滑らかに話すことを苦手とする「きつ音」の若者が、仙台市に期間限定でオープンしたカフェで接客業に挑戦した。100人に1人いるとされる「きつ音」当事者。症状がある人も、そうでない人も、ありのままで話せる環境づくりが求められている。

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「100人いれば100通り」の症状

4月2日、仙台市に1日限定でオープンした「注文に時間がかかるカフェ」。接客をするのは「きつ音」がある若者たちだ。「きつ音」とは、話し言葉が滑らかに出ない発話障がいの一つで、いわゆる、どもったり、滑らかに話すことができない状態のこと。特徴的な症状は3つある。一つ目が言葉の初めの音を繰り返す「連発」。二つ目が、音が伸びてしまう「伸発」。三つ目が、言葉をうまく出せずに間が開いてしまう「難発」だ。

「きつ音」の特徴的な症状 症状は人によって異なる
「きつ音」の特徴的な症状 症状は人によって異なる

症状は人によって異なり、「100人いれば100通り」と言われるほど。症状のある人は日本だけで120万人にものぼるという。「注文に時間がかかるカフェ」は、そういった「きつ音」への理解を深めようと企画され、2021年8月に初めて東京で開催されて以降、これまでに全国11カ所で開かれるなど、取り組みは広がりを見せている。

求められる 当事者同士の交流

過心杏さん:
何をするにしても、「きつ音」が絶対に考えに出てきてしまうんですね。だからこそ目を背けようと…「きつ音」に関わりたくなかった。でも、いつか変わりたいという気持ちは、ずっとあって…。でも、どうせ無理だと思っていました。当時は、お先真っ暗。何に対しても、やる気がなかった。

今回「注文に時間がかかるカフェ」に参加した 過心杏さん(19)
今回「注文に時間がかかるカフェ」に参加した 過心杏さん(19)

今回、取り組みに参加した過心杏さん(19)。過去に、自身の「きつ音」をまねされたり、からかわれたりするなど、深く悩んだ時期もあったと話す。そんな過さんに転機が訪れる。「注文に時間がかかるカフェ」との出会いだ。

過心杏さん:
ネットとか本で調べて、「きつ音」の当事者がいっぱいいるというのは知っていても、当事者と関わる機会が少なかった。「一人ぼっち」感が強かったんです。でも1回目のカフェに参加したら、すごくいい経験だった。私みたいに当事者と関わりたいけど関わる場所がないと諦めている人たちがいっぱいいるので、いつか宮城で開催したいと思っていました。

実は、カフェに参加するのは今回が3回目だという過さん。東京で開かれた同じイベントに参加し、同じ悩みを持つ人たちと出会い、前向きになれた自分がいた。同じ「きつ音」の悩みをもつ人たちにも体験してもらいたい。そんな思いから、地元仙台でのイベント開催を主催者に提案したところ、今回、東北での初開催に至ったのだという。

「ささいなことではない」最大の悩み

「きつ音」当事者同士の交流は、決して多いとは言えない。しかし、過さんの経験からもわかるように、当事者たちが悩みを共有する場は重要だ。宮城県の自助グループ「宮城言友会」では、月に1度のペースで当事者同士の交流会を開いている。

「きつ音」当事者による交流会 2023年2月 提供:宮城言友会 
「きつ音」当事者による交流会 2023年2月 提供:宮城言友会 

宮城言友会事務局・藤島省太さん:
会に来るとまず、「自分だけじゃない」という安心感が得られる。さらに、“きつ音を気にせず話ができる”。少し気持ちが楽になりますよね。それによってリラックスして、スムーズに話せることにつながっていくということです。

宮城言友会・藤島省太さん
宮城言友会・藤島省太さん

同じ悩みを共有することで、自分を客観的にみられるようになってほしいと話す藤島さん。一方で、一番重要なのは、「きつ音」当事者を取り巻く環境だと強調する。

宮城言友会事務局・藤島省太さん:
当事者にとってみれば、「きつ音」が人生最大の悩み。一見ささいなことに思える問題が、本人にとっては大きな問題だということを理解してほしい。「そんなものは私もある」と簡単に受け止めるのではなく、真剣に悩みや訴えを聞いてほしい。

言葉がつまってもいい。時間がかかってもいい。気にせず安心して話せる環境を。
「注文に時間がかかるカフェ」も、まさにそんな取り組みと言えるだろう。

「言葉はでないけど…」伝えたい思い

迎えた「1日限定」のカフェオープン当日。オープンの3時間前、過さんは、マスクに手書きで何かを書いている。スタッフがマスクに「訪れた人にお願いしたいこと」を書くのだという。

―何を書きましたか?
過心杏さん:「笑顔で話してください」と書きました。
―なぜその言葉を?
過心杏さん:「きつ音」を知ってもらいたいというのはもちろんですが、「きつ音」である前に、ただのお話が好きな人でもあるので、「きつ音」だけを見るのでなく、中身まで見ていただけたらうれしいなという思いです

「私と向き合ってほしい」そんな思いを抱え、迎えたオープン時刻。過さんは、レジ前に立ち、客を出迎える。カフェでは、訪れた人に「きつ音」の人への対処方法を紹介する。過さんは自分の言葉で思いを伝えていく。

過心杏さん:
スタッフは全員、「きつ音」というものを持っています。言葉を遮ったり、こう言いたいんじゃないかと推測して代わりに言ったりせずに、言い終わるまで聞いてください。緊張していて言葉が詰まっているわけではないので、「リラックスして」「ゆっくり話せばいいよ」などとアドバイスはしないでください。「きつ音」でも一生懸命話しています。話し方をからかったり、まねしたりはしないでください。言葉はうまく出ませんが、他の人と同じです。「きつ音」である前に1人の人間です。他の人と同じように接していただけるとありがたいです。ご理解お願いします。

利用者に説明される「きつ音」当事者との向き合い方
利用者に説明される「きつ音」当事者との向き合い方

どれも自身の体験からくる、「きつ音」当事者と接する際に大切にしてほしいこと。過さんは、接客の合間を見て積極的に、利用客に声をかける。

利用客とのコミュニケーションは 悩みを共有する場だ
利用客とのコミュニケーションは 悩みを共有する場だ

「きつ音」があるという親子は、「当事者と話せる機会はあまりないので、貴重な機会」と話す。ほかにも「1日だけの開催はもったいない」「当事者同士で話すことはなかなかないので、話していると泣きそうになる。」などといった声が次々に挙がった。

大切な時間を共有することで、言葉の壁を越えたつながり。「注文に時間がかかるカフェ」は大盛況で1日を終えた。接客を終えた過さんに改めて感想を聞いた。

過心杏さん:
「当事者の方がたくさんいたな」とか、「きつ音を理解してくれる人があんなにいたな」と思い返したら、自信になったり、勇気づけられたり…支えになりました。一人じゃないというのを実感できたし、少しでも「きつ音」を広めるお手伝いが出来たのかなと思うと嬉しいです。

「きつ音」について、もっと知ってほしい。当事者に自信を持ってほしい。言葉につまっても、時間がかかったとしても、伝えたい思いがある。

(仙台放送)

仙台放送
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