、東部国境付近など広範囲で衝突が続く。今後1年の戦況はどう展開するか。

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兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
アメリカ国内政治の空転により、ウクライナへの支援が滞っている。トランプ政権復活となれば大幅縮小の可能性がある。一方、ロシア側も必ずしも大規模な制圧地域拡大はできておらず、戦況の変化は見通せない。ウクライナはロシアの更なる支配地域拡大を防ぎながら、2024年は戦力を立て直し翌年以降の反転攻勢の機会を伺えるか。ロシア側もプーチン大統領の再選後は侵攻を継続する構えだが、攻勢のタイミングにはアメリカ大統領選挙が関係する。いずれにせよ長期戦になり、広い意味で軍事的な膠着状態は続く可能性がある。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ウクライナは持ちこたえるだけではダメで、負けない程度に後退しながら後方では2025年以降の反転攻勢のための予備戦力を作らねばならない。相当厳しい1年になることは間違いない。

反町理キャスター:
米ニューズウィーク誌によれば、1日あたりの砲弾発射数はロシアが2万発以上、ウクライナは約2000発。10対1の火力差がある。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
塹壕戦かつドローンの戦争であり、お互い砲兵戦で叩き合う状況でこの火力差は相当厳しいと思う。攻勢をかけようとしているロシアがより火力を必要とするのは確かだが、ウクライナも火力が足りなければ局所的な逆襲も難しい。発射数が落ちているのはアメリカから弾が来なくなり、ヨーロッパにも弾を作る能力が不足していたため。ドイツやフランスが増産に入っているが、攻勢に出るためにはヨーロッパの弾薬生産を抜本的に増やすか、アメリカの軍事支援を再開させるしか選択肢がない。

兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
ここ数カ月、ロシア国内の軍需産業は24時間体制でフル稼働しており、加えて北朝鮮やイランからも弾が入っている。時間をかけるほどロシアの砲弾入手量は増え、ウクライナとの差が開いていく可能性がある。そのウクライナは最近「積極的防衛」という表現をしている。2023年秋から守りを固める姿勢に変わっているが、状況によっては積極的に攻撃も行うという表現。欧米諸国からの支援を繋ぎ留めるための表現だと思う。

トランプ政権復活の場合、ウクライナへの支援は予測不可能に

新美有加キャスター:
ウクライナの戦力立て直しの肝は西側諸国の支援。NATOは155ミリ砲弾22万発ほどを生産する契約を締結したと発表したが、納品は24〜36カ月後としている。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ウクライナ向けの砲弾供与プログラムは複数走っており、2〜3年後まで一切来ないという話ではない。だが、30年間基本的に大規模戦争は起こらない前提でいたヨーロッパの国々の、しかも多くは国営ではない軍需産業がすぐ増産に転じることは難しい。プーチンの命令でいきなり増産ができてしまうロシアとの差は歴然で、間違いなく今後1〜2年、時間はロシアに味方する。だがその後、ヨーロッパ諸国の本来の経済力と産業能力が発揮された場合、今度は時間がロシアの負担になる可能性もある。

反町理キャスター:
アメリカでは今後、予備選挙でトランプが共和党の候補として確定する可能性が高い。その後、ウクライナ支援はどうなるのか。

兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
大統領選挙に向けてアメリカ国内の分断と機能不全が強まり、予算の問題も難しくなる可能性がある。トランプ前大統領も予備選で連勝しており、共和党の候補者になる可能性が高い。ロシアはトランプ政権の復活を期待するとも思われるが、何を言い出すかわからない不透明感はあり見極めが必要。ダントツで多いアメリカの軍事支援が縮小・停止してしまえば、ウクライナには大きなダメージになる。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
アメリカの軍事支援が2024年中には再開しないことは考えておいた方がいい。年内はヨーロッパの軍事支援だけでもウクライナをもたせられると思うが、問題は2025年以降にトランプが、アメリカとして一切ウクライナ支援はしないと本格的に言い出した場合。だがトランプ政権のときにも、蓋を開けてみればそこまでロシアに甘かったわけではなかった。対ロシアの制裁強化法案まで通った。「アメリカの支援が来ない」=「ウクライナは全く手も足も出ない」では決してない。ウクライナは、すぐには勝てないが負けない期間を引き延ばす長期戦略を確保するのでは。

