12月7日~10日にかけて行われたGPファイナル。

男子は宇野昌磨が2位、鍵山優真が3位、三浦佳生が5位。女子は坂本花織が初優勝、吉田陽菜が3位、住吉りをんが6位で終えた。

GPファイナル初出場の住吉りをん(20)。

SP5位で迎えたFSのセカンドジャンプに、フランス大会で初成功させ4回転トゥループに挑戦。

果敢に挑んだが惜しくも成功とはならなかった。

それでも、それ以外のジャンプは全て着氷。長い手足を優雅に魅せるスピンとステップでレベル4を獲得し、立て直してみせた。

演技技には小さく頷き、納得したようだった。

少しだけど大きな成長でつかんだGPファイナル

そのGPファイナルに初めて出場した、大学2年生の住吉。

GPシリーズ第3戦フランス大会のフリーで4回転トゥループに初成功。SP5位から挽回し、3位表彰台に上がった。

その“4回転”だが国際スケート連盟(ISU)公認大会で、日本女子では2002年のJGPファイナルで安藤美姫さんが4回転サルコウを世界初成功させて以来、21年ぶりの快挙となった。

GPシリーズフランス大会で4回転トゥループを成功させた住吉りをん
GPシリーズフランス大会で4回転トゥループを成功させた住吉りをん
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新たな武器を携えて挑む住吉。狙うは全日本の表彰台と世界選手権の代表だ。

去年もGPシリーズ2戦に参戦した住吉だが、今年はGPファイナル出場を手にした。その要因について住吉に聞くと「メンタルが安定したことが一番大きい」と分析する。

「去年は本当に不安でいっぱいで、試合ごとに『できるかな』『できるかな』と感じていたんですけど、今年は、できるできないを不安に思うことがなくなって、『やるべきことをやろう』って。すごく安定した気持ちで試合に臨めるようになった」

GPファイナル進出を祝う花束をもらって笑顔を見せる住吉
GPファイナル進出を祝う花束をもらって笑顔を見せる住吉

GPフランス大会ではフリーで、フィンランド大会ではショートで自己ベストを更新するなど4回転以外の面でも着実に成長を遂げている。

「フランスではもちろん4回転を下りたことが1番大きく、フィンランドも4回転は失敗しましたがショートをきっちり決められた。

失敗が続いた後でもしっかり立て直せていることもあり、気持ちがすごく強くなっていると思っています。

そういったことと、少しずつ少しずつ点数を稼いでいったことで、なんとか掴めたファイナル。少しだけど大きな成長が、今年ファイナルにつながったと思います」

4回転の成功に嬉しさも「これがスタート」

GPファイナルを大きく手繰り寄せたその一つが、果敢に挑戦し続けている4回転トゥループだ。

2年間挑み続けた大技を成功させた瞬間は、どのような思いだったのか。

「空中でもう『あっ、下りる』って思って。練習でも、下りる時って空中で分かるので、『あっ、できるな』って思う。でも、イメージトレーニングでは、どんなにきれいに下りても、落ち着いた状態のまま次のスピンに行くと思っていましたが、イメージ通りには行かなかったです。

ちょっと興奮したままスピンに入ってしまったので、スピンでレベルを落としてしまって。

そこで我に返って『よし、ここから集中するぞ!』と。そこからは気が引き締まって、若干緊張した状態で次のジャンプに臨んだかなって思います」

GPファイナルを前にインタビューに応じてくれた住吉
GPファイナルを前にインタビューに応じてくれた住吉

――決めた瞬間は、「やった!」という気持ちでしたか。

「下りた、あっ、次!」みたいな、もう「次!」って感じでした。「次スピンだ!」って。ワー!って喜ぶ感情が出る間もなかったです。それが湧いてきたのは、本当に最後、最後のポーズをしてからでした。

――最後のポーズをとって大歓声を聞いたときはどんな思いでしたか。

「あっ、成功したんだ」って。「褒めてもらえてる」と思って、本当に頑張ったなとか、頑張ってきてよかったな、という気持ちがその時は1番大きくて、涙になりました。

氷上練習へと向かう住吉
氷上練習へと向かう住吉

4回転を試合で成功させたときは成功した嬉しさが勝っていたというが、GPファイナルの前になるとその気持ちが変化しているという。

「今は、『頑張ってきてよかった』ってまだ言える段階じゃない。ただの1回の成功でしかなくて、『頑張ってきてよかった』は、ゴールで言う言葉のような気がして。これはゴールじゃなくてスタートだから、これからだって思っています」

