12月6日に開会した宮城県議会。村井知事は、県が主導する「4病院再編構想」を巡り、実現を目指していた名取市への民間の精神科病院の誘致を断念し、県立精神医療センターの分院を開設させる方針を明らかにした。当初「センターの2拠点化は考えない」としていた県。関係者の強い反対、辿り着かない基本合意に、軌道修正を迫られる結果となった。

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表面化した精神医療関係者の根強い反発

宮城県が主導する「4病院再編」とは、仙台市に集中する病院や医師といった医療的資源の分散などを目的に、仙台市太白区の仙台赤十字病院と名取市の県立がんセンターを統合して名取市に。青葉区の東北労災病院と名取市の県立精神医療センターを併設し富谷市に移転する構想だ。

県は2023年度内の基本合意を目指し、各病院の経営母体と協議を続けてきた。

宮城県が主導する「4病院再編構想」
宮城県が主導する「4病院再編構想」

この構想を巡り、移転により病院が無くなってしまう地域の住民などから反対の声が相次いだ。さらに、より強い反発の意思を示したのが、精神医療関係者だ

県内の精神医療の在り方について議論する県の精神保健福祉審議会では、県立精神医療センターの移転に対して反対の声が相次いだ。

県の精神保健福祉審議会
県の精神保健福祉審議会

反対の大きな理由は「精神医療センターを中心に構築された地域包括ケアシステムが崩壊してしまう」というもの。名取市では、センターを中心に約60のグループホームや相談支援事業所などが立地している。

こうした施設は、患者が退院した後の受け皿にもなっていて、センターと民間の施設が連携する土壌が構築されているのだ

精神医療センターがある名取市では、センター中心にグループホームなどの施設が多く立地
精神医療センターがある名取市では、センター中心にグループホームなどの施設が多く立地

反対の声は時間の経過とともに広がり、センターに通院する患者なども県に反対の要望書などを提出する事態に発展していた。

一度目の方針転換「民間病院誘致」

こうしたなか県は8月、新たな対応策を打ち出した。それは、現在の構想を進めたうえで、新たに入院機能も持つ、民間の精神科病院を名取市に誘致するというもの。空洞化する名取市周辺の精神科医療の対応を民間の病院に任せようと考えたワケだ。

県の精神保健福祉審議会で 新病院誘致を表明した村井知事
県の精神保健福祉審議会で 新病院誘致を表明した村井知事

村井知事は審議会に対し、「これがうまく行けば、課題を解決できるのは間違いない。一度チャレンジをさせていただきたい」と強い思いを述べていた。

新たな精神科病院の移転先として示された 2024年3月に閉校する県高等看護学校
新たな精神科病院の移転先として示された 2024年3月に閉校する県高等看護学校

いわば「県の秘策」。これをもとに、4病院再編構想の議論は加速するかに思われた。しかし、県の目論見とは反して、審議会での議論は停滞することとなった。

委員からは「移転ありきではなく、名取市での現地再建も議論するべき」「一度白紙に戻して議論するべき」「議論を進めることで精神患者が〝構想が進む〟と不安に感じてしまう」といった意見が寄せられた。

結局、その後開催された審議会では、一度も県の病院誘致に向けた公募案について議論されることはなかった

広がる「手詰まり感」 二度目の方針転換

時間だけが過ぎていく中、開会した宮城県議会。ここで村井知事の口から二度目の方針転換が飛び出した。

民間精神科病院の公募手続きが十分にご理解いただけていない現状を踏まえ、年度内の基本合意に向けて進める必要があることから、サテライト案とする方向で具体的に検討進めてまいりたいと考えております。なお、サテライト案による対応の場合、施設の整備費用や医療スタッフの確保等の課題を整理しながら、機能や規模、地域連携などの調整が必要になると認識しており、早急に検討したいと考えております」
(村井嘉浩知事・12月6日県議会一般質問にて)

精神科病院誘致を断念し 方向転換を表明した村井知事 12月6日県議会一般質問
精神科病院誘致を断念し 方向転換を表明した村井知事 12月6日県議会一般質問

それは、民間の精神科病院の誘致を断念し、県立精神医療センターの「分院」を名取市に開設するという方針。分院とはしているが民間ではなく、これまでと同じ県立精神医療センターが対応することで、患者の安心は維持できると説明した。

この「分院案」は、これまでも審議会や定例会見の場で度々言及されていたが、「民間の精神科病院の誘致がうまくいかなった場合」などと説明するに留まり、決して優先順位は高くなかったと言える。

混沌としていた問題の新展開に、議会を終えた村井知事のもとに報道各社が殺到。知事は「最初からこちら(民間病院誘致)で行くという考えで進めていたわけではなく、どちらかをやりますということだった。選択肢として2つあったものの中で取り換えたというようなこと」と報道陣の取材に応じたが、事実上の撤回・断念であることは明白だろう。

もともと県は、審議会の場で「センターの2拠点化は考えない」としていた。この点について村井知事は「私は、恐らく1拠点でもやれないことはないと思うが、やはり患者さんにとってのストレスというものを考えると、そういう考え方も必要ではないかと思った」と話し、考え方が変わったことを認めた。

僅かな心残りも?住民説明会開催へ

一方県は、新病院誘致の方針を示して以降、水面下で県内の精神科を持つ病院に打診を進めていた。

これについて村井知事は「非常に関心を持って話を聞いてくださるところはあった」としたうえで、「公募という形をとれば、手を挙げてくださるところは出てきたのではないかという思いは正直ある」と僅かな心残りを口にしたが、あくまで「患者の不安を取り除くこと」に加え「時間的な制約を克服する」と述べた。

当初、2022年度中を目指していた基本合意は、すでに「2023年度中」と持ち越しとなっていて、間に合わなければ、2年連続の持ち越しとなる。猶予はすでに4カ月を切っている。

村井知事は「いつまでもというわけにはいかない。早く進めて欲しいという声もたくさん届いている」と話すが、この案がどこまで支持を得られるかはわからない。

県は、議会からの要望を受け、12月17日に仙台赤十字病院が立地する仙台市太白区八木山地区で、12月23日には仙台市青葉区台原地区で住民説明会も開催するとしている。

今回の軌道修正で、付近住民、そして精神医療関係者から理解を得られるのか。
その道筋は今も不透明だ。

(仙台放送)

仙台放送
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