イスラム組織ハマスは、完全な停戦が実現するまでは人質解放交渉に応じない意向を示し、軍の攻撃で死亡したとする人質の映像を公開した。また、実はパレスチナには4万7000人のキリスト教徒もいるが、紛争はエルサレムやベツレヘムなど、クリスマスの神聖な場所にも影を落としている。

衝突はキリスト教聖地にも影響

イスラム組織ハマスは21日、完全な停戦までは人質解放交渉には応じない考えを改めて示し、軍の攻撃で死亡したとする人質の映像を公開した。

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イスラエル側との隔たりは大きく、ガザでの戦闘が続く可能性が高まっている。

ハマス掃討作戦を続けるイスラエル軍は21日、新たにガザ市で発見したトンネルを破壊する映像を公開した。また戦闘再開以降、テロリスト2000人以上を殺害したとしている。

戦闘休止や人質解放交渉が水面下で続く中、ハマスは21日、声明で「完全な停戦まで交渉はない」と改めて発表し、ネタニヤフ首相も「勝利するまで戦闘はやめない」と強調するなど、双方の隔たりは大きく、戦闘が続く可能性が高まっている。

こうした中、ハマスは軍の攻撃で死亡したとする人質3人の生前の映像を公開した。信憑性は不明で、交渉で圧力をかける狙いがあるとみられる。

ここからは、取材センター室長・立石修がお伝えする。

この週末はクリスマスイブだが、イスラエルとハマスの衝突は、キリスト教の神聖な場所にも影を落としている。

パレスチナ自治区で撮影された写真を見ると、生まれたばかりのイエス・キリストの人形ががれきの中に埋もれている。この写真が何を物語るのか、紛争下のクリスマスを見ていく。

イスラエル、パレスチナ地域は多くの宗教の聖地がある。例えば、エルサレムには「嘆きの壁」などユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地が隣接していて、世界遺産にも登録されている場所だ。

そしてもう一つ、宗教的に重要な町がある。エルサレムのすぐ南に位置し、ガザ地区と同じパレスチナ自治区で、ヨルダン川西岸地区にあるベツレヘムという街だ。

ここには聖誕教会(降誕教会)という教会があるが、イエス・キリストが生まれた場所とされ、キリスト教徒にとって重要な聖地になっている。そしてクリスマスは、そのイエス・キリストの誕生をお祝いする大切な日だ。

2022年、ベツレヘムで行われたクリスマス行事の映像を見ると、キリストが生まれたとされる聖誕教会の広場には、大きなクリスマスツリーが飾られ、周辺も色鮮やかにライトアップされている。また、盛大に花火も打ち上げられている。

賑やかな雰囲気の中、サンタさんはリンゴ飴らしきものを持って皆をもてなしている。例年、聖地でのクリスマスを楽しもうと、世界中から多くの外国人観光客が訪れていた。
クリスマスツリーの頂点につける星の名は、この場所の名前から「ベツレヘムの星」と呼ばれることもある。

がれきに埋もれたキリスト像

パレスチナ人の中にも、キリスト教徒の方はいるのだろうか。

パレスチナは、もちろんイスラム教徒が大多数だが、実は4万7000人のキリスト教徒の人もいる。大半はヨルダン川西岸にいるが、ガザ地区にも1000人近くのキリスト教徒がいる。

しかし、終わりの見えないガザ地区での紛争の影響で、2023年のクリスマスの光景は一変している。

12月9日のベツレヘムの様子を見ると、クリスマスの飾りで賑やかだった先ほどと同じ広場には、クリスマスムードは一切なく、ひっそりとした雰囲気になっている。
ハマスとイスラエルの戦闘以降、観光客や巡礼者が旅行を控えたため、町には人も少なく閑散としており、シャッターが閉められた店も目立つ。
取材をしたホテルでは、予約が全くないということで、店主は「これまでで最悪のクリスマスだ」と話していた。

ヨルダン川西岸地区でも、衝突が度々起きている。ベツレヘムは主な収入源が観光だっただけに、町として大きな打撃を受けている。

本来のクリスマスシーズンには、カトリックの教会や家庭ではイエス・キリストが誕生するシーンを再現したジオラマを飾り、お祝いする。
英語で「クリブ」、フランス語では「クレシュ」と呼ばれていて、赤ん坊のイエスが笑顔のマリア様に抱かれているという、非常に祝祭のムード漂うものだ。

しかし、2023年のベツレヘムの教会の映像に映るジオラマを見ると、イエス・キリストががれきの中に埋もれている。そして、イエスをマリア様が探しているというものになっている。赤ん坊のイエスは「ケフィエ」とよばれるパレスチナの民族衣装のスカーフを巻いている。

この模型は、ガザのがれきの下に埋もれた子供たちに捧げたもので、この教会の牧師は「イスラエルの攻撃が続く限り、パレスチナでクリスマスを祝うことはないだろう」と話している。

過去には、クリスマスの期間だけ休戦ということもあった。かつて、第1次世界大戦では激しい戦いを続けていたイギリス軍とドイツ軍の間で、兵士たちが自発的に1日戦闘を休む「クリスマス休戦」というものがあった。
しかし、今回は見通しが厳しく、戦火の中でのクリスマスになる可能性が高い。

クリスマス行事が中止ということだが、中止の間に、ガザで何が起きているのか思いを馳せることが大事なことだ。

キリスト教はユダヤ教から出てきたものだが、ユダヤの生命思想から離れて、イエスが世界宗教へと発展させたものだ。クリスマスが持つ意味を世界中で、もう一度考えていく必要がありそうだ。
(「イット!」 12月22日放送より)

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