歴史ある温泉地の旅館が、生き残りをかけて改修に取り組んだ。キーワードは“高級化”だ。和室3室の壁を取り払って広いスイートルームにしたり、特注の家具を購入したり、浴槽を広くしたり。客の価値観の変化に対応しようと必死だ。コロナ禍で打撃をうけた観光業を、国も補助金で支援する。

山間部の温泉旅館が生まれ変わる

静岡市梅ヶ島
静岡市梅ヶ島
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静岡駅から車で約1時間、静岡市葵区の山間部にある梅ヶ島。古くから温泉地として知られるのどかな地域だ。この梅ヶ島の温泉街の旅館で、部屋や風呂をラグジュアリー化する事業が進んでいる。

創業65年の歴史を持つ「おもいでの宿 湯の島館」2023年9月 貸し切り風呂と客室の改修工事が行われた。風呂は老朽化していた木製の浴槽をタイル製に変え浴槽を大きくし、温泉をより快適に利用してもらえるようにした。

湯の島館の貸し切り風呂
湯の島館の貸し切り風呂

また、部屋の数を6部屋から4部屋に減らし、デザイン性の高い特注の家具を導入した。1人あたり1泊2食付きの値段を約2万円から3万円に引き上げた。

家具も特注
家具も特注

背景にあるのが観光客の減少だ。コロナ禍での全国旅行支援が終了して以降、温泉街に観光客が戻ってきていない。このため秋の紅葉シーズンを前に、この旅館では思い切って高級志向に舵を切った。

湯の島館・秋山さん
湯の島館・秋山さん

「おもいでの宿 湯の島館」の秋山庸司さんは、「梅ヶ島に来ていただいて、宿に入ったらより一層価値のある、『泊まってよかったな』という宿を作っていきたい」と改装に期待する。
秋の紅葉シーズンを控えた10月下旬にオープンした。11月末までほぼ満室だという。

高付加価値化に国が補助金

改修を後押ししたのが、観光庁のポストコロナにむけた経済対策、「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化」事業だ。
コロナ禍は観光産業や観光地に深刻な打撃をもたらした。時代とともに変化するライフスタイルや価値観が、コロナを契機にさらに多様化した。観光の分野では団体旅行から個人旅行への転換、ワーケーションなど新たな旅のスタイルの普及など、旧来の観光地では対応しきれなかったニーズが生まれつつある。こうした苦境を乗り越えるため、観光庁が用意したのが、この補助事業だ。

宿泊施設の高付加価値化のための改修の場合、費用の2分の1、最大1億円まで補助する。また観光地の再生に資する土産物店や飲食店などの改修も費用の2分の1、最大1000万円を支援する。

全国の観光地が生き残りを模索

補助事業は2021年度から始まり、2021年度は230件、2022年度は138件、2023年度も11月時点で111件の計画が採択された。全国の観光地が500件近い計画を立案し生き残りを模索している。

大分・別府市(観光協会HPより)
大分・別府市(観光協会HPより)

この中には温泉で有名な大分県の別府市や、幕末の史跡が人気の山口県の萩市なども含まれている。
別府市では、個別のニーズに合わせた宿泊施設の高付加価値化改修や、温泉街の雰囲気が感じられる外観改修に取り組む。

山口・萩市(観光協会HPより)
山口・萩市(観光協会HPより)

萩市では宿泊施設の高付加価値改修に加え、多業種の事業者が参画することで、より楽しく、学びを深める「まち歩き」を目指している。

紅葉シーズンの梅ヶ島温泉街
紅葉シーズンの梅ヶ島温泉街

静岡市梅ヶ島地区の計画は、県中部の観光振興をめざす公益財団法人「するが企画観光局」が取りまとめて申請した。宿泊施設と土産物店の計5軒が補助の対象となった。
するが企画観光局 事業推進本部の鈴木新一郎室長は「梅ヶ島の宿は温泉資源に恵まれて固定客も非常に多いが、新たな客層を取り込むためと、やや単価が安い宿が多かったので今回の改修で少し付加価値を高めてより生産性の高い経営をしていただこうと取り組んでもらっている」と、改修の狙いを代弁する。
さらに梅ヶ島の宿には遊休の客室(使えていない客室)もあり、そうした部屋を一つの大きな部屋にして稼働することで、利用客の人数が少なくても売り上げを高くできると期待する。

「若い世代に来てもらうために」

高級化に向けた改修工事は、源泉かけ流しの温泉が売りの清香旅館でも行われた。

以前は6畳、8畳、8畳の和室3部屋があったスペースを、壁を取り払って6人まで宿泊できるスイートルームのような部屋にした。静かな空間で温泉と景色を存分に楽しんでほしいと話す。
1人あたりの宿泊料金を約1万円値上げし、紅葉にあわせて11月11日にオープンした。

清香旅館・白鳥文規さん:
やはり長くやっていかないといけないことを考えて、この工事に踏み切った

温泉街では今、観光客の減少とともに後継者不足も課題となっている。経営する白鳥さんは、今回の改修によって新たな客層を取り込み、旅館経営の魅力を高めていきたいと考えている。白鳥さんは「風情や昔ながらもいいかもしれないが、若い世代のお客さんを引き込むようなことをしていかないと」と、改修を決断した思いを話す。

静岡市梅ヶ島温泉街
静岡市梅ヶ島温泉街

観光地の活気を取り戻したい梅ヶ島温泉。高級化を進める改修が、狙い通りの効果をもたらすだろうか。
全国のライバルたちが、同じ思いでリニューアルに取り組んでいる。

 (テレビ静岡)

テレビ静岡
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