反町理キャスター:
日本は武器の支援をしていない。「サハリン2」から天然ガスを入れているが、この問題にどう向き合うべきか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ロシアの天然ガスへの依存を減らす方針は日欧共通で出しており、私は賛成。ではウクライナに対しどこまでやるか。現状の資金援助や民生支援は評価されるべきだが、侵略を受け弾もなくなって非常に厳しい状況の国に対しては殺傷性装備の供与を考えていいと思う。道義的なこと云々というより、ここでロシアの侵略が成功することは日本の安全保障にとって非常にまずい前例を作る。日本の安全保障問題として考えてもいいのでは、と一軍事屋として思う。

兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
根本にあるのは、法の支配に基づく国際秩序を維持できるか。侵略が既成事実となれば、日本含め国際社会が今後払う代償は大きくなる。2月に東京で日ウクライナ経済発展推進会議があるが、日本ならではの最大限の支援を打ち出すことが他国に支援の維持を喚起することにもなる。

密接さを増すロシアと北朝鮮の軍事協力

新美有加キャスター:
先日、ロシア軍に受刑者で構成される突撃部隊が編成されていると報じられた。戦闘が激化する東部アウディイウカでは繰り返し投入され、1日300~400人喪失している。

兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
ロシアのお家芸的な、犠牲を顧みない人海戦術。以前は1日に1000人やそれ以上喪失ということもあった。引き続きこの戦い方をせざるを得ないのは、国防省の正規軍が十分な働きをしていないためでもある。決して余裕があるわけではない。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ものすごく嫌な言い方をすると「死なせてもいい兵隊を使ってウクライナ軍に損害を強要している」。守りを強要し弾も人間も消耗させていく間、正規軍の損害は比較的抑えられる。もう一つ私が非常に嫌だと思うのは、占領されているウクライナの4州はロシアの言い分としてはもうロシアであり徴兵をしていて、今後この兵士をウクライナ人と戦わせることがロシアの法律上に可能となる可能性があること。プーチンはこれらにより、支持基盤にあまり影響させず戦争を長期継続する目算なのでは。

新美有加キャスター:
2023年末から続くロシアのミサイル攻撃は北朝鮮の兵器を使用しているのでは、との話が出ている。ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は「北朝鮮はロシアへの最大の兵器供給国。北朝鮮の支援がなければ、ロシア軍は破滅的な状況になっていただろう」。

兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
北朝鮮のロシア支援の内容は砲弾だと従来言われていたが、ミサイルも実戦で使用し始めた。軍事協力のレベルが上がり、ロシアが北朝鮮に依存する構図。心配なのは北朝鮮が得る見返り。ロシアがより積極的に北朝鮮への技術支援を行う可能性も出てきた。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ミサイル技術の流出や場合によっては原子力潜水艦用の技術など、ロシアの技術者が指導するという枠組みは大いにありうる。我々にとって全く縁遠い話ではない。

新美有加キャスター:
そのロシアは3月に大統領選を控える。モスクワ市内では多くの市民が出馬を目指すナデジディン氏への支持を表明する署名のため行列を作った。1月31日までに10万人以上の署名が必要とされるが、出馬が認められるかどうか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
軽微な書類の不備を指摘されるなど、出馬が認められるかは不透明。ナデジディン支持というより、プーチンの戦争にうんざりする人が多い構図では。どのぐらいしっかりした公約を出せるかは未知数。政府が彼をリベラル層の受け皿、ガス抜きとして考える可能性はあるが、人気を危険視し潰す可能性も。

兵頭慎治 防衛省防衛研究所研究幹事:
クレムリンは反戦支持の拡大を警戒すると思う。プーチン大統領の前回当選時の支持率は77%。戦争が始まって下がることは問題なので、今回は8割超えで再選する必要がある。書類不備という形で出馬させない可能性が高いのでは。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ナデジディン氏の発言が非常に危険なことは間違いなく、選挙公約として言うから許されているが、普通なら別件逮捕されたり、「偶然」窓から落ちたりということがあり得る。相当危険な橋であることは当人も認識しているだろう。この数年、ロシアの政治を巡る厳しさは急速に悪化した。従来はプーチンもさすがに踏み込まなかったあからさまな政治弾圧の可能性についても予測できない。
(「BSフジLIVEプライムニュース」1月30日放送)