記憶力や判断力が徐々に低下する認知症の一つ「アルツハイマー病」の新しい薬が2023年9月、厚生労働省に承認された。臨床試験で症状の進行を抑える効果が確認されるなど実用化された場合、これまでにない画期的な治療法になると期待が寄せられている。

新薬「レカネバブ」とは

2023年9月、厚生労働省が正式に承認した「レカネマブ」。日本とアメリカの製薬会社が共同で開発したアルツハイマー病の新しい治療薬だ。早ければ年内にも使用が始まる見通しで、長崎県内でも関心が高まっている。

EISAI INC.
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アルツハイマー病の原因物質に直接働きかけ取り除くための薬が国内で承認されるのは初めてで、認知症疾患医療センターがある佐世保中央病院には「いつから使えるか」などの問い合わせが増えているという。

認知症の一種で約7割を占めるアルツハイマー病は、脳にたまった異常なタンパク質が神経細胞を壊し記憶力や判断力が低下していく病気だ。国内で使われている薬は、人の名前や約束を忘れてしまうなどの症状を緩和するものだが、新しい薬は原因となる物質(アミロイドベータ)に直接働きかけ、病気の進行そのものを遅らせることが期待されている。

佐世保中央病院 認知症疾患医療センター 福田隆浩センター長:
新しい薬を使うと5割くらい原因物質が減るとされている

進行を抑えることで患者や家族が日常生活を送れる期間が平均で約8カ月延びるというデータが示されている。

福田隆浩センター長:
例えば食事に関してまったく食べたことを覚えていないのが、食べたことは覚えているけど何食べたかは覚えていないレベルに改善している状況。その違いは全然違う、画期的

対象は病気が早い段階で分かった「軽度認知症」と、認知症の手前の「軽度認知障害」の人に限られる。また、点滴で薬を投与するため1年半、2週間に1回通院が必要で、治験では約2割の人に脳浮腫や脳出血といった副作用がみられた。

福田隆浩センター長:
薬自体が非常に高額になる可能性がある。アメリカでは日本円で大体1年半で約390万円かかると言われている。保険があるので多い人で3割、少ない人で1割負担。高額医療制度を使えばそこまで負担がないかもしれないが経済的に厳しい人は使いづらい

画期的だけど…若年性認知症患者は

日本は2年後の2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると予測されているが、若い世代も例外ではない。「若年性認知症」の患者は全国で3万6,000人近くいるとみられている。

長崎市に住む田中豊さん(54)。45歳を超えた頃からけん怠感がひどくなり、物忘れも徐々に増えていった。50歳のとき、アルツハイマー型の若年性認知症と分かった。

田中豊さん:
診断を受けたときは頭の中が真っ白になって、一人になると自分自身が真っ暗になった

妻・さおりさん:
あ、やっぱりそうだったんだと。今後の生活とか不安があった

田中さんは会社のサポートを受けながら仕事を続けたが、2023年春以降、手のしびれや幻覚、幻聴がひどくなった。主治医、会社と話し合い9月、20年以上勤めた会社を退職した。

田中豊さん:
「これだけ進行していたら仕事も何もできないね」と。いくら説明していても同僚からすれば「特別扱い、優遇されている」と突き上げがあったみたい。会社に行くのもつらくなって、うつ状態みたいになった

妻・さおりさん:
そんなに進行すると思っていなくて、早すぎたかなと

田中さんが認知症と診断された後、妻のさおりさんも持病で倒れ、当時中学3年生だった長女の優香さん(18)が家事を担うようになった。

田中さんの長女・優香さん:
もう3年くらい家事を担っている。お母さんが倒れてから誰も料理を教えてくれる人がいない状況で家事をしていた

優香さんはこの春県内の高校を卒業し、障がい者福祉施設への就職を目指している。

田中さんの長女・優香さん:
お父さんが認知症という治らない障害みたいになったけど、そのおかげで他の子が体験できないことを毎日体験している。障害のある子が安全に過ごせる場所を提供したい

退職後田中さんの体調は少しずつ良くなってきたが認知症は進行していて、今までできていたこともだんだん難しくなってきた。

田中豊さん: 
主治医から「年内に免許返納してね」と言われた。ブレーキの反応が前より遅くなって

田中さん自身は新しい薬を使う予定はないが、今後の研究に期待を寄せている。

田中豊さん:
軽度の人には希望になると思う。私はリスクが怖い

妻・さおりさん:
レカネマブ以上の薬が出れば

認知症“理解の輪”を

若年性の認知症に対して行政や経済的な支援だけでなく、周囲の理解もまだまだ不十分だと感じている。

田中豊さん:
見た目じゃ分からないから、わざとさぼるために嘘ついていると感じられたりする。認知症はそういう病気じゃない。一生ついて回る病気

認知症について知ってもらおうと田中さんは、自らの体験を語ったり、場づくりにも取り組んでいる。

田中豊さん:
当事者が言わないと理解してもらえない。こういう機会を作って理解してくれる人が増えたら

田中さんは長崎市内で月に1度 交流会を開いている。当事者や家族と気軽に話せる機会を通して認知症を個性として受け入れる理解の輪が広がればと話している。

必要なのは社会の理解と受け皿。意識を向けてもらうことが大切だ。

次回の交流会:2023年11月18日(土)午前10時~長崎市古賀地区市民センター

(テレビ長崎)

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