島根・浜田市の専門学校の学園祭に、1日限定のカフェが出店した。その名も「注文に時間がかかるカフェ」。開いたのは、話す時に最初の一音に詰まってしまうなど、言葉が滑らかに出てこない発話障害のひとつ「きつ音」に悩まされてきた学生だ。「きつ音」への理解を深めてもらうとともに、自身の夢の実現を目指して、このカフェを開いた学生の思いを聞いた。

「きつ音」に悩む人が夢をかなえるきっかけに

11月4日、浜田市の専門学校「リハビリテーションカレッジ島根」の学園祭。
ここに1日限定でオープンしたのが、「注文に時間がかかるカフェ」だ。

来店客に声をかける竹田千笑さん
来店客に声をかける竹田千笑さん
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カフェを訪れた人に声をかけているのは、「注文に時間がかかるカフェ」を主催した竹田千笑さん(19)。この学校で、言語聴覚士を目指して学んでいる。

カフェのスタッフは、言葉が滑らかに出てこない「きつ音」がある人たち。言葉が滑らかに出てこないため、スタッフはゆっくり言葉を紡ぎ出す。接客にも時間がかかってしまうが、客もそれを気にせず、ゆっくりと過ごしてほしい。そんな思いが名前に込められた「注文に時間がかかるカフェ」。「きつ音」に悩みながらも、接客業で働きたいという若者が、その夢をかなえるきっかけになればと全国各地で開かれている。

竹田千笑さん:
笑顔が絶えないカフェにして、「きつ音」を知ってもらうきっかけになったらいいなと思います

よどみなく言葉を発し、接客している竹田さんも、実は、小学生のころから「きつ音」に悩まされてきた。

竹田千笑さん:
小・中・高の時はからかわれたり笑われたりすることが数え切れないくらいあった。今は話すときは、頭の中で言いにくい言葉が出そうになったら“変換”するとか、同じ意味でも言いやすい言葉に変えたりとか、話すタイミングを少しずらして不自然にならないように自分で間を取って、言いやすいように、パッと言うとかしています

自身の経験から言語聴覚士を目指し進学

「きつ音」の主な症状は次の3つだ。

・「あ、あ、あした」と、同じ言葉を連続して発してしまう「連発」
・「あーーした」と最初の言葉を伸ばしてしまう「伸発」
・うまく言葉が出ず、間が開いてしまう「難発」

このうち、「難発」と「連発」の症状がある竹田さんは、トレーニングなどで症状が改善しているが、今でも言葉が出ず間が空いてしまったり、思った通りの発音にならなかったりすることがあるそうだ。

竹田さんがこの専門学校に進んだのも、「きつ音」に悩まされた経験があったからだという。

「リハビリテーションカレッジ島根」には、山陰で唯一、言語聴覚学科が開設されている。竹田さんは、将来、自分と同じように「きつ音」で悩む人をサポートするため、言語聴覚士になりたいと、この学校で学んでいる。将来の夢に向かって、経験しておきたいと開いたのが、この「注文に時間がかかるカフェ」だった。

準備をする竹田さん
準備をする竹田さん

クラウドファンディングで資金を集め、事前の準備から当日の会場設営まで、学生が主体となって進めてきた。

夢の実現に向け手ごたえ

学園祭当日、竹田さんは少し緊張した様子だった。

竹田千笑さん:
8割くらいは楽しいです。2割は緊張しています

カフェの商品は無料で提供
カフェの商品は無料で提供

カフェでは、商品をすべて無料で提供。接客時のプレッシャーを減らして、緊張することなく仕事できるようハードルを下げた。そしてオープン早々に、客が訪れた。

竹田千笑さん:
「きつ音者」でも一生懸命話しています。話し方をまねしたり…からかわないでください

来店客に注意事項を伝える竹田さん
来店客に注意事項を伝える竹田さん

竹田さんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出し、カフェで配慮してほしいことを客に説明した。一口に「きつ音」と言っても症状はさまざま、配慮してほしいことも一人一人異なる。

「注文に時間がかかるカフェ」では一般的な対応の仕方として、スタッフが「言い終わるまで待つ」、きつ音が出ても「アドバイスしない」「まねしない」「他の人と同じように接する」ことを客に呼びかけた。

積極的に会話する様子も
積極的に会話する様子も

やがて慣れてくると、竹田さんは客と積極的に会話を交わすようになった。フェイスシールでおしゃれをした女の子に「かわいいね、キラキラ」と声をかけると、女の子も「ありがとう」と返してくれた。

この日は、想定を上回る129人が来店。初めての「注文に時間がかかるカフェ」は大成功だった。

竹田千笑さん:
皆さん本当にすごく優しくて、「きつ音」が出ても「うんうん」って聞いてくださって、落ち着いて話すことができました。このカフェに来てくれたお客さまに「勇気をもらった」とか、お子さんに「きつ音」がある人なども来られて「こういう接し方をしたらいいんだね」とか、言ってもらった。「きつ音」が世間から理解を得られるようにがんばりたいと改めて思いました

「きつ音」への理解を広げたい。
勇気を出してカフェを開き、夢の実現に向け、ハードルを超えた竹田さん。「注文に時間がかかるカフェ」から、手ごたえをつかんだようだ。

(TSKさんいん中央テレビ)

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TSKさんいん中央テレビ
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