頭一つ抜ける存在でいるための4回転

初めて4回転を組み込んだ2021年の全日本選手権では、惜しくも転倒。

2021年の全日本で初めて4回転を組み込んだ
2021年の全日本で初めて4回転を組み込んだ

2022年の全日本では回転不足ながら着氷するも結果は14位だった。悔しい思いをしながらも、住吉が4回転に挑戦し続けている理由は何なのだろうか。

その理由は2026年のミラノ・コルティナ五輪を見据えてのことだった。

2023年東京選手権、朝の公式練習で4回転を着氷させる
2023年東京選手権、朝の公式練習で4回転を着氷させる

「もちろん『入れずにまとめた方がいいんじゃないか』という意見もたくさんあると思うし、『4回転入れるから他で失敗するんじゃないか』みたいなことは、たくさん言われると思っていますが、自分にとっては違うんです。

だからこそ4回転に自分では挑戦したいって思っているし、コーチも私の練習を見ている中で、4回転に時間を割いてくれる。

4回転以外で失敗する原因は、まだ“気持ちが弱い”というだけだと思うので、今のうちから4回転を入れて、他の技も一緒に成長させることが、ミラノ・コルティナ五輪の年になった時に頭一つ抜けた存在でいられると思っています」

スケート靴を履く住吉
スケート靴を履く住吉

トリプルアクセルが武器の渡辺倫果(21)、北京五輪に出場した河辺愛菜(19)、GPファイナル3位の吉田陽菜(18)や中井亜美(15)、そして4回転トゥループとトリプルアクセルを跳ぶ島田麻央(15)など。

大技に挑む女子選手が次々と現れていることで、住吉は自身にとっての武器を「4回転」と定めた。

ウォームアップをする住吉
ウォームアップをする住吉

2026年のミラノ・コルティナ五輪まではあと約2年。

この2年を住吉はどう位置づけているのだろうか。

「この2年は“成長できる伸びしろ”だと思っています。やっぱり(坂本)花織ちゃんを見ていると、トップになってからもトップでいることが当たり前になるための期間が必要だと思いました。

もちろん今年はそのトップに食ってかかる存在でいたいと思っていますが、まずトップに立って、そこから自分自身これだけのパフォーマンスができるっていうのを見せて、そのパフォーマンスができるのが自分にとって当たり前に。

みんなも安心して、『りをんちゃんはこれだけのパフォーマンスができるよね』『いつもできるよね』と思われる存在になるまで、そこまで行き着くための2年間なのかなって思います」

氷上練習をする住吉
氷上練習をする住吉

そうした“成長の2年”の中でも、全日本は「一番大事になってくる」と住吉は語る。

「全日本で自分のベストなパフォーマンスを出すためには、4回転ばかりにこだわるのではなく、プログラム全体、スピン、ステップ、コレオ、演技構成点(PCS)を上げることも大切。

全てでぬかりなく全日本で最高の演技をすることが1番大切だと思っている。

何か1つに焦点を当てるというよりも、今この時期はもう本当に1つ1つ丁寧に全体の練習をすること、総仕上げをして全日本に臨みたいです」

ジャンプ練習に励む住吉
ジャンプ練習に励む住吉

住吉によって4年連続4回目となる全日本。

毎年何かしらの悔しい気持ちが残ってしまうという大会でもあり、特に去年は「ものすごく悔しかった」と振り返る。

そんな全日本では「悔しい気持ちが一つもない大会」にし、狙うのは表彰台だ。

「全日本選手権では、世界選手権の切符を掴むために、表彰台に乗ることが目標です。そのために自分ができること、やるべきことをしっかり準備して、自分の納得する、後悔ない演技ができるように、全力を尽くしたいです」

全日本までの道の詳しい概要はフジスケでhttps://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/index.html
FODで全選手・全演技LIVE配信

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班