長年にわたりその道一筋に取り組んできた人などに贈られる2023年「秋の褒章」に、長崎県内からは12人が選ばれた。そのうち「黄綬褒章」を受章し、イチゴ栽培とカキ養殖に注力してきた2人の生産者の仕事にかける思いを聞いた。

父の後を継ぎイチゴ作りの道へ

ほんのり赤く色づき始めたイチゴ「ゆめのか」は、11月中旬から収穫の時期を迎える。

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吉田修二さん(61)は、雲仙・普賢岳を望む長崎・島原市有明町で40年以上にわたり、イチゴを栽培している。取材をした10月下旬は受粉シーズンまっただ中。ミツバチの力を借りて受粉させ、品質のいいイチゴ作りを目指している。

吉田修二さん:
こうやって花びらが落ちるんですね。花びらが落ちてるのは交配した証拠です。黄色いめしべの中が青い実になって、やがて白い実になって熟れていく

吉田さんは高校卒業後、父の後を継いでイチゴ作りを始めた。春一番や昭和59年の長崎での大雪、それに雲仙・普賢岳の火山灰でハウスが被害を受けるなど苦労もあったが、年々、栽培面積を拡大。今は「ゆめのか」と「恋みのり」を育てていて、その面積はあわせて52アールと長崎県平均の倍だ。

2019年9月から2年間、長崎県いちご部会の部会長を務めたときには、大粒で収量が多い優れた品種「恋みのり」の試作に率先して取り組んだ。

「ゆめのか」の収量は、2022年は10アール当たり約3万5,000パック分と県内トップを記録した。農業の振興に貢献したことが評価され、「黄綬褒章」を受章した。

吉田修二さん:
結構イチゴを見ているのが楽しくて、毎日姿が変わっていく。自分の子どものような感覚で見ている。味や品質に関しては、自信を持ってわたしたちが育てて皆さんのもとに送っているので、安心して食べてほしい

農業など、生産者の高齢化と後継者不足が問題だが、吉田さんが培ってきた技術とイチゴ作りへの熱い思いは、父親のひたむきな姿を見てきた息子が引き継ぐ。息子夫婦はフリマアプリでイチゴの販売を始めていて、リピーターも増えているという。時代の変化にあわせ、新たな農業の在り方を模索している。

福岡・北九州市でカキ養殖の技術を学ぶ

諫早市小長井町でカキの養殖に取り組む野田清一さん(74)は、諫早湾漁業協同組合の代表理事組合長を務めている。中学を卒業してからこれまで60年近く、自然と向き合ってきた。

カキ養殖業者・野田清一さん:
タイラギがとれなくなってアオサの養殖を始めたが、アオサはタイラギに匹敵する品物ではないと試行錯誤していた

1997年に諫早湾の潮受け堤防が閉め切られ、有明海で高級二枚貝「タイラギ」の漁獲量が激減。これに代わる特産物を探す中で、仲間と目を付けたのが「カキ」だった。

福岡・北九州市の恒見で技術を学び、種ガキをいかだから海中にロープでつり下げる「垂下式養殖」を1999年に導入した。秋になるとロープを引き上げ、カキから栄養分を奪うフジツボやホヤなどの付着物を1粒ずつ手作業で取り除く。

カキ養殖業者・野田清一さん:
10月28日からしているけど、開けたのは初めて。底の色がちょっと灰色っぽいけど、これが真っ白になって身があと1カ月、半月したら盛り上がる。よそのカキからしたら結構、身入りがいい

さらに身入りをよくするために、10kgずつまとめて籠に入れて1カ月近くいかだにつるし、ようやく出荷の時期を迎える。

カキ養殖業者・野田清一さん:
有明海の特質のプランクトンの量の多さ。これだけは自然の力なので、うまいカキを作ろうと、ただ見守るだけ

カキの養殖で“日本一”の評価も

諫早のブランドかき「華漣」。1粒ずつ籠に入れ、通常の何倍もの手間をかけて育てている。野田さんは長崎県総合水産試験場と協力して「華漣」の養殖にも取り組み、2012年の「かき日本一決定戦」では初代王者に輝いた。

現在、小長井では37人がカキの養殖に取り組んでいる。養殖技術の向上や指導に尽力し、地元の水産物の知名度アップや販売強化に貢献したことが黄綬褒章につながった。

カキ養殖業者・野田清一さん:
褒章といっても自分一人でこういうふうにしたわけではない。わたしはそこの代表みたいな感じで、みんなの力で小長井のカキはある。小長井のカキは日本一のカキだと思っている。おいしいカキをぜひ皆さんに味わってほしい

さまざまな苦難を乗り越え、それぞれの世界で真摯(しんし)に取り組んできた生産者たちの思いと技術は“カタチ”となり、わたしたちの食卓に笑顔と彩りを与えてくれる。彼らのひたむきな思いは次の世代へと確実に受け継がれている。

「秋の褒章」は長崎県内では、業務に精励し、模範となる人に贈られる「黄綬褒章」に5人、公の事務に尽力した人などに贈られる「藍綬褒章」には7人が選ばれている。

(テレビ長崎)

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