長野県内に住むベトナム人は約6000人。急激に増えたことを背景に、この夏、「ベトナム人協会」が発足した。協会の活動と会長となった男性を取材すると、ベトナムの人々の今が見えてきた。

情報交換や生活をサポート

2023年7月、長野市に70人のベトナム人が集まった。「在長野県ベトナム人協会」の設立総会だ。

協会によると、県内に住むベトナム人は2022年末で5930人。この10年で10倍以上に増え、中国に次ぐ多さだ。

しかし、これまで長野市や松本市、諏訪市以外ではベトナム人同士のつながり、いわゆる「コミュニティー」はなかった。

そこで、「情報交換や生活サポート」を目的に有志が協会を立ち上げた。

「在長野県ベトナム人協会」設立総会
「在長野県ベトナム人協会」設立総会
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会長に就任したのは、千曲市在住のファム・クアン・ダオさん32歳。

総会のあいさつで、「長野のベトナム人の勉強、仕事において交流を促進し、お互いに助け合います」と、宣言した。

在長野県ベトナム人協会・ファム・クアン・ダオ会長
在長野県ベトナム人協会・ファム・クアン・ダオ会長

ダオさんは技能実習生の指導役

ダオさんは、千曲市にあるプラスチック切削加工の工場に勤務している。

工場の従業員55人のうち約2割にあたる12人はベトナム国籍。技能実習生も5人いる。

ダオさんは正社員で技能実習生の指導役。

図面は全て日本語表記。日本語を理解するダオさんは頼りになる人材だ。

セプラ長野工場の山本朗史工場長は、「仕事をするときに言葉の壁というのはどうしても不安ですので、そこをダオ君が払拭してくれるので非常に助かっています」と、頼りにしている。

ダオさん(左)は技能実習生(右)の指導役
ダオさん(左)は技能実習生(右)の指導役

技能実習生のアンさん(来日4年目)は、「優しくて、困ったら熱心でちゃんと教えてくれる。困ったら全部ダオさんに頼みます。兄でもあり、友達でもあり、先生でもあります」と話す。

技能実習生・アンさん
技能実習生・アンさん

苦労の連続…協会設立のきっかけに

10月7日、千曲市のダオさんの自宅―。

ダオさんは同じ工場に勤める妻のトゥさん(30)、2歳になる長女のチャムちゃんと3人で暮らしている。

休日のこの日、別の工場で働くベトナムの友人2人を招き、ふるさとの味「フォー」と「春巻き」をふるまった。

休日、ベトナムの友人2人を招き料理を振る舞う
休日、ベトナムの友人2人を招き料理を振る舞う

ダオさんは北部のフートー省出身。道路工事の仕事をしていた23歳のとき、技能実習生だった友人から日本の話を聞いた。

それをきっかけに日本の文化にも興味がわき留学生として来日。

日本語学校とビジネスの専門学校で5年間学び、働き始めた。

ベトナムで過ごした20代の頃のダオさん(提供写真)
ベトナムで過ごした20代の頃のダオさん(提供写真)

今でこそ、暮らしは安定しているが、ここに至るまでは苦労の連続。それが「協会」を立ち上げるきっかけになった。

ダオさんは、「交通のルールとか免許の切り替えのやり方とか、日本語がわからないから日本人に聞きたくても難しくて。みんなが困ったら僕の体験を教えてあげて困らないようにしてあげたい」と話す。

専門学校卒業式のダオさん(中央)
専門学校卒業式のダオさん(中央)

技能実習生の間で事件頻発…

来日するベトナム人が増えるにつれ、胸を痛めてきたのが犯罪などの問題。

一時期、技能実習生の間で事件が頻発。サポートの必要性を強く感じるようになった。

ダオさんは、「ニュースでベトナム人が嫌なこと、悪いことをやってるんで、日本人のベトナム人に対するイメージが悪くなると思う。実習生だと学校で勉強することができなくて難しくて日本語が全くわからないと思う。ネットでみんなに『何かこういうことがあれば連絡してください』『話してください』とか、僕たちが解決することは難しいかもしれないけど、違うところにお願いして解決できる可能性が高いので、そうするとみんなが安全かな」と、少しでも住みやすい環境を作りたいとしている。

自宅でインタビューに答えるダオさん
自宅でインタビューに答えるダオさん

言葉の壁、ストレス、犯罪。

ダオさんたち有志は、大使館とも協議を重ね仲間たちが問題を抱え込まずに済むよう、「心のよりどころ」を目指し協会をつくった。

ベトナム大使館(提供画像)
ベトナム大使館(提供画像)

“つながり” 心のよりどころを

協会メンバーは現在15人。多くがダオさんと同世代。「つながり」を深めるためのツールはSNS。国民の9割以上が使用しているという「フェイスブック」でイベントなどの情報を発信し、困りごとの相談にも乗る。

「協会」のページのフォロワーは9500人。県外の人もいるが県内在住の8割を超える5000人以上がフォローしていて、協会が企画したサッカー大会には各地から200人近くが参加した。

ダオさんは、「協会ができて、みんなで一緒に話し合って、みんな『楽しいな』とか、困った人を助けると心から楽しい、いいなと。頑張ってやっていて僕も喜んでいる」と、成果を感じている。

協会が主催したサッカー大会(2023年8月、岡谷市)
協会が主催したサッカー大会(2023年8月、岡谷市)

地域との交流も深める

協会の活動を一般のベトナム人はどう見ているのだろうか。

ベトナム出身のタムさんが2022年、長野市権堂に開いたベトナム料理店「オールドサイゴン」。

週末はフォーやバインミーなど故郷の味を求めるベトナム人でにぎわう。

長野市権堂のベトナム料理店「オールドサイゴン」
長野市権堂のベトナム料理店「オールドサイゴン」

上田市在住のザンさんは、「一生懸命仕事をやって、活動もいろいろなベトナム人をつなげて、たぶんベトナム人の活動や将来がどんどん良くなると思う。ダオさんは素晴らしい人だと思う」

また、長野県立大4年のドゥクさんは、「留学生はそんなに苦しんでいる人はいないと思いますが、協会がなかったら実習生の皆さんとか不安があると思うが、今は協会ができたから、信じることができるところができたから、そんなに困らないですね」と、安心につながっているという。

店主のファン・ティ・ホンタムさんも、「このへんでもっとイベントをつくってほしい。ここが交流の場所になれるならうれしい」と、期待している。

店主のファン・ティ・ホンタムさん
店主のファン・ティ・ホンタムさん

協会は11月3日、長野市で開かれた国際交流のイベントに初めて参加した。

 

ベトナムのサンドイッチ「バインミー」に、伝統衣装の「アオザイ」を着て写真撮影した。

目標の一つは、「地域社会と打ち解ける」こと。

ダオ会長は、「日本人たちにも『僕たちこういうことをやっていますよ』とまだ少ないかもしれないけど、どんどんいろんなことを日本人と交流して、良いことやるように僕たちが頑張っていきたいと思う」と、意気込んでいる。

仲間をサポートし、地域との交流も深める。

ダオさんたちの活動が本格化している。

国際交流イベント(長野市 11月3日)
国際交流イベント(長野市 11月3日)

(長野放送)

長野放送
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