東北を代表する秋の郷土料理「芋煮」をご存じだろうか。山形県が発祥とされる、里芋を中心とした食材を鍋で煮る芋煮は、地域によって味や具材が異なり、それぞれが強い「芋煮愛」を持っている。この芋煮をめぐり、東北を揺るがす?熱いバトルが行われた。
この記事の画像(13枚)ソウルフード「芋煮」の由来
季節外れの暖かさとなった11月3日。仙台市中心部を流れる広瀬川の河川敷には、祝日ということもあり、「芋煮会」を楽しむ人の姿が多く見られた。
芋煮とは、里芋を主役に、こんにゃくやねぎ、きのこにごぼう、肉などを入れた鍋料理。そんな芋煮を河原などで楽しむ「芋煮会」は、東北の秋の風物詩の一つだ。
そもそも芋煮は、山形が発祥。その由来は諸説あるが、有力とされる説は以下の2つだ。
1.舟運が盛んな最上川の船頭が食べた料理説
最上川を利用した舟運が盛んだった江戸時代、船の船頭達が船着場の近くで収穫された里芋と京都から運ばれた干した鱈を、一緒に鍋で煮て食べたのが始まりとする説。京都でも里芋と鱈をあわせて炊く「芋棒(いもぼう)」という料理があり、それが伝わったともされる。
2.過去の風習説
旧暦の八月十五夜「芋名月」の日に、里芋を供える風習があり、そこから始まったものだという説。稲刈りなどが終わったあとに、収穫に感謝し、寄り合う形で芋煮会が始まったとの説もある。
一方、宮城の芋煮は、昭和40年代に河鹿荘という旅館に山形出身の女将がいて、この旅館で芋煮を提供したのが始まりとされる。その後、郷土料理の「おくずかけ」や、仙台味噌と合わせられ、広まったのだという。
土地ごとで異なる味・具材
山形を中心に東北に広まった芋煮。その味は地域によって異なる。
「肉は牛肉、しょうゆベースのスープ」に、里芋はもちろん、こんにゃく、ネギなどの具材を入れることが多い山形の芋煮。
一方、宮城は「肉は豚肉、みそがベースのスープ」に、里芋やこんにゃく、さらにゴボウや人参、大根に白菜など様々な野菜を入れるのが一般的だ。
このほかにも、福島では「浜通り、中通り、会津」でレシピが異なり、いずれも宮城と同じく豚肉が使われるものの、スープの味は、みそ味、しょうゆ味、みそ・しょうゆのミックス味が存在する。まさに、地域によって多種多様だ。
このように、具材も味も異なる芋煮だが、距離が近いながらも「似て非なる」宮城と山形の芋煮をめぐっては、両県で毎年のように「ある議論」が持ち上がる。
それは、「どっちの芋煮がおいしいのか論争」。その争いは、和やかに見える芋煮会の現場でも、火花を激しく散らせていた。
芋煮会「食べ比べ」でも火花
広瀬川沿いで芋煮会をしている人たちの元を訪ねると、同じグループ内で、別の芋煮を食べている人たちがいた。
話を聞くと、「宮城のみそ味」と「山形のしょうゆ味」の芋煮の食べ比べをしているという。実際、最近こうしたケースは珍しくなく、スーパーでそれぞれの「芋煮セット」が売られていることもあるほどだ。
仙台市出身だという女性に話を聞くと、「さっぱりした山形の芋煮と違い、宮城の芋煮は、みそが効いていておいしい」と慣れ親しんだ味が一番だと話す。一方、男性は先に山形風を食べた後で宮城の芋煮を食べるという。
一方、宮城風の芋煮を作っていた男性2人組に話を聞くと、意見は真っ二つ。1人が「山形芋煮派」なのに対し、もう1人は「宮城芋煮派」。話し合いの末、最初に宮城風の芋煮を食べ、その後に山形風の芋煮を作ることになっているというが、宮城芋煮派の男性は「宮城の芋煮推しなので、2つ目の鍋もしてやろうと思っている」などと話す。譲れない「芋煮愛」があるようだ。
「絶対に負けられない」芋煮バトル
時を同じくして、仙台市中心部の商店街であるイベントが開かれた。
その名も「山形VS宮城 芋煮バトル」。限定500食ずつ用意された、宮城と山形の芋煮を一般客に食べ比べをしてもらい、どっちがおいしいのか決めてもらおうというものだ。勝敗は割りばしによる投票で決まる。
それぞれの県の思いを背負った、絶対に負けられない戦い。芋煮を提供した各県JA担当者も固唾をのんで様子を見守る。
宮城出身だという親子に話を聞くと、子供がまさかの「山形芋煮」に投票。じつは父親の出身が山形とのこと。小さい頃から山形の芋煮を食べて育ってきたという。血は争えない。
一方、宮城の芋煮も負けていない。妻が福島出身だという夫婦は「みそがしっかりしていておいしい」などと話して宮城に投票した。
1時間半にわたる、両県の名誉をかけたバトルの結果は、発祥の地・山形に軍配。勝敗を決めた投票券代わりの割りばしの重さは、山形芋煮1.8キロ、宮城芋煮1.4キロだった。
山形芋煮勝利で幕を閉じた、今回の「芋煮バトル」。一方で、「両方おいしかった」という声は、イベントでも芋煮会が行われていた河川敷でも多く聞かれた。
非難し合っているようで、じつは尊敬し合う「宮城山形の芋煮論争」。最後は2つの鍋を一緒に楽しむ光景が、今年も秋を彩っている。
(仙台放送)